第16話 運び屋

俺達は今、東京湾の近くに荷車いっぱいのタンクを持ってきている。

それは何故かと言うと。


「海水回収クエストって一体なんなんだよ。そんな楽なクエストがあるから俺みたいなやつが増えるんだ」

「それを自覚してるなら治して欲しいところだがな」


そんなの出来たら苦労しない。


「塩は海水からしか作る方法を知らないからね」


なるほどだからまぁまぁ報酬が高かったのか。

塩は生きるのに必要な物だからな。


「でもせっかく海に来たんだから泳ぎたいよな」

「今は冬だぞ?」


そう言えばそうだった。

あんまり服を変えないから分からなかった。

俺があの町に来た時が9月の中旬だったからな、今で4ヶ月ぐらいたったはず。


「正月何もせずに過ごしちゃったじゃねぇか。深夜まで起きたかった」

「そういえばそうだったな。忙し過ぎて忘れていた」

「お正月といえばおせちだよね。私は嫌いだけど」


分かる。俺もおせち嫌いだったな。

幼稚園児の時しか食べた事無いけど。


「私はよく食べさせられたから無理に好きになろうとしたな」


星奏の家ってまぁまぁ闇深いよな。

無理に食べさせられるとか怖すぎだろ。


「このタンクに入れればいいんだよね?入れたらまぁまぁ重いけど」

「これ荷車に乗せて持って帰ろうとしても引っ張るのが大変になりそうだな」


確かにそうだな。

どうやって持ち帰ろうか。


「サン達に引っ張って貰おうよ」

「それはいい案だな。サン達が運ぶってんなら荷車をもうちょっと大きくしようぜ」

「そしたら馬車ならぬ獅車だな」


それいいな。

獅車か、かっこいい。


「それに乗って旅をするのとか良くないか?」

「私の夢なんだ旅をするの」


星奏って意外とロマンチストなんだな。

まぁ俺も旅をしてみたいと思ったから冒険者になろうと思ったんだよな。

魔法を使ってみたいと思ったからでもあるが。

「じゃあ木材とか色々買って獅車作りやってみようよ」

「そうだな」

「てか、ここに来るのにもサン達に乗れば良かったな。来るのに30分もかかったし」

「お前、今まで普通に1、2時間歩いたことあるだろ。今更30分ごときで根をあげるなよ」


そういえば俺達、ゾンビを狩る時だいたい2時間はかかる場所に行っていたな。忘れてた。


「水を引き上げる道具とかないのかよ」

「そんな道具があれば苦労していない」


荷車いっぱいのタンク全てに海水を入れるのは想像以上に大変だった。


「入れたとしてもまぁまぁ重いから運ぶのも荷車に乗せるのも大変だね」


なるほど力仕事すぎて誰もやりたがらないから報酬が高いのか。


「正直舐めてたぜ。こんなに大変だとは」

「力持ちな奴がいればな」


力持ち、力持ち…有輝だ。


「有輝だ有輝。有輝を連れて来い」

「無理に決まっているだろ。何処にいるかすらも知らないってのに」


くそ!楽したい。

このクエストを破棄しようかな。


「破棄しようとか考えるなよ。適当に決めたの私達だし」


確かに。どうしたものか。

ここで現代知識無双をするのがよくある展開だがそんな大層な現代知識なんて俺は持っていない。

だが無ければ作ればいい。


「テコの原理を利用した物を作ろう。星奏、雫、手伝ってくれ」

「そんな暇あると思っているのか?」


そういうよねうん分かってたよ、分かってたんだけど何か悔しい。


「でもこのクエストで今日は終わりにしても良いし作ってもいいんじゃない?」

「それもそうだな。それで何をすれば良いんだ?」


雫様、まじ天使。

その見た目じゃなかったら告白してたぜ。


「確かテコの原理は作用点と支点を近づけて力点を遠ざければいいはずだから…よし、作るのを諦めよう」

「「なんなんお前」」


2人が凄く怒っている。

ちょっとでもテコの原理を使おうと思った俺が1番悪いから今の俺は関係ない。


「ごめんっていい所まで出たんだけどそれを実現するための材料が無い事に気付いたんだよ。だから俺は関係ない」

「ブラウニーに取ってこさせようか?」

「それだ」



大工スキルが高い雫と星奏に作って貰ったのがクレーンみたいなやつだ。

タイヤが付いてるから上げたやつを運びやすい。


「こりゃ楽チンだ。このクエストをまた受けても楽できるな」

「そしたら楽にお金を稼ぐ事ができるな」


楽に金稼ぎができるなんて最高じゃないっすか。

札束風呂も夢じゃないな。札なんてものはないが。


「あの宿からも解放されるんだね」


雫が泣きながら言ってくる。

雫も精神的に辛いのだろう。


「やったな」

「うん、やったよ。私達もう自由なんだ」


星奏が気まずそうにしているが今の俺だったら許してもいいと思える。



「やっと終わったな。ちょっと肩が痛い」


俺も痛いな。

これが肩こりか。


「じゃあサン達を呼ぶね」


ライオン達が来るまで暇だな。

そういえばここってゾンビの世界なんだよな、ゾンビ要素全くないけど。


「やばいぞゾンビ達が来やがった。数は…50体ぐらいだ」


フラグ回収しちった、てへぺろ。

でも俺達は能力者だ。

この程度屁でもないぜ。


「オマエラゴロズ」

「多分中級ゾンビもいる!」


流石にそれは聞いてない。中級って前に戦ったけど魔法使ってくるんだろ?


「逃げ場もないし俺達、バットエンドか」

「弱気になってる暇があるなら剣を構えてよ」


とりあえず頑張ろう。

この数のゾンビを持って帰る事できるかな。


「エアーウォール!これでゾンビ10体に集中できるな」


星奏がゾンビを分断してくれたおかげで中級ゾンビは遠ざける事ができた。


「これぐらいならなんとかできるな」


俺達は慣れた手つきでゾンビ達を倒していく。

この程度だったら魔法を使わなくとも倒せる。


「じゃあ開放するぞ」

「どうせ倒さないと帰れないんだ。また分断よろしくな」


星奏が勿論と言わんばかりに頷く。


「エアーウォー…」

「ジャマダ。グランドハンマー!」


中級ゾンビが地面から10メートル位のハンマーをだし思いっきり星奏のエアーウォールを壊す。


「壊しやがったぞこいつ」


星奏がこの世の終わりみたいな顔をしている。


「吹っ飛べ、トルネイド!」


俺は風魔法でゾンビ達を吹っ飛ばす。

中級ゾンビは吹っ飛ばなかったが。


「オマエラ…ゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズゴロズ」


なになに怖い怖い。急にどうしたんだ。


「チョットビックリシタ」


本当になんなんだあいつ?


「仕方ないあれをやるか、ファイアーストーム!」

「じゃあ私も、ファイアーストーム!」

「雫もやるのかだったら私も、ファイアーストーム」


2人もできるようになってた。

俺だけができるが良かったのに。


「なんでお前らも使える様になってんの?」

「竜を真似しただけだよ」


そんなんで?星奏と雫、真似の天才とかなんなかなのか?


「アツイナ」


ゾンビは首を切らないといけないのは知ってるけど。

ちょっとは悶もだえ苦しんで欲しい。

なんでケロッとしてるんだよ。


「しょうがないお前ら、作戦Aだ」

「えっ?あーあったねそんなの」

「あれか分かった」


作戦Aとは俺の透明化の弱点を補うための物だ。


「あーあーあー!おらーおらー!」

「あーーーーーー!」


星奏と雫は大声を出して俺の足音を聞きにくくしてくれている。


「竜のバカー!死ねー!こんな事やらせやがってー!」

「竜なんて死んじまえー!こんな恥ずかしい事させやがってー!」


星奏と雫にめちゃくちゃ馬鹿にされているが気にしては負けだ。


「死ねー!晩御飯奢れー!」

「今回の報酬、半分寄越せー!」


気にしたら…


「マザー〇〇〇〇〇!」

「クソガキ、クソ陰キャ、引きこもり野郎ー!」


キニシナイ、キニシナイはっはっは。


「死に晒せやー!」

「アッ」


ゾンビの首を切れた。

ゾンビは倒れたから倒せたのだろう。


「倒せた、倒せた」

「よかったね」

「よかったな」


星奏と雫はゴミを見る様な目で見てくるが気にしない。


「あとあんなに残ってるけど?どうする?」

「サン達が来てくれたし逃げる?」

「それの方がいいんじゃないか?倒しても持ち帰れそうに無いし」


やっぱりそうだよな急いで帰ろう。


「また中級ゾンビ倒したしもう買えるんじゃないかマンションの1室」

「あれは大体キメラの値段だったから400万もあったんだよ。今回の報酬も合わせたらこれで50万といったところか」


キメラ高すぎだろ。


「もう帰ろうぜ」


そう言い荷車に乗ってサン達に引っ張ってもらった。

今回でもうこのクエストは受けないでおこうと思った。

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