第6章 ロザリア平原の決戦(2)

 ロザリア平原での戦いは続く。押されているように見えるウェスハリア重装歩兵が実は、実は自分たちのパターンAどうりに後退しているのだとしたら。最初凸型だった隊列は、しだいに凹型へと形を変えて行く。凹型の頂点はさらに複雑な動きでまるで魚の網のような形の曲線ラインを作っていく。そしてロザリア歩兵の後ろからは、騎兵どうしの戦闘に勝った弓騎兵が背後を突く。ロザリア歩兵はまさしく袋のネズミ状態になってしまった。これが異世界で起こったカンネーの戦い。『ロザリア平原の決戦』である。

 この戦いでウェスハリアの犠牲者2千人に対し、ロザリアの犠牲者は5万を超えた。そして捕虜は奴隷としてウェスハリアに贈られる。捕虜は大事な労働力なのだ。

この戦いでは魔法兵が余り意味をなさなかった。こちらが防御型の戦闘であったこと。接近戦が主だった事が要因である。

 ロザリアの9万のうち5万が消滅したのは、50%以上の損害である。これは近代戦では部隊全滅を意味する。5メートル程の槍がこの異世界の戦闘を変えたのである。これによって戦闘はゲンブルグの出現前と以後に分かれる。


 ヲォーデンは、また武器屋に報告書を書いていた。まるでカエサルだな。とゲンブルグは思った。カエサルも自分の功績をローマ市民に報告していた。「ガリア戦記」は有名である。彼はこの文書によって皇帝になったといっても過言ではない。ゲンブルグはヲォーデンに「せいぜい派手に書けよ。」と声をかけた。

 ウェスハリア市民の人気者になることが、ウェスハリア皇帝への近道なことは確かだ。それには常に勝ち続けることが必要である。せっかく異世界に来たんだから皇帝を夢見るのは、何の不自然もない。「俺にカエサルと同じことが。」と、ゲンブルグは自問した。

 しかし、結果は戦績が示す。すでに2勝。しかも大勝である。やってみるしかない。ゲンブルグは工兵と軽装歩兵にロアール川の渡河ポイントに頑丈な橋を架けることを命じた。そしてゲンブルグ自らが考案した攻城兵器を4台作らせることも命じた。これから小王国ウェスタの首都タバールを攻めるためである。

 そして、ゲンブルグは皆の前で演説した。「この冬の最後の戦いを一か月後に行う。攻め落とすのは小王国ウェスタの首都タバールだ。この戦いに勝ったら農民出身のものはウェスハリアに帰ってもいい!!。しかし、収穫が終わったらタバールまで戻って来てほしい。戦いは長く続くそれだけは覚悟していてくれ。」

 これには農民出身のものは喜んだ。農民出身のもは第五師団の6割を超える。春になると農民は浮足立つのだ。ゲンブルグも皆の不評を買ってまで、軍を前進させることはしたくはなかった。

 ゲンブルグはせっかくもらった第五師団を大切にしたかったのである。ゲンブルグの考えでは「ロザリア征服には少なくとも6年はかかる。焦ることは無い。」との判断だった。

 また「ウェスタのヒルマン王を味方にできればしたい。」とも思っていた。戦わずに勝つならそれが一番だと孫子の兵法に書いてあったような気がする。

 とにかく次は攻城戦だ。工兵がモノを言う。そして第五師団の工兵ほ優秀である。


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