第17話 散髪屋ごっこ


今は門番のクエストがまたあったので気分転換にやっている。


「なんか髪が伸びてきた気がする」

「お前、髪が目にかかるぐらい長くなってるからじゃないか?」


そんなに長くなっていたのか。

いつも忙しいから気がつかなかった。


「私も長くなってきた気がする」


雫もそう思うのか。


「私は普段からちょっとだけ切っていたから長くなった気はしないな」

「お嬢様は違いますね」

「お嬢様言うな」


あの町に散髪屋なんてあったかな?

ある訳ないと思うけど。どうした物か。


「じゃあ私が切ってあげようか?」

「なんか怖いから嫌だ」

「辛辣」


雫はなんか怖い。

めんどくさいから一気にやっちゃえ!ってやってきそう。


「私はこれでも中学の時に美容師を目指して練習とかしてたんだからね」

「そうなのか?じゃあ頼もうかな」

「私も1回雫に切ってもらったことがあったな。短くしてもらう程度だったけど綺麗に切って貰えたぞ」


なるほど被害者がそう言うなら間違いないな。


「じゃあ切ってもらおうかな」



今はギルドの空きスペースにいる。

冒険者の休憩所みたいなところだ。


「ではお客さんどんな髪型にしますか?」

「雫、店員さんの真似でもしてるのか?」

「やってみたかったからね」


雫が夢が叶った少女みたいにとてもイキイキしている。

なんなら鼻歌まで歌い出した。


「でもひとつ気になった事があるんだけどいいかな?」

「なんだ?」

「なんで星奏を先に切るの?別に星奏は普段から整えているから大丈夫だよ?」

「そんなの理由はひとつじゃないか。まだちょっと怖いんだ、雫に切って貰うの」

「酷い」


仕方ない。

練習して綺麗に切ってもらったって言われていても素人だから怖いんだ。


「じゃあ綺麗に整えてくれ」

「かしこまりー」


雫は悩みながら緊張しながら星奏の髪を切っている。

確かに速さで言えば遅いがとても綺麗に切れていた。


「どうだ?」

「いい感じだな。これなら任せられるよ」

「どれだけ私に切られるのが怖いのよ」



「これは…綺麗に切れたな」

「でしょ」


雫が自信満々に言ってくる。

普通に短くなっただけだがなんの資格もない人が独学でやったにしては綺麗なできあがりになっていた、散髪に行ったのだいぶ前だから綺麗さなんて分からないけど。


「あなた綺麗に髪を切れるの?私も切ってくれないかな?」


突然知らない女性が話しかけてきた。年齢は20歳位だろうか。


「別にいいよ」

「それだったら私も」

「僕もいいですか?」


ぞろぞろと知らない人達が集まってくる。


「しょうがないなー」


雫は満更でもなさそうな顔をしている。

ちょっと嬉しそうだ。


「これが子供の成長か」

「なんでお前が親目線になっているだよ」


仕方ない雫は見た目が子供だから。


「雫の成長に泣きそうだ」

「お前と会ってそんなに期間経ってないだろ」


気持ちが大事なのさ。

星奏はこの事を全く分かってない。

「てか、あんなに人が集まるなら店でも開けばいいのに」

「あれなら借金して部屋を借りてもすぐに返せると思うぞ」

「だよな。いっその事あいつをこの道で食わすのはどうだ?」

「それは妙案だな。私達が借金してあいつに稼いでもらおう」

そしたら俺達は働かずに食っていける。

最高の生活だな。


「2人とも何話してるの?」

「あぁお前で稼ごうって話をしてたんだよ」

「言い方悪すぎだろ。雫に稼いでもらおうってだけの話だろ?」

「2人ともクズかな?」


何も言えねえ。今、考えれば確かにクズだな。


「お前もうあの人達の髪を切り終わったのか?」

「また後日って事にしたよ、人が多すぎるからね。それにお金は貰ってないよ」

「もったいないな」

「星奏、ちょっと竜に似てきたんじゃない?」

「それはちょっと嫌だ」


悲しい。勝手に馬鹿にされているんだが。


「俺はこんなにクズじゃない。金にはそこまで興味が無いんだよ」

「そうか、1万円玉とってこーい」

「ワーン」

「めちゃくちゃ興味あるじゃん」


1万円もあれば…1万円もあれば…


「美味しいご飯を食べる事しか出来ない」

「残念だったな。今日はそれでご飯でも食べよう」

「やったー星奏の奢りだね。最近出されてるご飯は全部美味しいんだよね」

「でも本当にもったいないよな。ゾンビがいなければ雫は専門学校に入ってるってことだもんな」

「私は星奏と同じ学校だよ?」


美容師を志しているのに専門学校じゃないってことか。尚更もったいない気もする。

あ、そうか美容師になるための高校なんてないわ。

ていうか、こいつら大工にだってなれるだろうに、でも本人がいいって言ってるならいいか。



「せっかくなんで散髪屋ごっこをしようと思いまーす」


急にそんな事を雫が言い出した。

昨日の事であじをしめたのか、またギルドの空きスペースに来ている。


(なぁ星奏、これどう思う?ただのおままごとだよな?)

(雫はそこまで幼稚じゃないぞ)

(でもごっこが付いてるじゃないか)

「2人とも何こそこそ話してるの?これを持って」


そう言って雫は髪切りますって書いてある看板を渡してくる。

「2人はそれ持ちながら無料で髪切りますって言ってくれればそれでいいから」

「はい!雫さん」

「どうしたのかね、竜」

「給料はどのくらいっすか?」

「私の感謝の気持ちだけです」


タダ働きかよ。人をなんだと思っているんだ。


「休み寄越せー、社員にだって人権はあるんだぞ」

「君、今日入って来たばかりだよね」


確かに今日開店だから今日入ったばかりになるのか。


「はい!雫さん」

「どうしたのかね、星奏」

「やりがいはなんですか?」

「お客様の笑顔です」


星奏も雫にのってやがる俺ものらないと。


「もういいかな?店を開けるよ」

「鍵は閉めてませんけどね」



「客がいっぱいだな」

「この町には散髪屋みたいな髪を切る場所がないからな」


てか、店自体ギルドの食堂位しかないしな。


「切る人雫しかいないけど大丈夫かなこの人数」

「とりあえず雫に頑張ってもらうしかないな」


俺が雫の事を心配してると。


「ありがとうこんなにも綺麗に短く切ってくれて」


雫の事は心配しなくてもよかったらしい。


「ツーブロックで」

「えっツーブロック?」


やばい心配になってきた。大丈夫かな?


「すいません当店では短くする以外の…」

「えーツーブロックやってよツーブロック」


迷惑な客が来たようだ。

年齢は俺達と同じ位の男性か。

こういう奴の相手は大変なんだよな。

関わりたくもない。


「すいません当店はそういうオプションはついてなく」

「えーじゃあもういいよ、帰る」


あの様なクソ客はもう来ないだろうなと思っていたら短くすることしか出来ないのかと客足がどんどん遠のいて行き。

片手で数えれる人数しかいない様になっていた。


「雫…大丈夫か?」

「ちょっとやばいかも」


雫の顔が青ざめているが残っているお客さんがいるためまだ正気は保てている。


「まだお客さんは残っているからな、大丈夫だぞ」

「うん…そうだよね」



「こんな汚く切りやがってふざけんな!」


あの後雫はどんどん調子が下がっていき。

最後のお客さんに関しては切る前は長いリーゼントだったのにトサカになっていた。


「もう雫散髪は本日を持って閉店です」


雫が完全に落ち込んでいる。


「次、頑張ろうな」

「これならゾンビに殺される方がマシだよ」


そんなに落ち込んでるのかよ。


「雫、大丈夫だ。雫はよく頑張ったよ。雫だってまだまだ若いんだこれからの未来があるだろ?」

「星奏…」

「雫…」


俺は何を見せられているのだろう。

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