第44話 公園デート シズ視点
ヒビキさんが泊まりに来てから数日後。僕達はバスに乗って広い公園へと遊びに来ていた。アオイが体を動かしたいと言ったからだ。
僕も、ヒビキさんの件ではアオイに寂しい思いをさせてしまったし、二つ返事でオーケーした。
「うわ広!? 初めて来たけどこんな広い場所あったんだ〜!」
はしゃぎ回るアオイ。しかし、公園についてすぐ飼い主が遊ばせていた犬が彼女へ駆け寄って来た。
「助けてええ!!」
「何やってるんだろ?」
飼い主が慌てて戻って来るまでアオイは犬に舐めまわされていた。
……。
「あ、あれやりたい」
アオイが指差した先を見ると、公園内にあるサイクリングコースを自転車が走っている所だった。2人乗り自転車。なんだか変わった形だな。
「へー。2人乗りなんてあるんだ。アニメみたいだなぁ」
「でしょ? 絶対楽しいって!」
入り口で「レンタサイクル」をやっているという看板を見たから、そこのヤツだな。
2人で公園内を探し回ると、公園の1番奥にレンタサイクルの受付施設が見えた。
中に入りチケットを買う。2人用の「タンデム」という自転車。ママチャリみたいだけど、後ろにも掴まる為のハンドルとペダルが付いてる。
係員のおじさんにチケットを渡して、2人で自転車に乗る。
「お、意外にペダル軽いな」
「オレも漕いでるからじゃない?」
2人で漕いで、サイクリングコースを走って行く。タンデムは珍しいのか、歩道を歩く人とすれ違う度、笑顔で見つめられる。それがなんだか恥ずかしい。
でも……。
「すごーい! めちゃくちゃ楽しいこれ!」
風を切る感覚と、後ろから聞こえるアオイのはしゃぐ声……久々に自転車にのった感覚も相まって、ずっと乗っていられるような気がした。
◇◇◇
自転車を返して、公園内の休憩スペースで休むことにした。スペースにあるお店でアオイがソフトクリーム、僕が缶コーヒーを買う。
ベンチに座って辺りを見回すと、日がだいぶ落ちて辺りは夕方のオレンジ色に染まっていた。
「なんか、こういうのもいいね」
アオイがソフトクリームを食べながらポツリと呟く。
「今日サイクリングとしては最高の天気だったかも」
「……ねぇシズ?」
夕日に染まったアオイが、真っ直ぐ僕を見つめる。
「どうしたの?」
「あの、さ。ディーテの言ってたこと覚えてる? オレの戸籍のこと」
「ああ……アオイのお母さんにって話のことか」
「……うん」
俯くアオイ。それだけで分かった。アオイは両親と仲が悪い。説得するのに気が引けるんだろう。
「僕もいるよ。心配いらないって」
「そう、だよね。ごめんね。せっかく遊びに来たのに……」
少し悲しそうなアオイ。これは……まだアオイのお母さんに事情を話すには時間がかかるな。
「……」
「……」
休憩していた老夫婦が去っていく僕たちが休憩スペースに2人きりになる。差し込む夕日。オレンジ色に染まる彼女。その姿を見たら。無性にアレが言いたくなる。
「アオイ」
「何?」
「好きだよ」
「え!? ど、どうしたの!? 急に……」
「アオイの顔見てたらさ、言いたくなって」
「ふふっ……嬉しいな」
「大丈夫。きっとなんとかなるよ。2人だったらさ」
「そうだよね。きっと……なんとかなる! そう考えるよ」
アオイは嬉しそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます