第13話 農作業

「早くそこ直せよ」


今、俺は農家の筋肉が凄いおじさんの畑の柵を直している。

なんで直しているかと言うと。


「今日はいい天気だな。こんな日は散歩に限る」


天気が良く休みの日だったので散歩に挑戦してみたら。


「うわー」


石に躓つまずいて転んだ先に柵があったせいで壊してしまったのだ。


「こんなの事故じゃないですか。許してくださいよ」


「いいよって言うと思うか?柵がなかったらゾンビが入ってきた時、すぐに畑が荒らされてしまうだろ?」


この町にゾンビが入ってくるなんて有り得ないだろ?

だって門番とかいるし。


「でも流石に何十メートルもある柵を全部直せって無茶じゃないですか?」

「壊した分際で何を言ってやがる」


ここはお金の力で解決だ。成金舐めんなよ。


「言っておくがお金の力でどうにかなると思うなよ?お金があったってすぐに直せる訳じゃないんだからな」


お金がダメなら人に手伝って貰うしか…星華は今日も魔法と能力の練習をするって言ってたし、雫は眷族探しに行ってくると言っていたし…呼ぶ人いねぇ。


「そういえばここで何作ってんすか?」

「口より先に手を動かせよ」


農家のおじさんが呆れた表情で言ってくる。


「秋冬は白菜、夏はなすだ。俺は茨城出身の農家だからなこいつらの扱い方はよく知っている」

「茨城ってそんなとこもありましたね。茨城って白菜となす作ってんだ。道理で目立たない訳だ」


農家のおじさんからの殺気がものすごいことになっている。

俺なんか悪いことしたかな?


「分かったならさっさっと手を動かせ。柵はまだまだ治っていないんだぞ」

「おじさんってなんで農家やってんの?そんな筋肉あるなら冒険者にでもなればいいのに」

「…そんな事言ってないで早く手を動かせ」


「もう日が暮れそうなのにまだ半分も終わってないよ」

「無駄口叩くな」


農家のおじさんまぁまぁ厳しい。

壊した俺も悪いけどさあんなの事故じゃん。


「あっ竜じゃん。そこで何してるの?」

「おっ雫か。俺はここで事故の後処理してる」

「また何かやらかしたの?」


またって言うなよ俺がやらかした事なんてないだろ?


「ちょっと転んで柵を壊したから直しているだけだよ」

「今日はもう遅いから明日来てやってくれ」

「本当か?ありがとう明日やるよ。雫、相談なんだが手伝ってくれないか?」

「しょうがないなぁ」


雫は嬉しそうな表情で言った。

やっぱり雫はちょろい


今はギルドの食堂で晩御飯を取っている。


「そう言うことなんだ星華、お前も手伝ってくれないか?」

「お前がいなきゃゾンビを倒すのも一苦労しそうだから別にいいが本当にお前何やってんだよ」


ちょっと転んだだけなんだがな。


「転んで柵が壊れるなんてどんなけ脆いんだよ」

「仕方ないだろ。こんな世界になってまともな木材なんて確保するのが難しいんだよ」


確かに人が管理していた木材がある場所なんてゾンビに占拠されてそう。



「来たか、早く終わらせろよ」


星華がなんでこんな事になっているんだという顔をしている。

俺だって転んだだけでこうなるとは思わなかったよ。

でも昨日やった所は全体の半分以下だったが3人でやったらあっという間に十数メートル位になった。

ていうか俺以外が早すぎる。

俺って遅かったんだな。


「おじさんの筋肉凄いのになんで農家なんてやってるの?」


それ、俺も昨日聞いたな、言ってくれなかったけど。


「それは…終わったら教えてやるよ。それが終わったら農作業も手伝え。お前のせいで少し遅れているんだ」


おじさんが俺に指をさしながら言ってきた。

ていうか雫が頼んだら教えてくれるっておじさんそういう趣味だったのか。


「てか、お前ら早すぎじゃね?なんでそんなに早く出来んだよ?」

「学校でノコギリとかカナヅチの使い方を習ったんだよ」


俺、小学校5年生まで行って中学校1年生でちょっと行っただけならこんなに遅くても大丈夫だな。

学校で習っただけでそんなに早く出来るようになるもんか?



「やっと終わったな。疲れたぜ」


柵の修理がやっと終わった。

2人を呼んだおかげですぐに終わった。


「おじさん、終わったぞ。次は農作業を手伝えばいいんだろ?」

「そうだ、早く手伝ってくれ」


農作業とかやったことないがいけるのか?

桑くわとか持つのだろうか?


「じゃあ雑草を取ってくれ」


俺が思っていた農作業と違う。

でも贅沢は言ってはいけないか。


「うわ!芋虫がいる。俺、虫無理なんだよな」

「情けないやつだな。私位になれば芋虫位楽勝…すまん竜、私も無理だ」

「えっ?2人とも無理なの?まぁ私も芋虫は無理だけど」


どうすればいいんだよ。


「ここはクロに食べてもらうしかないね」


そう言って雫はツバメを腕に乗せた。


「この子はツバメのクロ。私の新しい眷族だよ」


なるほど、ツバメに食べてもらえばいいんだ。


「でも1匹で大丈夫なのか?」

「クロに友達を呼んでくるように言っておくよ」


ツバメにも友達がいるのかよ。

俺なんて今、2人以外に友達いないんだぞ。


「雫の能力で虫をどっかにやれないのかよ」

「虫は流石に無理だよ。前に1回試したけどなんにも言う事を聞いてくれなかったんだよ」


虫は動物に入らないってことか。


「後はクロ達よろしくねぇー」


大量のツバメが虫達を蹂躙じゅうりんしている光景を俺達はずっと見ていた。


「そういえばおじさんは?」

「家の中に入っていってたぞ」


あいつサボってんのかよと思っていたら突然おじさんが家から出てきた。


「おい!ツバメ達を追い返してくれ。そいつらは畑の野菜を食っちまうんだ」

「こいつらは大丈夫なはずですよ」

「大丈夫な訳あるか。そいつらに何度も畑を襲われているんだぞ」

(雫、これをどう説明すればいい?)

(普通に能力で操っている子達なんで大丈夫ですって言えば?)


それもそうかと思っていると


「おい!野菜を食い始めたぞ!早く退治してくれ!」

(おい雫、あいつら本当に操れてんのか?)

(退治してとしか言ってないからかも)


絶対それだろ。

帰ってもらうように言っておくか。


(雫、クロ達に帰ってもらうように言ってくれないか?)

(もうやってるよ。でもクロ以外の子達はなんにも言う事を聞いてくれなくて)


クソが!



頑張ってツバメ達を追い払った。

なかなか退いてくれなかったが雫が無理矢理言う事を聞かせてくれたおかげでなんとか追い払えた。

雫は無理矢理言う事を聞かすのをためらっていたが。


「芋虫は…いないなこれならいけるぞ」

「全く、男の癖に情けないな」


それ、今の時代じゃ問題発言だぜ。

小学校で聞いただけだがな。


「そう言う星華だって芋虫ダメだったじゃねぇか。人の事をとやかく言うなよ」

「仕方ないだろ?私はいつも虫が出た時は雫に頼っているんだよ」


雫、芋虫ダメだったのに?


「私、芋虫は何かダメなんだよねぇ。他はカブトムシの幼虫とかそれ以外だったら大抵大丈夫なんだけど」


そう言えば、雫は前ギルドの宿でGが出た時も難なく外に出していたな。


「お前ら話す暇があるなら手を動かせよ」



雑草を取り終わった時間にして3時間はかかっただろうか。

今はお昼ご飯の時間である。


「ご苦労さん、おにぎりなら作ってやったがいるか?」


おじさん、あんたそんなに優しくなかっただろ。


「じゃあ、ありがたく。いただきます」


…めっちゃ美味しい。

塩加減がちょうどいい。

2人もあまりの美味しさに少し涙が出ている。

ギルドにこんなに美味しいご飯あまり無いもんな。


「なんでそんなに泣いているんだ?」

「美味しくて美味しくて。ていうか、こんな状況でも塩ってあるんですね」

「そりゃ塩は近くの海の海水から作ったものがあるに決まっているだろ。それ食ったなら早く水やりをやってくれ」


次は水やりか。


「もうひと頑張りしますか」

「お前ってそんなやつだったか?」

「もっと自堕落な人だと思っていたよ」


酷い言われようだ。

もうちょっと頑張ろうと言っただけでこんなにも言われるなんて。


おじさんからジョウロを受け取り今から水を汲くみに行く。


「水場って近くにあるのか?」

「確かこの辺には水を貯めておくため池が作られてあったはずだ」

「ここからまっすぐ行った場所にあるぞ」



まっすぐ行って3分もしないぐらいで着いた。


「空じゃねぇか」

「おかしいな。無くなったら補充されるはずなんだが」


ため池に水は全くなかった。


「もう魔法で出そうぜ。水ならバレんだろ」

「町で魔法を使ったらすぐにバレてしまうようにできているんだよ。ただでさえ魔法は得体の知れない存在だからな」


確かに、でもどうすれば。


「許可取ってきたら?」

「「それだ」」


雫が完璧なアイデアを出てきたそんなの思いつかなかったぜ。


「でも何処に許可を取ればいいんだ?」

「この町の貴族じゃない?」

「それなら私が行ってこよう。お前達はここに居てくれ。絶対にここから離れるなよ。絶対だからな」


そんなフリにしか聞こえないことを言って星華は何処かに向かって行った。


「しょうがない、ついて行くか」

「ダメだよ。絶対に行っちゃダメだからね」


雫がずっと俺を引っ張る。


「どうしても行きたいんだ。行かせてくれ!どう見てもあんなのフリにしか捉えられないじゃん」

「ダメだって言われたでしょ」


こうなったら仕方がない。


「魔法は使ってはいけないけど能力は使っていいよな。お前だって使ってたし」


能力も魔法と一緒で魔力を使うのだが町で使っても何も言われない。

有輝だってゾンビ教の教会で身体能力あげていたしな。


「かかってきなさいよ。竜ごとき私の敵ではないわ。動物に愛されし者である私が引く訳が無い!」


雫…お前発病しちゃったのか厨二病。

大丈夫だぜ俺は発病した事はないが理解はあるからな。


「光を操りし者である俺がやられると思うなよ」

「お前ら何やってるんだ?そんな恥ずかしいセリフを言ってないで早く行くぞ。許可はしっかりとってきたからな」


星華が狙ったようなタイミングで帰ってきた。


「てか、お前ら発病しちゃったんだな厨二病」

「「これは違うから!」」



無事にため池に水を入れ終えジョウロに水を汲んで畑に戻って来れた。


「お前ら遅かったな」

「ため池に水が溜まっていなかったんすよ」

「昨日はある程度あったはずだが」


この際、ため池の事はもういいや。


「てか雫のせいで星華に変な誤解されちゃったじゃん。責任取れよ」

「私だって竜に責任を取ってもらいたいよ」


こっちはお前にのっただけなんだが。


「てか、水やりちょっと楽しいな」

「そうか?私はなんとも思わんが」


全くこれだから最近の若者は俺を見習って欲しいぐらいだ。

満遍なく水やりを終えた。

かなり達成感がある。

時間はもう日が沈み始めている。


「おじさん、終わったよ」

「そうか、じゃあもう帰っていいぞ。次からは気をつけろよ」

「ごめんなおじさん。じゃあな」


そうして俺達は帰路に着いた。

そういえばなんでおじさん農家やってんだろ聞くのを忘れたな。

まぁいっか。


[絶対に言える訳ないよなゾンビが怖いからって。そんな事を言ったら舐められるかも知れないし。てか、今日は楽できたな。あいつ、また柵を壊してくれないかな]

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