第4話 最強スキルの使い方

 AIから警告が発せられたことでバスの中に残った−Sランクの奴隷たちは、窓からちらりと僕の姿を確認した。でも、その全員が頭を捻っている。スキル値を振り直す代わりに僕との関係値をゼロに──つまり僕のことが記憶から完全に消去されているからだ。


 だからこそ、逆に僕は自由に動き回れる。


 移動系スキル〈目測転移〉を発動し、瞬く間に戦場へと向かった僕は目の前にいた絶滅したはずの狼のような姿態をしたモンスターに火球を投げつけた。


 そのつもりだった。基礎魔法の小さな火の球。だが実際にはビルの2階ほどの高さの巨大な火柱が現れ、狼を燃焼させる。火が消えたときには地面に焦げた跡だけが残っていた。骨ごと燃やし尽くしたらしい。


 魔法の威力を底上げするパッシブ系スキルを入れられる限り入れたからかもしれない。


「君はなんだ!?」「誰?」「おいおい! なんだ今の魔法は!!」


 戦っていた冒険者がそれぞれ驚いて声を上げた。ただ、今は戦闘中。余計な雑談をしている場合ではない。


 僕は遠くから迫りくる人形ひとがたのモンスターに向かって飛び掛かった。


「おい! 誰か知らねぇが無茶だ! 魔法士は後ろへ下がってろ!!」


 わかっている。眼前で小刀を振り上げているのはいわゆるゴブリンだ。過去の伝承や物語から取ってつけられた凶暴かつ近距離攻撃型のモンスター。


 普通は非力なはずの魔法士はタンクに守られながら後ろから魔法を放つのがセオリー。


 でも、今の僕は違う。


 〈武器自動生成〉で左手に長い赤棍が生成される。〈武器マスタリー〉の効果で基本的にどの武器も自由自在に使いこなすことができるが、中距離から素早く叩けるこの武器は確かに最適かもしれない。


 間合いの外から僕は跳んだ。戦闘経験ゼロでスキル〈武器マスタリー〉を有する今の僕ならきっとただの打撃ではない新たな技を編み出すことができる。


 AIの声が頭の中に響いた。


「棍スキル──刻石こくせき三連さんれん


 新しい技のモーションがナビゲーションされ、それに従い頭上高く掲げた棍をゴブリンの脳天へ向けて一撃叩き込む。そのまま素早く体を捻らせ横からもう一撃。最後に上段から石に刻み込むように渾身の一撃を見舞う。


 威力に耐え切れずにゴブリンの体が弾けて、鈍色にびいろの小刀が地面へと捨て置かれた。初めての戦利品として受け取っておくか。


 〈エンプティ・ストレージ空っぽの箱〉に小刀を送り、使い終わった棍を分解して振り返ると、僕がゴブリンを倒している間にモンスターの群れは討伐されていた。


 しかし、冒険者たちは化け物を目にしたように唖然とした表情のまま僕を見つめていた。


「あり得ない……魔法を使った上に近接でゴブリンを倒すなんて……」「ああ、それに武器自動生成なんて超高度なことをやってのけたのに、基礎魔法に技レベルの低い技」「でも、どれも普通の威力とは全然違う」


「エイト、橋本エイト」


 理由わけを知りたそうに仲間内でコソコソと話している冒険者たちに、僕は名を名乗った。


 慣れない自己紹介に、きっと仏頂面だったことだろう。呆けたように立ち並ぶ冒険者たち、そしてその後ろにいる何万もの視聴者がどう受け止めたのかはわからない。


 でも、明らかにその日から僕の人生は変わった。

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