第14話 案の定すぎるハプニング
ボール運び競走が始まると、グラウンドは声援と笑いで盛り上がっていた。
みんなボールを落としたり、コケたり、ハプニングの連続だった。
こんなネタ競技、わざわざ練習してきたペアもいないのだろう。
「よし、行くぞ。美鞠」
「はい!」
順番が回り、俺たちはスタートラインに移動する。
ボールを互いの顔で挟み、肩を組む。
「頑張れ、美鞠!」
「ずりぃぞ、蒼斗! 俺と変われ!」
「三津山とくっつくな蒼斗!」
「お似合いだよー!」
美鞠の登場で更にザワつく。
勝手なこと言いやがってあいつら……
「位置について、ヨーイ」
パンッという号砲が鳴り、各ペア一気に走り出す。
しかし俺達はゆっくりと一歩目を踏み出した。
二人三脚でスタートダッシュを切ろうとするのは、アマチュアのやり方だ。
はじめは安定するまでゆっくり息を揃え、徐々に加速するのが必勝法である。
特訓を重ねた俺たちはそれを知っていた。
「「いい、に、いち、に、いち、に、いち、に」」
掛け声とともにゆっくり進んでいく俺達の前で、他のペアは次々とボールを落としていく。
俺たちはその脇を着実に抜かしていった。
「いい、ちょう、しだ、ぞ」
「この、まま、トップ、ねら、いま、しょう」
掛け声を変化させた会話もお手の物だ。
先頭に立ち、コーナーを曲がっていく。ここまでボールを一度も落としていない。
予想外の展開にグラウンドが騒然となっていた。
「よし、いけ、るぞ、み、まり」
「はい、あと、少し、きゃあっ!?」
ズルっとボールがズレる。
「危ないっ!」
美鞠をぐいっと引き寄せ、顔をギュッとボールに押し付ける。
滑りかけたボールをなんとか挟み直した。
「危なかった」
「は、はい……」
美鞠はオドオドした感じだ。
「ん?」
慌てて美鞠を抱き寄せたせいで、俺はがっつり美鞠の胸を鷲掴みにしていた。
「わっ、ごめん!」
「急に動かないでくださいっ! ボールが落ちます」
「そ、そうか……」
グラウンドでは悲鳴と嬌声が飛び交っていた。
これは絶対あとでみんなからイジられるな……
ゆっくり胸から手を離し、再び走り出す。
多少の時間のロスはあったものの、他のペアはボールをポロポロ落としているので一位でゴールできた。
「やりました、蒼斗さんっ!」
美鞠は喜び勇んで俺に抱きつく。先ほど鷲掴みした胸が、今度は俺の胸でムニュッッと潰れていた。
「ちょ、三津山、落ち着け」
「あ、失礼しました。嬉しくて、つい」
美鞠は慌てて離れる。
クラスの男子から殺されないか、俺?
走った直後なので美鞠は汗をかいていて、顔が火照っている。
健康的で爽やかなその姿にちょっとドキッとしてしまった。
体育祭が終わるとクラスの連中は打ち上げに向かった。
駿も行くと言っていたが、俺はこっそりとその輪から抜け出して家に帰る。
そういう場が苦手というのもあったし、お金がないということもあった。
まあ、ボール運び競走のことをイジられるのが嫌だったということもあるけど。
疲れたのでソファーに座り、冷えた麦茶を飲む。
夕飯の支度をしなければならないが、流石にすぐに動く気にはなれなかった。
「そーいや美鞠は夕飯いるのかな? 打ち上げでなにか食べてくるだろうし」
確認しようとスマホを手に取ると、玄関が開く音がした。
「ただいまぁー。あー、疲れました」
「え?」
美鞠がだらーんとしながらリビングに入ってくる。
「美鞠、打ち上げにいかなかったのか?」
「行きませんよ、そんなとこ」
力尽きたように美鞠は床にぺたんと座る。
「みんなに誘われてただろ?」
「蒼斗くんだって誘われてたのに帰ってきてるじゃないですか。そんなことより飲み物をください。死ぬ」
「ったく」
麦茶をコップに注いで美鞠に渡す。
「ありがとうございます」
砂漠で行き倒れた人のようにそれを呷っていた。
「俺はさておき、美鞠は行かなきゃみんながうるさいだろ」
「うまいこと逃げてきました。得意なんです、こういうの」
美鞠はニヤリと笑い、クイッとサムズアップをする。
その姿がなんだか馬鹿っぽくて、笑ってしまった。
「まあ面倒くさいよな、ああいうの。疲れてるのに更に疲れるし」
「そうそう。それに面倒なことになりそうだったので」
「面倒なこと?」
「体育祭とか文化祭とか、そういうものの打ち上げってなぜか告白してくる男子が多いんです」
美鞠は困った顔で呟く。
「あー、なるほど。それはあるかも」
「妙に共感しますね。もしかして蒼斗くんも告白したことがあるんですか?」
「俺はないけど、そういうことする奴はよくいたな」
「なんなんですかね、あれ。せっかくみんなで達成感を感じて盛り上がってるのに。断らないといけないから気まずくて、楽しい気分が台無しになります」
なるほど。
モテる女子も大変なようだ。
今まで考えたこともなかったが、断る側は打ち上げを楽しめないだろう。
「まあみんな気持ちが高揚してて、ついコクッちゃうんだろうな」
「ふぅん。そういうもんなんですか」
美鞠は背中を壁に預けて脚をだらんと投げ出している。
競技後の爽やかな美鞠と同一人物とは思えないだらしなさだった。
まあ疲れているんだから仕方ないか。
それに、俺にとってはこっちの美鞠の方がもはや馴染み深い。
「今日はお疲れ。よく頑張ったな」
「ありがとうございます。蒼斗くんのおかげです」
「ご褒美にごちそうを作ってやろう」
「いえ。今日は蒼斗くんも疲れているでしょうからビザでも取りましょう」
「ピザか、いいな!」
思わずテンションが上がる。
「私は四種のチーズのピザです。これは譲れません」
「俺はテリヤキチキンかな」
「あー、それもいいですね。迷います」
美鞠は腕組みをして顔をしかめる。
「俺のを少しあげるから」
「いいんですか? やった!」
美鞠はクイッとガッツポーズをする。
学校にいるときとはぜんぜん違う別人のようだ。
「蒼斗くん、なんで笑ってるんですか?」
「いや、別に」
共同生活を始めた頃はどうなるかと思ったが、なんとかなるもんだな。
いや、なんとかなるどころか、俺はすっかりこの生活を楽しんでいる。
本当はいつまでも居候なんて甘えてないで出ていかなきゃいけないのに。
けれど図々しいが、このままこの生活が続いて欲しいとも思ってしまっている。
そんなことを考えながらスマホでデリバリーピザのホームページを開いていた。
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蒼斗と美鞠の共同生活はなんとか順調に進み始めました!
しかしこのあとも様々な出来事が二人を待ってます。
いつまで共同生活の秘密を保てるのか?
失踪したクソ両親は?
美鞠は父と和解できるのか?
二人の夢は叶うのか?
二人の間に恋愛感情は芽生えるのか?
これからも二人の賑やかな共同生活を温かく見守ってあげてください!
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