第9話

「ダメじゃないですかあ!」

「まあいいじゃないか、頑張ろうよ。」


国境の町でマスターの相手が見つかり、めでたしで終わるはずだったのだが帰りの便で問題が発生した。


「おたくのドラゴンでかすぎて国際線に乗れないよ。」


当然幼馴染さんの飛行機にも乗る事は出来ないという事で、私だけ帰れなくなってしまったのだ。結局レベルダウンの食べ物が必要になってしまった。


「ま、マスターは私を捨てませんよね?」

「それはまあ当然よ。」


パニックになってオロオロしている中、マスターは当然の様にそう言ってくれたのは救いである。


「それになんとかなるし、なんとかするさ。」

「うう…。」


そう言う言葉はマスターの口癖だ。自堕落だったり普通に落ち込む彼であるが、今この瞬間その言葉が理由無くとも心強い。


「とはいえ大学休む訳にもいかないし、なんとか早く見つけないと。」

「わかりました!」


一応レベルダウンの食べ物、ンディキはこの国では割とどこにでもある物らしい。なので国境を越えた先の大きい町に入り、宿を取って探すも。


「どこにあるんだろうなあ。」

「うえええん。」


そもそも伝手も無い。幼馴染さんのバックアップも、危険な国だからとあの観光地以外には外に出るなと親に言われている為に無しだ。同時に彼女の従魔が陽にやられて倒れたのもあるのだろうけど。


「ほれ、金も節約しないといけないから今回スーパーで夕食買ってきたぞ。フライドポテト?とハムとアイスだ。」

「ぐすっ。はい、食べます…。」


私は妙に太いフライドポテトを食べる。けどなんかこれ、変においしくない。


「なんですこれ。」

「ああ、なんかわからんが、フライドポテトの横で売られてたもんだ。ポテトに対して値段三分の一で安くてさ。物価高いしお前の食費もかさんでるし、お金でまた怒られるのもと思ってさ。」


そう言ってマスターもそれを食べると顔をしかめた。だが買ってきた手前、まずいとは言えず二人でもくもくと食べる。そして彼はため息をつきながらアイスを開けると。


「なんじゃこりゃ。」

「なんか溶けてもう一度固まったみたいな感じですね…。」


そう言えば昨日停電があったけども、もしかするとそれで溶けたとかだろうか。結構怪しい味がしたのでアイスは食べれず、ハムと謎揚げ物を二人で食べてその日は寝る。


「はあ。」


だが私の寝床は部屋の外だ。体が大きくて中に入れなくて、駐車場横で寝る事になってしまった。なんというか、成長してから災難続きなのも相まって無事に帰れるのか、ここで置いてかれて離従してしまう事にならないかと、悩みが溢れて泣いてしまった。




10


「あれ。」

「おはようございます。どうしました?」

「縮んだ?」


朝、マスターは朝食をもってきてくれた。ビュッフェ形式らしく一応断わって持ち出してくれたのだ。


「ほらこれ、メロあったから持ってきたぞ、あのココアみたいなやつ。」

「それ子供が飲む奴じゃないですか。」

「いや、コーヒー紅茶メロの順で並んでたから思わずだ。それにお前成長期じゃん。」

「だから成長しちゃいけないんですって。」


そんな会話をしつつ駐車場で食べる。最近は野外も慣れたが室内が恋しい。テレビのグランさんもこんな気持ちだったんだろうな。


「うーん、やっぱり明らかに縮んでいるぞ。昨日食った物の中にあったって事か?」

「それならばいいのですが。」

「ちょっと調べてみる。言葉よくわからんからどこまで判るかなんとも言えないが。」

「お願いします。」


そう言ってマスターは宿を出て行った。一緒に出れば良いかとも思ったが、あまり目立つと町の人にひと狩り行かれると宿の人に言われたので今日はお留守番する事にした。



「あったぞ!」


息を切らせたマスターが、私と目が合った開口一番そう言った。そして持ってきたのは、昨日食べたおいしくない揚げ物で詰まったバケツ。


「これ甘くないバナナなんだってさ!スーパーで話聞いたら教えてくれた!」

「え、でも、それあんまりおいしくない…。」

「だろうな!今日行ったらフライドポテト売り切れてたけど、こっちダダあまりだったから!」


そう言ってマスターは一緒にケチャップとマスタードも鞄から出した。なんでも味変用だそうだ。


「よし!それじゃあ頑張って食べよう!」

「あの、せめて揚げて無いのは…。」

「探せばあるかもわからんが見つからんかった!とりあえず用意できるのはこれしかない!」

「…うう。」


そういって仕方なく食べ始めるも結構残る。残り食べてくださいとマスターに振ると、俺喰っても意味ねえじゃんと正論を言われてさめざめと食べ直す羽目になった。




帰りのバスにて外を見る。結局あの後フライドンディキを食べまくった事でレベルダウンに成功したのだが。


「結構太ったな、いってえ!」


無言でマスターをはたく。一応サイズは進化後すぐぐらいに納まったのだが、横には自覚するぐらい伸びた気がする。それで今はバスに乗って幼馴染さんの飛行機で一緒に帰る途中だ。


「というか、取り越し苦労ばっかじゃないですか…。」

「でも、ここ来ようって言い出したのお前じゃん。」


その一言で色々思い返すと経緯から怒れない事を理解して、それでも理解したくない感情からまたマスターをはたくも今度はガードされた。


「まあ、無事に帰れてよかったよ。」


だがマスターはガード後に私の頭を撫でた。昔、小さい頃は指で頭を撫でてくれていたが今は手のひらだ。そして改めて安心して、自分のやった事が勝手に暴走して勝手にでかくなった事なのを理解して、少し恥ずかしくなってしまった。


「とはいえ結構金使っちゃったから、国に帰ったら食費切り詰めだなー。」

「はい!」

「なんでそこで元気なんだよ。」


そんな会話をしてしばらくするとマスターは寝てしまった。国境の町まで後二時間だ、着いたら起こしてあげよう。後は幼馴染さんとの仲を取り持てばみんな幸せだ。


それと、ンディキを喰いまくった副作用なのか任意で人型に変わる事が出来る様になったのだけど、それは幼馴染さんに振られた時に教えてあげましょうかね。

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ちょっと待って、その進化! 中立武〇 @tyuuritusya

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