第30話
凪
※
「………………うん、ありがと、あこ」
「言えるようになったら……ちゃんと、ちゃんと話すね」
消え入りそうな声で返事をして。
抱きしめながら、あこの声を聞きながら、考える。
伝えられたこと、言われた言葉、その意味、その過程。
あこが何を想って、何を考えて、そしてどう悩んでその言葉を今、私にくれているのか。
私は正直、この子に大事なとこはほんとに何も伝えれてない。
それを知られるのを怖がって、遠ざけて、大人びたふりしてはぐらかしてきた。
結局のところ、自分自身がその傷に触れるのが怖いだけなのに。
身勝手な話なんだよね、あこの心の傷には無造作に散々触ってる癖してさ。
そんな私の都合の悪い弱い部分を、確かに垣間見て、それでもこの子は。
―――聞きますと言ってくれた。待ちますと応えてくれた。
こんなだらしない大人より、よっぽどしっかりと私の立場になった言葉を、渡してくれた。
ああ、何この子、ちょっと都合がよすぎる。私の心を救うためだけに生まれてきたんじゃないかってくらい、人の心を簡単にその暖かさで溶かしてくる。
だって、こちらとら、生まれて何十年心を冷え固まらせてきたと想ってんの。なのに、なんでそんなに簡単にこっちの心を溶かしてるのさ。
実はサキュバスとか淫魔とかって、やっぱりマジなんじゃないのかな。だって、でないとちょっと説明がつかないもん。
こんなに愛しく想えてしまう説明が。
こんなに嬉しいと感じてしまう説明が。
ちょっとそれくらいしか思いつかない、思いつけない。だって、私の心なんて、とうの昔にぐっちゃぐっちゃになっていて、愛も、喜びも、暖かさも、優しさもすっかり感じなくなっていて。
しかもそう歪んでしまってから、もうどれくらいたったかさえわからないのに。
こんな心まで冷え切った、どうしようもないくらい不感症の私だっていうのにさ。
どうして、この子は――――。
あこの肩にあずけた顔から、情けなくこぼれる涙だか鼻水だかわからない物が垂れていく。
私の胸に顔を預けているあこも少し泣いてはいるけれど、私のほうが比じゃないくらいに泣いている。
でもそんなドロドロになりながらでも、抱き合っている暖かさはどうしようもなく心地がよくて―――。
そう、人って誰かと抱き合うと心地がいいの。
暖かくて。
緊張がほぐれて。
息が緩んで。
身体から力が抜けて。
そのままずっとその感覚に身を預けたくなってくる。
胸の奥にずっとずっと燻っていた暗く尖った何かが、ゆっくりと緩んで解けていくような、そんな感覚がずっとしてる。
私の中に眠っていた、どうしようもない痛みたちが、すっかり溶けてなくなってしまうような、そんな気さえしてしまう。
これが多分、何百万年も昔から、人間に、その身体に、遺伝子に、ずっと刻まれてきた一つの習性。
でもずっと、私が忘れてた、そんな小さな当たり前のこと。
誰かと抱き合うこと。
誰かに受け容れてもらえること。
そして、誰かを愛しいと想うこと。
ああ。
ああ―――。
ああ――――――――――――。
こんなの。
こんなのさあ――――――。
ちょっと抑えきれないじゃん。
「あこ」
「はい」
「抱きたい」
「……………………え?」
「……………………………………」
「えっ!? えっ!!?? えっっっ!!!!!???????」
「我慢するけどさ…………今、すんごくあこを抱きたい」
「ほほほ、発作ですか!!?? あわ、あわわわ、えと、えと!!??? どどどどしましょう!!!!????」
「あこ、違うから」
「―――――ひゃい!!!????!!!???」
「ちょっとあこが愛おしすぎるだけだから、発作とか関係ないからね」
「!!!!!!!!!!!???????!!!!!!!!!!???????????」
あこの肩から顔を離して、その顔をじっと見る。泣きそうな瞳が困惑と動揺と照れで真っ赤になってる。ああ、もうそういう顔さえ可愛いのは、本当にどうにかしてるというか。
しかし、何回見てもこの子、美人だな。鼻立ちは整ってるし、肌は綺麗だし、眼はくっきりしてるし。大人びてるのに可愛げもすんごいあるし。私の好みドンピシャなのもなんというか。
あ~~~~~~~~~ほんっとダメ。意識すると余計ダメ。約束が無かったら絶対に犯してる。夜まで犯してるし、朝まで犯してる。なんなら今すぐベッドに連れ込んで裸にひん剥いて、首筋と胸と子宮の位置に噛み跡を何個もつけたい――――って、本気でダメだ。あんまり考えるとうっかり実行しそう。ていうか、なんでもいうこと聞くとか、こんな可愛い子が言って許されるセリフじゃないから。
だから、まあ、あれだ。このままムラムラしたままだと本当に発作とか起こしかねないから。
ちょっと――――鎮めないといけないよね。
「ごめんね、あこ。ちょっと乱暴にしちゃうけど}
「ふぇ!!!!???????」
そう宣言して、そのままあこの唇を無理矢理奪った。
「ななな!!??? なぎさ!!?? わたわたしご飯食べてから、歯ぁ磨いてなぃんですけd!!!???」
なんかうるさいので再度唇を奪った。それから、熱く湿ったあこの舌を絡めとるように私の舌を挿れて舐った。ちょっと乱暴に貪るように、絡めとるように、その唇と舌を嘗め尽くして、吸いつくす。
その後も、何度かちっちゃな抗議をしてきたから、そのたびに唇を犯して、舌を犯して、口内を犯してた。
そうやって、あこの脳の奥ま犯すつもりで、私の舌で犯し尽くした。
そのたびに、あこは何度か何か言ったり反応をしようとしてたみたいだけれど、次第に快楽に溶けるみたいに抵抗も身体の力も弱まっていく。
そうしてキスの回数が二十を超えるころには、顔が真っ赤なまま身体をびくびく震わせている、蕩け切ったあこができあがっていた。
うーん……ディープキスの初体験にしては少し刺激的が過ぎたかもしれないけれど。
そうやって呆けている姿すら可愛いと想えてしまうから、いよいよ私もどうしようもなくなっているのかもしれない。
後でちゃんと謝んないとなって考えながら、既に放心状態のあこの口にもう一度貪るように口づけした。
既に許容量を超え切ったあこの身体は、顔を真っ赤にしたままただ快感に身を震わせていることしかできなくなっていたけれど。
ていうか、私、まじで約束の日までちゃんと我慢できるのかなあ……、そうちょっとだけ心配になるなぎさんでした。
ちなみにその後、正気に戻ったあこに、『そういうキスは初めてなんだから、もうちょっと手加減してください!』と怒られるのはまた別のお話。
※
愛心
※
「どうしよう……早紀……私えっちの日、気持ちよすぎて死んじゃうんかもしんない…………なぎさん……その……うますぎる気がするんだけど……」
『………………ちょっと気持ちがわかっちゃう自分がイヤ……』
「え、だって、ほんと……なぎさん、やばくて……キスだけで、もうおかしくなりそうで……。もしかして、女でもイキすぎたら腹上死とかしちゃうのかなぁ…………」
『……どうか……強く……生きなさい…………』
「やばひ……やばひよ…………」
『骨だけは拾ってあげるわ…………』
「やばひ……なぎさん……やばひ……」
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