新たな始まり

 2024年4月6日土曜日。僕の通うことになる高校の入学式。

 ――これはその記憶、記録である。

 

 入試と出校日を含め、高校に足を踏み入れたのはこれが数えて四回目だった。新しい制服に袖を通し、リュックを背負い辿り着いた正門。そこでは上級生たちがB4サイズの紙を配っていた。何かと思い受け取ってみると、なんと受験番号とクラス・出席番号が書かれていたのだ。僕はとても驚いた。小学校・中学校ともに、「壁に掲示されている紙を見てクラスを知る」という方式だったからだ。てっきり今回もそうなのだと思い込んでいたのもあり、なんだか拍子抜けしてしまう。唖然としながらもクラスを確認すると、3年生の頃のクラスメイトがいるのを確認した。彼は2年生のときも同じだったので、これで3年連続ということになる。見知った人がいるのは嬉しかったものの、他校の知り合いは残念ながらいなかったので複雑な気分でもある。その細やかな希望を心の支えとし、体育館に並べられたパイプ椅子へと腰掛ける。

 数分後、そのクラスメイトが後ろに来た。僕は彼と同じクラスであることを喜び合い、不安をどうにかかき消していった。そして更に数分後、始まった入学式。校長や理事長の話はさすがの長さであり、気づけば頭の中ではプロットを考え始めていた。だから退屈ではなかったが、やはり長いことに変わりはない。

 それに12時間が経過した今だからこそ思うが、中学校の入学式ほど希望と期待に満ちていなかったように思う。ただ現実を受け入れ、後に発表される担任やまだ見ぬクラスメイトのことをぼんやり考えながら過ごしていただけだった。

 桜は目を見張るほどの満開だったし、空は新たな門出を祝うかのように晴れていた。なのに心はどうも晴れやかではない。もちろん雨模様でもなければ曇天でもなかったが、不安でもなければ絶望でもない、言うなればただの感情だ。

 担任の誘導のもとに到着したクラス。そこで知り合いがもう2人いることに気がついた。一人は去年のクラスメイト。もう一人は、小学校の頃の好きな人だった。クラスメイトの方は喜び、感激したが、恋人は……瞠目するほかなかった。信じられなかった。まさかここで再会を果たすなどと、誰が予想していたのだろうか。僕自身も全く考えていなかった。彼女が同じ高校だということも知らなかった。

 しかし肝心の、今のクラスメイトは少し心配だった。他のクラスは騒いでいるのに、僕らは誰一人として喋ることはなかったからだ。いわゆる陰キャ。その言葉が脳裏に張り付いたままだった。


 帰路を進む中、僕は思う。「これで本当に大丈夫だろうか」と。行事も多いし、クラス数も、人数も多い。静けさは時として心の温度を奪う吹雪となる事を僕は知っている。


 でも僕は願う。どうか、最高の一年になりますように――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

また一歩、扉を開けて ねくしあ@カクコン準備中…… @Xenosx2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ