第5章 ロザリア平原の決戦(1)

 ゲンブルグの第五師団はアラーノ砦を出て目の前の森を北進した。ゲンブルグは急いでいた。

 重装歩兵ファランクスは平原でその力を発揮する。森の中で戦うのは不利だ。こんな時は重装弓騎兵、軽装弓騎兵が役に立つ。彼らは偵察しながら前へと進む。そこを魔法兵、重装歩兵、軽装歩兵、工兵、補給部隊の順に警戒しながらついていく。たまに、ウェスハリアに寝返った部族長とその連れの兵士たちと出くわす。それらも含めて第五師団の戦闘力は上昇していった。


 第五師団は大きなロアール川に行く手をさえぎられた。この川を渡ればロザリア平原である。しかし渡河ポイントはじっくり選ばなければならない。渡河ポイントを間違えれば全滅の憂き目に遭う。ゲンブルグは中州のある緩い川の流れを探した。15分ほど探すと渡河できる流れの穏やかな場所が見付かった。ゲンブルグはまず主力の重装歩兵を対岸に渡らせた。重装歩兵なら奇襲に対して一番応用が利くからである。それから重装弓騎兵、軽装弓騎兵、軽装歩兵、工兵、補給部隊、魔法兵の順に川を渡らせた。


 遂に第五師団はロザリア平原に入った。ゲンブルグは勝負に勝ったと大喜びした。そして、第5軍の前でひと演説ぶった。

 「我々は戦う前に勝った。たとえ敵の軍が我らに倍するとしても君たちはいつものようにパターンAをそつなく実行すればいいだけだ。神に感謝を!!」

 そういって皆に、軽食を取ることを許した。そしてしばらくの休憩の後、第5軍は戦闘隊形に移った。いわゆるパターンAである。左から順に重装騎兵、しして重装歩兵ファランクスを凸型に弓のように広げた。そして凸型の頂点は、ほかのファランクスの2倍の厚みの陣形をとった。そして右側には軽装騎兵である。


 果たしてその日の午後、ウェスハリア帝国第五軍とロザリア連合軍はこのロザリア平原で相まみえた。ウェスハリアの戦力は5万5千の実働部隊、対するロザリア連合軍は9万の実働部隊。ウェスハリアの指揮官はゲンブルグ=フォン=ファーレンハイト、ロザリアの指揮官は小王国ウェスタのヒルマン王である。

 ロザリアは兵力で相手を圧倒していたが装備が貧弱なこと、川と森のおかげで相手を包囲できないことが不安材料だった。

 対するウェスハリアは兵力の不足、また実戦はアラーノ砦の殲滅戦だけである。しかし、ゲンブルグには戦いの向こう側が見えていた。ローマとカルタゴのときの名将ハンニバル、彼のカンネーの戦いを知っている読者ならこの戦いの先が見えていることだろう。

 

 攻撃はロザリア側から始まった。まずは両翼に配置した騎兵を前進させる。ウェスハリア側も騎兵を前進させる。ウェスハリア側の騎兵は弓兵でもあるのでロザリア騎兵の馬を次々と撃っていった。一旦ロザリア騎兵は後退する。ウェスハリア騎兵はそれを追って行った。


 と、ここまでは前哨戦である。ここからが本番である。次は歩兵と歩兵のぶつかり合いである。ファランクスの戦闘力は他の歩兵に比べて数段高い。だが、重装歩兵は守りを固めて前進しない。ファランクスは防御力も極めて高い。しかし、ウェスハリアの重装歩兵は段々と後退し始めている。ゲンブルグは思った。これが、カンネーの戦いの再現かと。

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