第3話 光る巨大なクジラ

 ルーに手を引かれて、俺はその巨大なクジラの中へと入って行った。


「ここは何処だ? このクジラは何なんだ?」

「焦らないで。さあこっちよ」


 更にクジラの奥へと向かうと目の前に壮年の夫婦が立っていた。何もない場所に。淡く光っているだけで地面も天井も何もない。


 彼等はいわゆるフォーマルな服装をしていた。男性はスーツとネクタイ。女性は白いドレス。そして、俺の手を引いているルーは水色のドレス姿となっていた。素っ裸だった俺は、何故だか紺色のブレザーを着ていた。これは連合宇宙軍の制服だ。母艦のグルンヴァルトに置いて来ていたはずなのだが。


「初めましてヒカル。私はファー、ファー・リーオル。こちらは妻のフォー・リーオルです」

「よろしく。フォーです」


 俺は二人と握手した。

 二人共に温かく柔らかな手をしていた。


「ところでここは? 俺はどうなったんですか?」

「落ち着いてください。救難信号を使用してあなたをお呼びしたのは私の独断です。あなたを選んだのは娘のルーです」

「俺を呼んだ? 救難信号を受信しても誰が飛ぶかは当日その時でなければ分からないぞ」

「いえ、七次元から眺めていればこの程度の未来予測など容易なのです」

「だからね、お兄ちゃん。私をあなたの国へ連れて行って!」


 未来予測が容易だと?

 お兄ちゃんって誰だ?

 連れて行って?

 誰を?

 ええ?


 俺は当然、大混乱している。何がどうなったのやらさっぱりだ。


「ごめんなさいね。一からお話しますわ」


 そう言って俺の手を取ったのは奥さんの方、フォーさんだった。


「私たちはこのエノラ……白いクジラの中で永遠の時を過ごしている者です」


 フォーさんによれば、彼等は……数億人もいる……このエノラ……の中で生活している意識体なのだという。元は惑星上で生活していた生命体だったのだが、一億年前に母星が超新星爆発で消滅してしまい意識体だけの存在となった。


「そこでこのエノラ……有体に言えば七次元を航行する宇宙船なのですが、全長はおよそ100キロメートル程。この中に数億人が暮らしています」


 という事らしい。その中で惑星上で三次元的生命体として暮らしたい意識体が少なからず存在しており、その意識体の為に生命体と連絡をとっているのだと。


「だからね。ヒカルには私のお兄ちゃんになって欲しいの。ね、いいでしょ?」

「あ……突然そういう事を言われても……」

「お兄ちゃんなら大丈夫だよ」


 大丈夫って。

 それ、どんな根拠があるんだ?


「もう転入の手続きは済んでおります。しばらくは中尉の傍を離れぬように」


 父のファーに念を押される。


「え? 俺は軍人ですよ? しかも艦載機のパイロットです。家族を連れての生活は無理ですが?」

「だから大丈夫だって。ね」


 さっぱり訳が分からなかった。


 その後、俺はリーオル家の歓待を受けた。

 地球式の食事……しかも和食を振舞われた。


 俺が……宇宙軍というエリートとは言えない軍人では食する事も難しいであろう高級料亭の味なのか。めちゃ美味かった。


 突然現れる椅子やテーブル。給仕。そして見物人らしき人影も伺えた。一億年前に肉体を失った人達からすれば、俺の存在は希少価値があるのかもしれない。

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