第37話 準備! シズ視点

 翌日。


 僕ははもう一度家に戻っていた。


「しばらく家空けるから念入りに片付けとかないとなぁ。Gとか出たら嫌だし」


 想像したら背筋がゾワッとした。徹底的にやっておこう。


「まずは泊まるようの準備か」


 着替え、スマホ充電機、ノートPC……必要な物をリュックに詰めていく。


「着替えはとりあえず1週間分でいいかな」



 ……。



「これでよし。後は足りなかったら取りに帰って来よう」


 次は……掃除か。


 ゴム手袋をはめてスポンジに洗剤を付ける。隅まで念入りに擦っていく。


 あ、そうだ。向こう行ったら風呂掃除もしないとな。アオイ、苦労してたみたいだし。


 ……。


 アオイと一緒に暮らす……かぁ。アオイが持ってたあのRPGもまた見たいし、ゾンビゲーをクリアまでプレイしてもいいかも。アオイ怖がるかなぁ。和製ホラーは怖がってたけど、ゾンビゲーは昔やってたし大丈夫だよな?


 無償にワクワクしている自分がいることに気が付いた。


 アオイ……僕のこと何でも知ってくれてるし、趣味も合う。最近泣き虫だから色々してあげたくなるし……ヤバイ。アオイって僕にとって理想の彼女、かも。


 この前も、あんなこと・・・・・してくれたし……毎日一緒にいたら……。


 変なことを考えそうになってブンブンと顔を振る。



「何考えてんだよ僕は……」



「何考えてたの?」



「うわっ!?」


 急に声をかけて振り返ると、不思議そうな顔をしたミオが立っていた。


「鍵もかけ忘れてるし、ニヤニヤしながら風呂掃除してるし、どしたん?」


「いや、お前こそどうしたんだよ急に!」


「え〜? この前言ったじゃん。こっち来る用事あるから一回寄るって」


 あ、そういやメッセージ来てたな……舞い上がって忘れてたかも。



「それより何かあった?」


「えぇと……」



◇◇◇


 ミオとテーブルに向かい合って座り、アオイと一緒に住むことを伝えた。こんな改まった感じで報告すると……照れるな。


「えぇ〜!? 蒼姉と同棲!?」


「い、いや春休みの間だけだから」


「え〜? でもいいじゃーん! 応援するよ♡」


「ミオのその軽さが今はありがたいよ」


 僕達は他の人にどんな風に思われるか分からない。アオイの見た目も幼いし……でもミオは普通に接してくれる。僕達を普通の恋人として見てくれる。そのおかげですごく気が楽になる。


「でも良かったね。アオイ姉この前泣いてたでしょ? きっと静兄から言って貰って嬉しかったと思うよ」


「あの時、僕が『そんなことしない』って即答していれば泣かせることなかったと思って。ちょっとでも喜ばせたくてさ……まぁ、嫌がられたらどうしようって緊張したけど」


「蒼姉が? ないない。アタシには分かるね。ずっと待ってたよきっと」


 ミオが大袈裟に手を振る。


「蒼姉が静兄見る時の顔。もう愛だねアレは。うん」


 ミオが腕を組んでうんうんと頷く。


 愛って……そう言われると恥ずかしいな。


「でも真面目な静兄がねぇ〜春休みまでかぁ……何にもできずに終わるんじゃないのぉ?」


「……」


「え? なんで黙るの?」


「……」


「なになに!? え、なんで黙るの!?」


「……」


「え、え、ちょっと。何かあったの!?」


「いやぁ?」


「いやぁ? って何よ!? 絶対なんかあったでしょ!? 言いなさいよ!」


 その後、小1時間ほとミオに問い詰められた。



 ……。



 僕は何も言えなかった。

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