夢のクッキー缶

たい焼き。

缶をあけたら

 今年は年末からぐっと冷え込み、お正月も朝日が少し見えただけで今はすっかり厚い雲に空は覆われてしまっている。

 寒くてリビングのこたつから出られないまま、3時のおやつに出されたミカンに手を伸ばそうとしていた矢先、インターホンが来客を告げた。


「あけまして、おめでとうございます」

「あけまして、おめでとう。よく来たわね~、あがってあがって」


「やえおねえちゃん!」

「わぁ、桃花ちゃん、おっきくなったねぇ。あけましておめでとう」

「あけまして、おめでとうございます! やえおねえちゃん、こたつ、いこ!」


 今年も八重おねえちゃんが遊びにきてくれた。

 玄関口でのママとのあいさつが聞こえて、こたつから飛び出してお出迎えにいく。

 急いであいさつをして、そのまま八重おねえちゃんの手を引きリビングへと連れていく。

 リビングには、パパとお兄ちゃん、猫のミャーコがいてみんなが八重おねえちゃんとあいさつを交わした。


「おねえちゃん、こっちこっち」


 わたしは特等席に八重おねえちゃんを座らせて、そのとなりへしっかりと着席する。


「ふふふ、桃花ちゃんはきっとコレが楽しみなんじゃない?」


 八重おねえちゃんは大事そうに持っていた紙袋から四角い缶ケースを取り出してわたしに見えるように、こたつの上に置いてくれた。


 缶ケースは淡い水色と緑の中間のような色をしていて、蓋には葉っぱで縁取りされた中にわたしの好きな猫や小鳥、くまなどの様々な動物が仲良く歌を歌っているようなイラストが描いてある。


「ミャーコがいる!!」

「桃花ちゃんなら、絶対猫に食いつくと思ったんだ。なんだかこの猫、ミャーコに似てるよね」


 八重おねえちゃんが嬉しそうに説明してくれる。


「八重ちゃん、いつも気を遣わせてごめんねぇ」


 キッチンで八重おねえちゃんの分のお茶を用意していたママが、ニコニコしながら会話に参加してきた。


「私も楽しいので気にしないでください。最近の『お年賀』って色々あって、見ててワクワクしちゃいます」


 ママと八重おねえちゃんが笑っておしゃべりしている間も惜しい。

 早く、八重おねえちゃんが持ってきてくれた「おねんが」を見たい。


「ママぁ……あけていい?」

「……まったく、桃花は本当にお年賀だけは我慢ができない子ねぇ……」


 ママがちいさくため息をつくと、パパが「まぁまぁ」となだめながら八重おねえちゃんに「いいかな? 開けちゃって」と許可をとってくれた。

 八重おねえちゃんも笑顔のまま「どうぞ、あけてください」と答えてくれる。


「ほら、桃花。気をつけてあけるんだよ」


 パパはそう言うと、缶についていたセロテープをとってわたしに渡してくれた。

 八重おねえちゃんが持ってきてくれた可愛い缶に描かれているミャーコそっくりの猫がウィンクした気がした。

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夢のクッキー缶 たい焼き。 @natsu8u

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