第3話 新生活の幕開け

能力持ちゾンビを倒して歩き続けて数時間。

今もう夕焼けが見える時間帯。


「着いたぞ」


星奏がそう言った瞬間俺は驚愕した。

石の壁が高すぎる。多分30mはある。

ここがゾンビ達からの避難所か。

この石の壁建てるのに絶対時間かかったよな。

本当に俺ずっと引きこもってたんだな。


「すいません身分証を」


門番らしき人に言われるが。


(ないんだがどうすればいいんだ?)

(ここは任せて)


どこか嬉しそうな顔で雫が言った。


「すいません、この人まだ避難ができてなかった人で身分証がないんですが、入ってもよろしいですか?」

「もう数ヶ月も経っているのにですか?少し待っていてください」


何やら慌てた様子で騎士っぽい人が町に走って行った。多分上司か誰かにどうすればいいのか聞きに行っているのだろう。

そして日が完全に落ち、満月が上り始め、街頭に火を灯している人が現れた頃。


「すいません、遅くなりました。早急な身分証の作成が必要なため500円ほど頂戴します」


俺はもちろんお金を持っていない。

まぁいいか、星奏にでも借りよう。

そう思っていると。


「はい」


雫がまだ何も言ってないのに出してくれた。

雫は見た目が幼いので子供が大人のために子供にとったら大金と思われる額を出したと門番の人に見られたのだろう。

門番の人に汚物を見るような目で見られた。

俺、何も悪くないよな?



「ギルドはあそこだ。あそこでこのゾンビ達を売る」


そう言って指を向けた先は多分タワーマンションだったものだろう。俺たち以外にも荷車を引いている奴らは結構いる。


「…なんかごめんね。頼って貰っていたから嬉しくてつい」

「いいよ別に。俺はそこまで周りの印象を気にするやつじゃないしさ」


そう俺は心が広いのだ。

後、雫は見た目が幼いせいで謝られると凄く罪悪感が湧く。

悪くないはずなのに凄く悪い事をした感が湧く。


「とりあえず、換金してくるから冒険者登録してこいよ、冒険者登録すれば未成年でも町の外に出ることができるからさ」


そう言って換金所に向かった。

冒険者登録所って看板あるしあのカウンターだな。

何故か雫が着いて来た。

ていうかお金の見た目が変わってたな。

雫がお金を出す時に出した財布の中身をチラ見したが、お金に紙幣がなく全て金属製になっていた。


「あのー冒険者登録をしたいのですが」

「はい分かりました。では1000円ほど頂戴します」


またかよ、手持ちがまだないって言うのに。どうしようかと考えていた時。


「はい!お姉さん」


あっ受付の人、汚物を見るような目で見ないでください。



「本当にすまなかった。お金がいることを忘れていた。本当だぞ、だからそんな目を向けるな」


俺は俺の印象を下げた張本人を睨んでいる。

雫はまたやってしまったという顔をしていた。


「はぁ、とりあえず安めで泊まれる場所を探したいんだがどこにあるか分かるか?」


冒険者認定カードを貰った事で16歳で未成年だけど保護者の許可無しでどこかに泊まることができるようになった。


「そうだな、このギルドが経営していて冒険者なら泊まれる場所はあるが」

「星奏はいいよねぇ。家がこの街にあって、私はないからずっとギルド泊まりだよ」


もしかして相当やばいとこなのかそこ?


「正直泊めてやりたいのは山々なのだが、私のお父さんがちょっと…」


星奏の親父もヤバい奴なんだな。

ていうか、星奏の親父は一体何をしているのだろう?

娘にこんな危ないことをやらしておいて。


「ここどんだけ悪いの?」

「どうせ今日泊まるからすぐ分かるよ」

「じゃあまた明日」


星奏は逃げるようにギルドから出ていった。

嫌な予感がする。

能力が光を操るだけになってしまった時以上の嫌な予感が。



「これは酷い」


嫌な予感は的中した。

多分マンションの部屋の壁を壊して部屋を広くしたのだろう。

凄く汚いし個室がない。

トイレは男女で一応別れてはいるが見ようと思えば見えてしまう。

そして大部屋の中でみんなでハンモックみたいなやつで寝ると言った感じだ。

いびきがうるさいヤツだって当然いる。

それにプラスして夜の営みをやっている音が聞こえてくる、というかその音が大半だ。

それが気になりすぎて寝にくい。

かろうじてお風呂場は男女別になっていたのが救いだった。

お風呂場までトイレみたいな感じだったらという事を考えたら本当に泣きそうだ。

明日も頑張らないといけないから早く寝たいのに。

雫は…こいつもう寝てやがる。

この環境に慣れすぎだろ。

あぁせめてプライベートな空間が5分、いや3分は欲しい。

今までの生活ってかなり贅沢だったんだな。

これまでの当たり前に感謝、引きこもり生活に感謝。

てか、プライベートな空間があったとして何をオカズにすればいいんだ?

雫は…俺のタイプじゃないし、星奏もタイプではないしな。

何を考えながらすればいいんだ?

そんな事をずっと考えていたら朝を迎えてしまった。



「眠い」


昨日の夜は散々だった。

考え事をしていたら全くと言っていいほど寝れなかった。

今はギルドが経営している飲食店で朝食を食べている。 ふと横を見たら新聞が売っていた。

こんな時になっても新聞は売っているんだな。

これからは知っているだけで上に立てることが多くなりそうだし買っておくか。

後、新聞を読みながらコーヒーを飲むやつをやってみたいと思いメニュー表を見たがコーヒーはなかった、というか飲み物が水しかなかった。

コップ一杯で150円位する水しか。

てかなんでガラスのコップがあるんだよ。


「新聞を1部ください」

「1000円になります」


たっか。まぁ電気も使えないのに100部ぐらい作っていることを考えたらそりゃそうか。


「おはよー、よく寝れ…あぁその目の下のくま、全然寝れなかったんだね」


雫があくびをしながら近づてきた。

雫が昔は私もそんな感じだったなー的な昔を懐かしんでいる顔をしている。

俺も早く慣れないとな。


「なんでお前あんなすぐに寝れんの?」

「慣れかな。後はまぁ耳栓してるし」


俺も買っておこ。

音が聞こえないだけで随分楽そうだ。


「新聞買ったんだね」

「さすがにこれまでを反省してな」

「世界的大事件すらも知らなかったんだもんね。ええと、どれどれ?ライオンとチーターが交尾している所が発見され、動物の生態系そのものが変わっている恐れあり。至急冒険者ランクD以上の人は受付で調査クエストの受注をってなんだか物騒になってきたね」


普通では有り得ないことが起きている。

これもゾンビのせいなのだろうか?

てか、ライオンとチーターは動物園からでも逃げ出したのだろうか?


「そういえば冒険者ランクってなんだ?」

「冒険者ランクはFからSまであって何か凄いものを持ってこれたら昇格っていう感じかな。高ければ貴族から護衛任務だったりを貰えたりギルドがだしてるクエストを受けられたりする感じだね」


貴族って中世かよ。

ここは本当に日本なのか?

異世界にでも迷い混んだのだろうかと考えていると。


「竜、雫、いるか?今日は少し遠くに行こうと思うんだ。遠くならゾンビが沢山いるしかなり稼げると思うんだ。それに竜には早く自分の武器ぐらいは買って貰わないと困るからな」


突然店に入ってきた星奏がそんなことを言ってくる。

でもまぁ俺は昨日、お泊まりセットと動きやすそうな着替えと宿代それに夕食と今食べている朝食と新聞でもうすっからかんだ。

それに剣も星奏の予備の武器を借りてるだけだしな。


「分かった」


後、もうあんなところに泊まりたくないし早くお金貯めて家でも買おう。

そう心に決めたのであった。

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