第43話 迎えに来たわよ ????視点

 幼女ちゃんの家のチャイムを鳴らす。ドキドキしながら待っていると、扉が開いた。


「ディーテ!? 良かったぁ……迎えに来て……」


 ガックリと項垂れる幼女ちゃん。なんだかその姿も可愛いわね。


「うん? のじゃロリちゃんなんかやらかしたの?」


「いや、色々……まぁ上がってよ」


 幼女ちゃんに連れられて部屋に入る。中ではのじゃロリちゃんと彼氏君がゲームで遊んでいた。


「ディーテさん。用事終わったんですね」

「あ! ママ! おかえりなのじゃ!」


「うふふ。ただいまのじゃロリちゃん。そろそろ帰るからね」


「じゃあ片付けしてくるのじゃ〜」


 そう言うと、のじゃロリちゃんは彼氏君に手伝ってもらいながら片付けを始めた。


「ありがとね幼女ちゃん、彼氏くん。ちょっとね……私用があって」


 私は願いの神だから、強く願う人を見つけたら行かなければならない。それは私の意思とは関係なく、そういう風になっているから。


 でも、今回のは中々キツかったわね……悲痛な想いを受け止めるのは。


「いいですよ。ちょっと驚きましたけど」


 彼氏くんが苦笑いする。


「そうそう、ヒビキさんとこんなことがあって……シズにさぁ」


 幼女ちゃんが昨日のことを説明してくれた。


 ……。


 …。


「そう。きっと寂しかったのよ」


「寂しかったって……それであんなことやるかなぁ?」


「まあまあ。今度何かお礼するわね?」


「お礼だったらオレの戸籍なんとかしてよ。シズにお願いして貰うからさ」


「う〜ん……」


 幼女ちゃんの顔を覗き込む。



 ううん。まだその時じゃ無いわね。



「意地悪してないで早くなんとかしてよ。この状態で風邪なんてひいたら致命傷になっちゃうよ」


「分かってないわね」


「何が?」


「幼女ちゃんと彼氏君の間はもう十分。でもね、貴方の言う戸籍云々の話をなんとかしようとすると、世界中の認知を歪める必要があるの。それにはもう少し条件が必要よ」


「え、それって無理ってこと?」


「違うわ。貴方と最も繋がりが深い人との問題を抱えたままではできないってことよ」


「繋がりの深い人?」


「貴方の母親」


「か、かあさん……?」


「そうよ。貴方の母親が今の貴方の存在を認める必要があるわ。それによって世界の認知に歪みが生まれる。私の力も使いやすくなるって訳」


「う〜ん……母さんかぁ……」


「ま、私はのじゃロリちゃんの家にいるし? 帰る前には事前に言ってあげるわ。それまでになんとかしなさい」


「か、考えておくよ」


「別に貴方達が駆け落ちしたいって言うなら私の世界に連れ帰ってあげてもいいけど?」


「え」

「え“」


 2人がビシリと固まる。まぁ無理もないわよね。この世界とは違う場所なんて言われても想像つかないだろうし。


「「それはない方向で……」」


「あら残念」


「儂はママと一緒だったらそれでもいいけどの〜」


「……」


 のじゃロリちゃんが笑う。無邪気そうな顔。ちょっと私の面影を残して作った姿の女の子が。なんだか、その顔を見ていたら……。


「どうしたのディーテ?」


 ふと見ると、幼女ちゃんが不思議そうな顔で私のことを見ていた。


「え? ううん。なんでもないわ」


「ママ! 準備できたのじゃ!」


「じゃあ帰るわね」


「今度は泊まる時は事前に言ってよね!」


「うふふ。そうするわ」

「気をつけるのじゃ」


 

 幼女ちゃんと彼氏くんに見送られながら部屋を出る。



 しばらく道を歩いていると、今回の私の「私用」のことが頭をよぎる。



 ……今回叶えた願いは、病気で死にかけた子供の母親からの物だった。子供を助けて欲しいと。


 人の運命に関わる願いは用意には叶えられない。母親の残り寿命の半分を対価に助けられると伝えたら……2つ返事で了承した。


 抱き合う家族。喜びを分かち合う顔。


 でも、きっと近い将来あの母親は子供達と別れなければならない。寿命を差し出したのだから。


 そこまでしてなお……。


「のじゃロリちゃん」


「なんじゃ?」


「買い物して帰りましょうか」


「おお! 夕飯はブリ照りが食べたいのじゃ〜!」



 のじゃロリちゃんと手を繋ぐ。満面の笑みで私を見てくれる顔。この子は精神がかなり幼くなっている。もう、元の人格は以前の記憶が残るばかりだろう。


 この子の真の願いを叶える為にこの姿にしたが……そのせいで愛着が湧いてしまっている自分もいる。



 ……この子を残して私は帰るのだろうか? 自分の世界に。



「この前作ったやつよね? 頑張ってみるわ」



 まぁいいわ。幼女ちゃんと同じ。まだ私には時間がある。もう少し楽しみましょう。この親子関係を。



「楽しみじゃの〜ママの料理は美味しいから好きなのじゃ」



 なんだかその手を握っていたら、本当に親子になったような気がした。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る