第3話 第五師団との訓練
チェスターの丘にゲンブルグは歩いて向かった。馬車なんかで向かったものなら、兵に何を言われるか分かったものでは無い。将軍は兵と共に有らねばならぬ。これが、オーストリアで学んだ一番の収穫である。チェスターの丘はウェスハリア帝国の帝都ネロムの東のはずれにある。衛兵に連れられて到着まで3時間かかった。チェスターの丘に着くと、軍隊が訓練をしている。星が5つ入った旗がひらめき、この軍が第五軍であることを教えてくれる。皆、だらだらと訓練を続けていた。
ゲンブルグは思った。こんな訓練では、北のロザリアに死にに行くようなものだと。ゲンブルグは大声でどなった。
「今、君たち第五師団は私、ゲンブルグ=フォン=ファーレンハイトの支配下に入った。祖国が北から攻められて敗北しようとしている、この時によくもダラダラと訓練が出来るものだ。ここで今、戦場を思って訓練出来なければ、北に行っても敗北するのみである。もし、私の言葉が間違っていると思うならば、とっとと立ち去り、他の軍に拾ってもらえ。私が推薦状を書こう。」
皆、驚いているようだったが、一人だけニヤニヤしながら近づいてくる、顎髭の男がいた。「ゲンブルグ将軍、私が将軍の副官のヲォーデン=アルマータです。いきなり、かましてくれましたね。まあ、皆、目が覚めたことでしょう。私はもちろんあなたについて行きますよ。貴族の将軍の下より、よっぽど生き残る率は大きそうだ。」ヲォーデンは皮肉っぽく笑った。
ゲンブルグは面白い皮肉屋だと思った。オーストリア時代、副官といえば真面目が服を着ているような人物ばかりだった。ヲォーデン=アルマータは信用に足る人物なのかゲンブルグは測りかねていた。よって、なにか仕事をさせてみようとかんがえた。ヲォーデンに「明日までに男の成人の身長の2倍の槍を重装歩兵の分だけ揃えろ。重装騎兵には弓を、軽装騎兵にも弓を揃えよ。」と命じた。
ヲォーデンは「はい。分かりました。」といってチェスターの丘を降りて行った。ゲンブルグとしては、かなり無理なことを命じたつもりだったが、ヲォーデンはひょうひょうと街の方へ消えていってしまった。
ゲンブルグは次に重装歩兵の隊列について訓練させた。百人隊長ごとに百人づつ隊列を作らせ、模擬戦をさせた。騎兵には軽装歩兵の弓を使って騎乗から弓を射らせた。軽装歩兵は工兵の補助をさせた。こうして、新しい戦法ファランクス(ギリシャでは古くから使われている)の練習が出来るようになった。あとはヲォーデンが長槍を調達してくればファランクス密集体系の練習が出来る。アレクサンドロス大王の通った道を辿ることになる。
日が沈むまで訓練は続いた。ゲンブルグはずっとファランクスの密集体系を見ていた。夜は重装歩兵の百人隊長たちへのファランクスの説明を行った。実際この戦い方は、集団密集体系のスピードと協調にかかっている。そのことをトクトクと教え込んだ。こうして一日目は終わった。
次の日の朝、ヲォーデンが戻ってきた。後ろには長い棒を担いだ従者たちが延々と続く。ヲォーデンはゲンブルグに言った「さすがに槍は用意出来ませんでした。しかし、あなたの活躍を書くことと引き換えに、長棒を工面してきました。これで勘弁してください。本物は1か月後に納入されるとのことです。」
ゲンブルグは「合格だヲォーデン。今日から君は私の副官だ。」とヲォーデンを認めた。無理を工面できるのが、本当の副官である。
こうしてファランクスの訓練は本格度を増し、1か月訓練したころには、前後左右に密集しながら移動することが出来るようになった。これはアレクサンドロス大王の軍にはかなわないが、1か月程度の訓練ではものすごい上達である。それから、軽装歩兵には工兵と同じ装備をさせ工兵として扱った。重装騎兵は重装弓騎兵に、軽装騎兵は弓騎兵に配置換えし、ファランクスの長槍も届いた。
それから、もう1か月訓練し、第五軍は前線に出ることとなる。初戦はアラーノ砦の防衛だった。
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