第5話 双子の妹
「棍レベルは──まだ2か」
初めての戦闘を終えた後、都庁の一階にあるギルドへ訪れた僕は冒険者登録を済ませる傍らでレベルを確認していた。
技と魔法レベルはギルドにある情報端末でしか確認できない。正規の手続きを経ることなくダンジョンに潜る不正を未然に防ぐためらしいが、要は行政機関が冒険者を管理しておきたいからだろう。
「……あ、あのう」
受付の女性がちらちらと僕の後ろを気にしながら、端末越しに話し掛けてくる。
配信で広まったのか、ざわざわとした人だかりができていた。
「あいつだ! おい! ここにいたぞっ!」
振り向かなくとも誰なのかは声ですぐにわかった。共に戦った冒険者の一人だ。その冒険者は巨体を活かして無理矢理人を押しのけながら僕の真後ろに来ると、笑顔を浮かべて手を差し伸べた。焼けた肌に白い歯が印象的な、見るからに前衛向きの男だった。
「お前、座標転移までできんのか」
躊躇なく人に話し掛けられたのは久しぶりだった。言葉に詰まりすぐに返事をすることができなかった。
「クールな奴だな。その感じだとソロだろ? どうだ俺らとパーティを組まないか?」
パーティ……。想像するまでもなく難儀な話だ。
「──悪いが」
「ああっ! いいっていいって、少し考えてからでいい! 何かわけありなんだろ?」
「いや、特に──」
「それだけのスキル使えんのに、冒険者で言えば技も魔法も駆け出しレベル。きっと何か深いわけがって──ほら、受付の人も神妙な顔してんだろ」
受付へと向き直ると女性は曖昧な笑顔を浮かべて小さくうなずいた。
「じゃ、ま、そういうことだから! よろしくな!」
肩にポンと手を置くと、男は人混みの中に紛れていった。名前は聞いていないから二度と会うこともないと思うが。
「そ、それでいいですか? お聞きしたいことがありまして」
「はい」
「不躾な質問ですが、本当に冒険者登録はされたことがないのですか? 後で二重登録が明らかになったら、場合によっては罰則も……」
落ち着きのない瞳の中には疑いの色が透けて見える。僕らを扱っていた管理者がトラブルがあったときによく見せる目だ。
慎重な対応が求められる。だから僕はわざとはっきりと言った。
「問題ありません。冒険者として初めての登録です」
「……わかりました」
まだ何か言いたげな口を閉ざすと、女性は端末に情報を打ち込んだ。最後に指紋認証を取られて冒険者登録は終了した。
***
登録を済ませたその足で向かったのは、かつての我が家だった。何の変哲もない一戸建ての扉の前に立つが何の感慨も湧いてこない。
生まれてすぐにごみ箱に捨てられたから、思い出なんかなんにもない。元親の顔すら覚えていないが、鮮明に覚えていることが一つだけある。
インターホンを押すと、即座に浮かび上がった猫耳のついたアニメ調のAIに用件を告げた。
鍵が開き、慌てて顔を出したのは元親──ではなくもっと若い女の子だった。
似ている。やっぱりどことなく。記憶と情報が正しければ、この子は僕の双子の妹のはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます