第8話 スタートオーバー
男の手を借りてひとまず都庁の中へと入るも、一階はすでに避難してきた人々でパンク状態だった。忙しく人々の間を縫うように動き回る職員以外は、全員が全員天井の映像を食い入るように見つめている。
同じだ。転移前に見た光景と全く同じ景色が大画面いっぱいに映し出されている。AIの声が繰り返し緊急事態を告げているが、詳細は何もわからない。
「いったい、どういうことだ!?」
僕は、後ろにいる元妹に質問した。そんなつもりはなかったが、感情のままに動いたことで詰め寄る形になってしまう。
「口振りからすると、まるで全部知っていたみたいじゃないか!」
彼女はにっこりと嬉しそうに口角を上げると、一歩前へと進む。顔が近づき、詰め寄ったはずの僕が慌てて後ろへ下がった。
「スタートオーバー」
「……スタートオーバー?」
「私のユニークスキル。やっぱり双子だからか、私とお兄ちゃんのスキルは似ているんだよ? 私のは、何度もやり直すことができるスキル。世界の理すら変えるチートなスキルが一人だけだと思った?」
「なっ──」
大きな瞳の中に僕の情けない顔が映っている。
「神様はそんなことをしない。平等に不平等で理不尽な世界を創るんだから。だったら一人くらい世界を壊すスキルが与えられてもおかしくない」
神様。リスタートを使う許可をくれた神様。あのとき、神様は何度も確認していた。まさかそれは、こういう事態を予想──いや、知っていたから?
僕の疑問に答えるように、元妹──サナはうなずいた。
「アイツは、ここでお兄ちゃんを
サナの視線が僕の後ろへとずれる。肌にまとわりつく違和感のままに振り返る。果たして一面ガラス張りの窓の外には歪みがあった。
黒いローブの何かは、3度目の指を鳴らした。バリアが展開されるが、バリアの外にいる人々は悲鳴を上げることも叶わず塵になって消えていく。
「お、おい! なんだこれ!? か、か、らだ、ががが──」
助けてくれた男がもがくように指で空中に弧を描く。反射的に手を伸ばすが、触れる前に指先から順々に男の体は消えていく。
サナが強く僕の手を引っ張った。
「離せ──離せっ!」
こんなのは残酷だ。存在すら消えていく。何のための力だ。何のための──リスタートだ。
「ダメだよ、お兄ちゃんは私が守る」
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