第2話 不運な衝突事故

 ドカンという轟音が響く。

 そして機体は激しく揺さぶられた。


「何があった?」

「不明です……」


 跳躍中の衝突事故だと?

 四次元化された機体が何とぶつかるって言うんだ?


 しかも、三次元化する30秒前で?


「機体に異常はないか? 急いで調べろ」

「了……解……」


 急にモニターがブラックアウトした。

 他の計器類の全て消灯。コクピット内は漆黒の闇となった。


AHALアハル! どうした?」


 機体のAIが沈黙している。

 いきなり全電源が喪失したのだから仕方がないか。


 しかし、三次元空間へと回帰したのか?

 それとも四次元へと次元昇華したままなのか?


 さっぱりわからない。


 次元昇華している時に見られる虹色の光芒も今はない。この機体は単座でコクピットの上半分は透明な風防となっている。三次元空間であるなら外は見えるはずなのだが何も見えない。


 宇宙服のヘルメットについているはずの照明も点灯しないし、右腕のハンドライトも反応しない。


「これは参った。どうしようもない」


 機体と宇宙服が全く動作していないのだ。宇宙服の酸素は24時間分なのだが、空気を循環させなければ数分も持たない。


 ワープカタパルトの事故なんか聞いたことはない。いや、数年前に海兵隊のコウ・エクリプス少尉が想定の100倍の距離をすっ飛んでいった事故は記録されているが、それだけだ。

 

 俺は死を覚悟した。

 機体が抱えている救助ポッドへと移動できるなら数日は生存可能なのだが、その移動すら困難。何も見えない。非常用脱出レバーの位置さえ把握できないのだ。


「諦めるの?」


 突然、頭の中で何かの声が響いた。

 少女のような声だ。


「いや、諦めたくはないが、どうしようもない。何も見えないし機体も宇宙服も機能停止している」

「ふーん。ちょっと待ってて」


 優し気な少女の声だ。

 すると俺の目の前がぼんやりと青く光り始めた。


 半透明の青いクラゲのようなモノが俺の目の前に実体化したのだが、それは少女の姿をしていた。


「私はルー・リーオルよ。ルーって呼んで。あなたは?」

「俺ははなぶさヒカル。連合宇宙軍中尉だ」

「ヒカルね。よろしく」


 ルーは俺に抱き付き頬にキスをした。宇宙服を着ているはずの俺の素肌に触れ、ヘルメットを通過して直接俺の頬へと。


「ど、どうなっている?」

「ん? そうね。高次元……だから?」

「高次元? 四次元じゃないのか?」

「うーん……ここは多分、あなたの認識なら七次元に該当します」

「七次元だと」

「そう。次元を三つくらいアセンションしてるね。だから機械はびっくりして動かなくなった」

「そうなのか?」

「なのです」


 三次元世界で生きる俺たちにとって理解不能だ。考えられるとするなら、ここが霊界、あの世って話になる。


「俺は死んだのか?」

「馬鹿ね。まだ生きてるし」

「じゃあ何で七次元にいる?」

「私が呼んだからよ」

「呼んだ?」

「そう。光より早い次元重力波を使って」


 この、クラゲみたいな半透明の少女が俺を呼んだのか? 次元重力波を使って?


「まあ、信じられないかもだけどついて来て。何も考えなくていいから」


 ルーに手を引かれた俺は機体の外にいた。

 俺の機体、無尾翼のバートラスがくっきりと見えているのだが、コクピットが開いた形跡はない。

 

「さあこっちよ」


 ルーに手を引かれバートラスから離れていく。俺は何故か素っ裸だったが寒さも感じなかった。


 そして目の前に光り輝く巨大な何かが出現した。まるでクジラのような、いや、俺が知っているクジラよりも何倍も大きな光り輝く何かだった。

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