第53話 泥沼の結婚生活(※sideダリウス)
長く感じた学生生活も、ようやくもうすぐ終わる。
あれから毎日気が重くて仕方がなかった。
アレイナはさっさと学園を中退し、彼女の目論見通り俺たちはすぐに結婚した。元々学園には俺の取り巻き連中がたくさんいたのだが、ジェニング侯爵家との裁判に負けて以降、さらに言うならクラリッサとエリオット殿下の婚約が決まって以降誰も俺に近寄って来なくなった。
誰も彼もから手のひらを返され、俺はあっという間に独りになった。
学園では隣のクラスのクラリッサと嫌でも何度もすれ違った。
あの日空き教室で冷たく突き放されて以来、向こうは俺のことなどもう少しも気にかけていないようだったが、俺はばつが悪くて仕方なかった。すれ違うたびについ挙動不審になりながらもチラリと彼女を盗み見ると、クラリッサはいつも溌剌とした表情で前を向いて歩いていた。艶やかな美しさにはますます磨きがかかり、きらめくオーラはすでに王太子妃としての貫禄さえ備えているようだった。その眩しいほどの輝きを見ていると、エリオット殿下から愛されていて幸せなのが手に取るように分かった。皆がこれまで以上にクラリッサに羨望の眼差しを向けていた。
何もかもが順調で、満たされている。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、俺は惨めさと後悔を噛みしめる日々だった。
あの時、アレイナではなくクラリッサをちゃんと選んでいれば。
目先の地位と権力にだけ捕らわれず、自分のことを心から愛してくれる彼女のことを大切にしていれば。
真実の愛を貫いてアレイナと結婚したはずの今でも、俺は失ったクラリッサのことが惜しくてならなかった。
結婚後すぐに、ジェニング侯爵家への賠償額が通達された。
その金額は大きなもので、我がディンズモア公爵家は経営していたいくつかの店やタウンハウス、領地の一部を売却してまで現金を捻出するはめになった。
フィールズ公爵家に至ってはそれどころの騒ぎではなかった。うちと同じようにジェニング侯爵家への慰謝料を支払った上に、そんなものでは済まない金額の賠償を王家から通達されたのだ。もちろんミリー嬢の裏切りによる婚約破棄の慰謝料だ。もう現金を捻出する事も出来なかったフィールズ公爵家は、広大に所有していたほとんど全ての領地を売却したり王家に返上し、公爵の爵位も失うこととなった。今はノリス男爵を名乗っている。
その際にフィールズ公爵夫人の私的な貯金が一切合切なくなっていたことが発覚し、それが発端となってアレイナの虚偽の妊娠はその後すぐにバレた。
アレイナは夫人の貯金の行方について知らぬ存ぜぬを通していたが、夫妻はアレイナの仕業である可能性も捨てていなかったようだ。屋敷の使用人たちをくまなく調べながらも、うちの両親にアレイナの動向をよく見張るよう言い含めていたらしい。
数週間後、アレイナが湯浴みをする際に、母から言いつけられていたうちの侍女がついにアレイナの体を盗み見たのだった。腹から次々と詰め物のタオルを出し、ぺたんこの腹で浴室に入っていくところを見た侍女はすぐさま母に報告。無事俺と結婚できて思い通りに事が運んでいたアレイナは油断していたのだろう。
父やフィールズ公爵が烈火の如く怒りマルゴー医師を呼べと言った時には、あの女はすでにアレイナから多額の報酬を受け取り行方をくらました後だった。俺もアレイナもそれぞれの親から嫌というほどに殴られ、叱られ、恨み言を延々と言われた。
「仕方なかったのよ!私とダリウスはもう離れることなんてできなかった…。魂を分け合った運命の相手なの!私たちの真実の愛を貫くためだったのよ!」
アレイナはどんなに打たれても毅然として言い放ち、フィールズ公爵、いや、ノリス男爵は頭を抱えて蹲っていた。夫人も泣き崩れた。
「……なんてことだ……。うちの娘たちは二人とも、疫病神ではないか……」
「何が真実の愛よ……!ただでさえ我が家に大損害を与えておきながら、私の貯金まで使い果たしていたなんて……!それも、こんなくだらない理由で……」
「ここから挽回するわ!ダリウスが」
…………え?……俺?
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