第6話 嫌な夢

今日はいつもより長く寝ることができて気分がスッキリしている。


「今日はなんか気分が良さそうだね」


朝食中の雫が話かけてくる。

でも何故か機嫌が悪そうだ。


「分かるか?この感じ。今日はなんといつもより長く寝れたんだ本当に嬉しい限りだ。神が俺を称えてくれているんだ、今日も頑張ってねって」

「あー、そういえば私もいつもより長く寝れた時は気分が良かったな」


やはりそうか。

あの地獄みたいな場所での眠りはかなりハイレベルな技だしな。

ましてや雫は夜の誘いがたまにくることがあるせいでかなりストレスが溜まりやすいことを考えたらかなり嬉しいだろうな。

そんな事を話していたらいつも通り星華がやって来た。


「おはよう竜、雫。…なんか今日の竜はいつもより機嫌が良さそうだな」


そんなに分かるもんなの?

俺ってどれだけ分かりやすいのだろうか?

いや、いつも機嫌が悪いのか?どっちなんだろう?


「それより今日もゾンビを狩り行くぞ」

「今日はいつもより遠くに行かないか?」


余裕な顔で言ってやった。

星華は少し引いている気がする。

でも今の俺だったら何でもできる。

そんな気しかしない。

光を操る能力だって扱えるはずだ。

今日ならな。


「別にいいが大丈夫か?今日のお前なんか変だぞ?」

「俺が変なわけがないだろう?ていうか、早く冒険者ランクあげてクエストを受けれるようになってお金を稼ぎやすくしないとずっとあんな場所で暮らすはめになるんだ」


それを言うと雫が頷いている。

クエストを受けられるのはDランクからだ。

俺は早くこんな生活辞めたいんだ。

もうプライベートがないとこなんかで寝たくない。

たまにお金を盗られそうになるし、うるさいし。


「まぁ別にいいよ」

「今日の雫どうしたんだ?いつもより元気がないぞ?」


星華が雫に聞いた。

俺も気にはなっていたから物凄くありがたい。


「今日なんか嫌な夢を見たんだ。助けを求めてる声が聞こえたけど何も出来なかったような悲しい夢」


雫が真剣な表情で言う。

雫は前に頼られて嬉しいと言っていたし誰かに頼られたのに何もできないことが悔しかったんだな。


「そうか、いつでも相談に乗ってやるからな。で、本当にいつもより遠くでいいのか?」

「それについては大丈夫だよ。私だってあんな所にもう居たくないもん」


えっ?本当に行くの?ちょっと怖くなってきた。

雫が夢の話をしたせいで何も出来ない気しかしない。

雫の夢に出た助けを求める声が俺じゃなきゃいいけど。



ここは町から出て1時間歩いたら着く市街地。


「おいゾンビ達が後ろから来た足止めを頼む!」


「任せろ。フリーズ!」


「ゾンビ達が前から大群で来たよ援護をお願い!」


「分かった。連続ファイヤーボール!」


なんでこんなに魔法を使いこなしているかと言うと寝れなかった時にずっと魔法のイメージをする練習をしていたからだ。

おかげである程度魔法は使えるようになった。


「ふぅ、助かったありがとう」

「ありがとね」


感謝されるってなんだか嬉しいな。

頑張った甲斐がある。

ていうか感謝されたことなんてこれまでにあったかな?


「ちょっと重いよこれ」


今はゾンビを倒したから荷車にゾンビを乗せる作業をしている。

雫はちょっと太っているゾンビを運んでいる。

星華は慣れた手つきで2体のゾンビを同時に担いで運んでいる。

俺はこの作業にはまだ慣れていない。

だってこの作業は死体を売るために運んでいるから少し罪悪感が湧くし頭を運ぶ時なんかは少し気持ち悪くなって吐き気がしてしまうからな。


「この調子で行けばマンションの一室ぐらいなら買えるかな?」

「マンションの一室は難しいと思うけどまぁまぁいい宿で暮らせるぐらいにはなると思うよ」


マンションの一室ってそんなに高いの?

ゾンビ一体一体の単価自体はそこまで悪くないと思うんだが?

そんなたあいもない話をしていると後ろから恐ろしい気配を感じた。

そうそれは前にあった能力持ちゾンビみたいな、いやそんなものよりももっと恐ろしく禍々しい気配が2つも。



「あの気配、能力持ちゾンビか?でももう一方はチーターとライオンが混ざって尻尾が緑色になってるキメラにしか見えないんだが?」

「動物も能力持ちがいると聞いたことがある。だがあんなキメラみたいなやつは見たことも聞いた事もない」


あの何でも知ってますよていう感じを出してる星華ですら知らないのか。


「前に新聞で見たライオンとチータの交尾をしてできた子供ってもしかしたらこの子のこと?」


雫の言葉でそんなこともあったと思うがいくらなんでも動物が成長するには早すぎる気がする。

てか、出産するのにも早すぎる気がする。

でもこんな世界になってしまったら常識なんてあるだけ無駄な気がする。

人型のゾンビはフードを被っていて顔が見えない、でもこっちを見ている気がする。


「何かおかしいぞこいつ。ゾンビなのに知性があるようだ」


ゾンビは普通、目の前に動いている物体があればすぐに襲いかかるような知性がない奴らなのにも関わらずこいつはずっとその場に立っている。


「もしかしたら上級ゾンビの可能性があるな。上級ゾンビは人並みぐらいの知性がある。でもこの感じ、前に見た能力持ちゾンビと同じ気配もするから上位ゾンビが能力を持ってしまった可能性もある」


何その強そうな組み合わせ。

勝てるわけが無い。

俺は数秒こいつらと戦って勝てるかと考えたが


「よし逃げよう」

「そうだな」

「そうだね」


死んでしまったら元も子もないしな。

後ろを向いて荷車に向かって走ろうとしたがキメラが空中をジャンプして俺らの前に立ち塞がる。

空飛ぶタイプの能力か、なるならそっちのが良かったな。

キメラは空を飛んでんのに、俺は光操るだけとか本当に泣きそう。


「オマエラジャマ二ナルカモシレナイ、ダカラコロス」

「ゾンビが喋ったぞ!」

「喋れるのは中級ゾンビでもかなり上の存在のはずだ」


てか邪魔になるって、何か計画的なものがゾンビ達の間にあるのか?

でもあいつ殺すって言うならこっちは死にたくないんでな。

俺は俺が生きてる限りはどんな世界でも楽しく生きてみせる。


「おらーかかってこいや。ド三流が!こちとらお前みたいなゾンビ何体も狩っているんだぞ!」

「バカ!なんで挑発をしてるんだ?ここはお前の能力を使って透明化して逃げればいいだろう?」


あっそうだった。星華が必死な顔をして言ってくる。


「それに私達そこまで強いって訳でもないし」


雫が泣きそうな顔をしている。…いやちょっとまて。


「俺、そこまでこの能力使った事ないから使い方わかんないんだけど?それに相手のキメラ、多分かなり耳いいよ?俺たちがゾンビにやったみたいに足音聞かれて瞬殺だよ?」

「「あっ」」


2人がさっきまでの顔が嘘みたいに唖然としてしばらくすると現状をやっと理解したのかこの世の終わりみたいな顔をしている。


「オマエラサイゴ二イイノコスコトハ」


クソここまで来たらやるしかねぇじゃん。

覚悟を決め、深呼吸をした。

雫と星華も覚悟を決めたように構えている。


「かかってこいや青二才が俺ら舐めてんじゃねーぞゴラァ!」

「私達にケンカ売ったこと後悔させてやる!」

「えっと…私は。…ええい!とにかく生き残ってみせるよ」


全員が決めゼリフみたいなのはく。

2人はまだ厨二病が治っていなかったようだ。

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