第3話 9億9999万9999のスキル値
目の前に、本人だけが見えるように構築されたウィンドウが表示された。全人類を順に並べたときの平均値や中央値を割り出して体力や腕力、精神力などを数値化したデータがズラッと並ぶ。
HP──つまりは体力や免疫力など総合的な健康の度合いを示す数値は、423。最大値が999だから、平均よりちょい下あたりといった感じだ。直接の数値の横にはわかりやすく割合も示されており、42%。
同じように上から下までステータスを見ていけば、人生をリスタートした結果、得られた数値は概ね平均値だった。つまり、平々凡々の凡人ということだ。
ここまではいい。問題はここから先、スキル値がどうなっているかだ。スキル値が多ければ多いほど人生は有利に進む。たとえ、能力が秀でていなくてもスキル値が莫大にあれば一気に表舞台に躍り出ることができる。
この世界ではスキル値が全てだ。
バスの中はまだ騒がしい。冒険者がスキルを駆使して暴れ回っている。彼らが羨望の眼差しで見るのは、絶対的にスキル値が足りていないゆえ。
意を決して、ページの一番下にある数値に視線を向けた。
スキル値──999999999。
「……なんだって?」
思わず声が出てしまった。しまった、と思い顔を上げるが誰もがモニターに夢中になっていてこちらの方を気にしていない。
念のために指を折りながらもう一度確認する。一、十、百、千……億。億。9億9999万9999──??%!!
バグってる? これは、数値がバグってる!
普通、スキル値が1000あれば将来たいていの職業につけるとされている。可もなく不可もない数値だ。だとしたら、これは……。
「……スキルの変換をしてみよう」
それでバグなのかそうじゃないのかがはっきりするはず。
スキル値に触れると、即座に交換可能なスキルがズラッと並ぶ。今まで生きてきた中で見たこともないスキルの数に圧倒されそうになり、指が震えていた。
試しに──そうだずっと欲しかったスキル。魔法スキルをいくつか。八大属性のうち、基本属性の
タップしていくと、光っていた文字が暗くなり習得済みを示していた。
スキル値を見れば999994999──確かに減っている。基礎魔法1つのスキル値が1000だから、5000。間違いなく引かれている。
ということは、この数値は本当に僕に与えられたスキル値ということだ。
そう確信した途端、指の震えなんか止まっていた。代わりに心のうちから止められない衝動が沸き起こり、口角が緩む。事情を知らない人からすればさぞ気持ちの悪い笑みになってしまっていただろう。
僕は目につくスキルを片端から手に入れると、無断で監獄と変わらないバスの窓を開けた。
「危険です──規則により乗客は許可なく降りることを禁止されています。繰り返します乗客は許可なく降りることを禁止されています。規則を破れば──」
「うるさい」
AIの声を無視してコンクリートの上へと飛び降りると、僕はわずか500m先の戦場を見据えた。
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