第38話 ぼーっとして来た。 シズ視点

 詮索してくるミオを何とか追い返してアオイの家へ戻る。


 ドアノブを使んだ所で急に緊張して来る。


 僕、今日からアオイと暮らすんだよな……? 春休み明けまで2ヶ月も。


 ヤバイ……特に今日はすごい意識してしまうかも……。


 緊張を抑えながら扉を開けると、部屋の奥ではちょこんとアオイが正座していた。


「あ、えと、お帰りなさい」


 モジモジするアオイ。恥ずかしそうに俯いてこちらをチラチラ見て来る姿を見ると、胸の奥が締め付けられるような感じがする。


「なんで正座なの?」


「だって……落ち着かなくて」


「ずっとそうしてたの?」


「い、いいじゃんか! 早く入って来て!」


 家に入って自分の荷物を置く。本当は今すぐにでもアオイを抱きしめたいけど、恥ずかしすぎて、荷物の整理を始めてしまう。くそ。肝心な時にいっつも恥ずかしくなるな僕は……。


「あ、そうだ。ゾンビゲー持って来たんだけどさ、春休み中にクリアまでやろうよ。アクションなら怖くないだろ?」


「あ、いいな〜! それなら大丈夫かも!」


「僕もこの前のRPGやりたいな。夜にやろう」


「うん! めちゃくちゃワクワクして来た〜! この前のプラモ作りたいし! それに、いつでもカードできるじゃん!」


 アオイのテンションが一気に上がる。それを見て僕も嬉しくなる。


 そうだよ。アオイ恋人だけど友達でもあるし、意識しなくても大丈夫だよな。普通に過ごせるはず。



「そういう所やっぱり好きだなぁ」



「え?」



 急に、アオイの雰囲気が変わる。なんというか、一気に女の子の顔になる。


「今のもう一回言って?」


「え、今の……?」


「好きって言ったじゃん」


 ちょっと怒ったような顔で、頬赤らめたアオイが僕の肩に手を置いて来る。


「言ったよね?」


「言ったけど、そういう意味の好きじゃ……」


「じゃあ、どういう意味?」


「な、なんでいっつもこういう時は雰囲気変わるのさ」


「え〜? だって……」


 アオイが顔を近づけて来る。息がかかって僕の顔が一気に熱くなる。


「シズのそういう所・・・・・、好きだもん」


 アオイが急にキスしてくる。


「ん……っ。好きだよシズ……」


「ち、ちょっと!? なんか、スイッチ入ってない!?」


「だって、んちゅ……はぁ……嬉しかったもん」


「アオイ? ちょ、ストッ」


「んっ……嫌だ、もん。やめない」


 あ。


 なんか急に頭がボーッとして来た。アオイの舌の感触もするし、心臓が破裂しそうだし。


 そもそもなんで僕は止めようとしてたんだっけ?


「シズ……好きぃ……シズ……」


 こんなに可愛いアオイにこんな風に気持ちをぶつけられて、なんで……。


 なんとなく、アオイの気持ちに答えたくて彼女の体を抱きしめる。



「あ……ヤバ、ギュッてされるの好きぃ……ん……」


 アオイの「好き」がずっと繰り返される。彼女の唇の感触、舌も、その全部が何も考えられないようにして来る。


 さっきまで友達みたいにゲームの話でワクワクしてたのに、もうこんな感じになってる。これから僕は大丈夫なのだろうか? アオイと一緒に暮らして、自分を保てるのかな?


 ……。



「好きぃ……シズ……んちゅ……」



 いいや。もう考えるのやめよう。僕も好きなんだから。



 それでいいじゃん。

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