夫婦の余暇

ゆる弥

第二の人生のスタート

 明日は娘が引っ越していく日だ。

 荷物をまとめるのを手伝いながら成長を噛み締めている。


 約二ヶ月前に結婚式を挙げ、新居のアパートを決めた娘はこの家を旅立っていく。

 本の整理を頼まれた僕は指示された棚からダンボールに詰めている。


 この棚で最後だ。


「お父さん、それ終わったら後いいよ」

「うん。わかったよ。じゃあ、母さんとコーヒーでも入れて居間にいるな」

「うん。ありがと」


 本を入れ終わるとダンボールに封をして端に寄せる。娘の部屋も綺麗になったものだ。一時は韓国だかのアイドルグループの男達のポスターが飾ってあったものだが。


 それを見て以来、部屋にも入っていない。久しぶりに入れば落ち着いていた。


 居間に戻るってお湯を沸かそうとすると、妻がお湯を沸かしていた。


「ママ、ありがとう。今、春奈も来るって」

「そう。ひと段落ついて良かったわね? ヒヤヒヤしたわぁ」

「まぁ、引越し明日だもんな」

「全く、春奈ったらいっつもギリギリなんだから……」

「はははっ。そうだな」


 一晩明け、引越しの日が訪れた。


「これで良しっと!」


 春奈は高らかに声を上げた。


「忘れ物ないか?」

「うん。まぁ、引っ越すの隣街だし?」


 別にあっても取りに来るということだろう。昔からちょっとズボラなところがある。


「あんたねぇ、しっかりしなさいよ? 圭介さんを支えていくんだからね?」

「わかってるよぉ。まぁ、ほどほどに支えるよ」

「あんたねぇ……」


 妻は頭を抱えているが、僕はそれでいいと思っているよ。


「春奈、体に気をつけて。困ったら僕たちを頼りなさい」

「……うん。ありがと。それじゃあ、行くね!」


 春奈の目には光るものがあったが、見ない振りをした。何故なら、僕も同じだったからだ。引越しのトラックと春奈の車を見送ると静かになった。


 玄関を閉めて少し広く感じるような気がする居間。ダイニングテーブルの椅子に腰掛けると一息つく。


「ふぅ。なんだか、不思議な気分ね?」

「そうだねぇ。これまで二人だけの時間というのはあまりなかったからねぇ」

「そうね。和也さんと二人っきり。それもいいかもね」

「ははははっ。なんだか春奈には悪いけど、美代と二人というのも悪くないね」


 美代は頭を僕の肩にコツンとのせた。

 これからは二人の行きたいところを巡ろう。僕たちは今まで春奈を優先させてきた。


 ても、子育ては一旦区切りがついたという事だろう。これからは第二の人生がスタートする。


「どこか行きたいところがあるかい?」

「んー。まずは、一緒にコーヒーが飲みたいわ?」

「はははっ。そうだね。今いれるよ」

「うん。ありがとう」


 これからは二人の時間を楽しもう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夫婦の余暇 ゆる弥 @yuruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ