第4章 アラーノ砦攻防戦

 冬が近づいていた。ロザリア人は半農半戦民族である。だから冬が来ると彼らは侵略してくる。彼らはまずウェスハリア帝国の北の要塞であるアラーノ砦に対して攻撃を繰り返しながらウェスハリアに侵入してくる。ウェスハリアの北に住むものは、奴隷になったり、殺害されたり、といった事から逃げなくてはならない。すると北部の人口は少なくなる。余計にロザリア人が侵入してくる。といった具合である。ウェスハリアは衰退するばかりである。

 アラーノ砦はウェスハリア帝国の最北端に位置し、三万人を収容できる超巨大要塞である。この砦にウェスハリア帝国の第五師団が近づいていた。第五軍の将軍ゲンブルグは副官のヲォーデンに「私は魔法兵と軽装歩兵、工兵を引き連れて先にアラーナ砦に援護に向かう。ヲォーデン、お前は本隊を操って丁度いい頃に砦を包囲しろ。」

 ヲォーデンは「最初から無茶しますね。信用していますよ。」と、まんざらでもない顔。「いいか、スパイには注意しろ。本体の行動を絶対に悟られるな。」とゲンブルグは厳しく言いつけた。「了解しました。」とヲォーデン。こうして、ゲンブルグは魔法兵と工兵、軽装歩兵の約一万五千の兵を引き連れてアラーノ砦へと向かった。

 一方ヲォーデンは残りの本隊と共に森の中に姿を消した。ゲンブルグの言う丁度いい頃とはいつなのだろうか?全てはヲォーデンの力量にかかっていた。


 ゲンブルグの隊は2日後にアラーノ砦に到着した。南門から入ったのでロザリア人の抵抗は少なかった。到着してすぐ、ゲンブルグは工兵と軽装歩兵に砦を4重にめぐらすバリケードを森の木を使って作らせた。ロザリアの攻撃からは魔法兵が皆を守った。バリケードは大きく、完成するまでに3日の時を要した。

 ゲンブルグは皆にいった。「さあ、敵を限界まで引き付けるぞ。」ある兵が言った。「そのような事をして、敵に蹂躙されませんか。」

 ゲンブルグは答えた。「その可能性も少なからずある。全てはロザリア人の出方にかかっている。まあ、何にしろ俺たちは砦にこもって、魔法や弓矢で抵抗する。そして敵に北門だけ守備がおろそかだと思わせるんだ。北門に集中したロザリアの兵を一気に叩く。」「どうやってですか。」「その時が来ればわかる。」

 その間にもロザリア兵はアラーノ砦にアリのように群がって来ていた。ここは守り一択である守りには定評のあるゲンブルグは指揮を執った。弓の有効射程は以外と短い。魔法兵の攻撃も防がれる。できるだけ近くに敵を誘い込まなければならない。バリケードによって敵の進軍スピードは遅れている。この動きが止まった所を狙い撃ちするのだ。4重に敷かれたバリケードは十分に旧兵や魔法兵を助けた。ゲンブルグは矢の消費を抑えるため、わざと弓を撃たない時間を作った。

 3日たったが、ロザリア兵の士気はおちなかった。兵士の多くが攻撃している北門が落ちそうだったからである。ロザリア兵は我先にと北門に馳せ参じた。アラーノ砦が落ちそうだという噂が広まっている。ロザリア兵たちはアラーノ砦を目指して集まってくる。このころにはゲンブルグも水流の魔法と氷結の魔法で砦を守っていたというか余裕がなかった。


 この3日目の夕方北門の奥に大部隊があらわれた。ゲンブルグの第五師団の主力である。彼らは密集体系ファランクスを組みロザリア兵たちを包囲殲滅した。これがアラーノの戦いである。ゲンブルグの戦術の第一歩がここに記された。だが、彼はロザリアに対して戦略を描かなければならない。戦略がなければ、戦術の一勝などなんの意味もなさないからだ。ゲンブルグもオーストリアとオスマン=トルコとの戦いで、それは十分理解していた。オーストリアには戦略がなかった。それがウィーン包囲という結果を招いたのである。

 ウェスハリア帝国にも戦略はない。しかし、ヲォーデンは今日の戦果を黙々と紙に書いている。武器屋に渡すようだが、これでウェスハリア帝国内にも変化が訪れてくれるといい。とにかく今回は大勝利を収めた。次はロザリア平原での大規模な戦いとなるだろう。ファランクスが平野での戦闘に向いているとはいえ、敵の土地で戦うのは不利である。戦場はゲンブルグ自身が設定しないと負ける。

 今日の戦闘でロザリア陣営でもウェスハリアに付きたいと思い始めた部族はいるだろう。そんなロザリアの部族をこちら側に付けられないものだろうか。戦う前にまだやれることはある。ゲンブルグはヲォーデンに手紙を書かせ。捕虜の一人に翻訳させた。それをロザリア南部の部族長にあてて、送ったのである。ロザリアの趨勢を決める一大決戦が近づいてきていた。

 以降<ロザリア平原の決戦>と呼ばれる対決が始まる。

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