第36話 一緒に住みたい シズ視点

 響さんと映画を見に行った日の夜。やはりというか、予想通りというか、アオイがすごく怖がったので泊まることになった。


 アオイのベッドの横に布団を敷く。なんだかこの動作も随分慣れた気がするなぁ。アオイが女の子になったばかりの頃はこんな風になるなんて考えてもなかったのに。


「ねぇシズ? そっの布団行ってもいい? こ、怖くて」


 やっぱりまだ怖いのか。相当怖がってたからなぁ。


「いいよ。おいで」


 呼ぶと、飛び込むようにアオイが布団に入って来た。小さな体がフルフルと震えていて、なんだか可哀想な感じがする。


 抱き寄せてその背中をさすってあげると、アオイの体から強張りが少しだけ取れたような気がした。


「うぅ〜怖いぃ……」


 ……。


「今日のアオイは偉かったと思うよ?」


「え?」


「響さんに合わせて怖い映画に付き合ってあげたんだろ?」



「ま、まぁ……なんだかよっぽど見たかったみたいだし? 断るのも可哀想かなって……」


「偉いよ。アオイ」


「えへへ。そうかな?」


 幼い返事。ここ最近感じていたけど、徐々にアオイの幼さが強くなってる気がする。それが、なんだか怖い。アオイがアオイじゃなくなりそうで……。


「アオイは、アオイのままだよね?」


「う? 決まってるじゃん。どうしたのシズ?」


「なんか最近さらに幼くなってる気がするなって」


 アオイはちょっと考えたあと、僕にギュッと抱き付いた。


「変わんないよオレは。話し方とか、泣きやすくなったとか色々変わったけど……シズとの思い出も覚えてるし、絶対忘れない」


「そっか……ごめん。変なこと言って」


「心配になっちゃった?」


「ちょっとだけ。アオイがその姿に変わってからずっとアオイはアオイだって思って来たのにさ、今日は特に心配になっちゃって」


「あ〜今日はオレ必死だったからかも」


「めちゃくちゃ怖がってたしなぁ」


 僕が笑うとアオイが膨れたような顔をした。それが、すごく可愛く思えて、アオイを思い切り抱きしめる。


「はああ、ぁ……安心するぅ……」


 アオイが顔をグリグリと押し付けて来る。なんだか、僕もアオイのことがすごく……。


「シズにギュッてされるの好きぃ……」


「あ、あのさ」


「なに?」


「春休みの間一緒に住む……とかどう?」


「え……」


 アオイが固まる。急に悪いことを言った気になって慌ててしまう。


「あ、いや、ほら! 行き来するのも大変だしさ、アオイとずっといたいっていうか、いや、その……嫌だったらいいんだけど……」


「する!」


 アオイの手に力が入る。


「シズと一緒に住む。絶対楽しいし……嬉しい」


「そ、そっか。じゃあそうしよう。明日、着替えとか持って来るよ」


 急に頭が回りだす。色々用意しないとな。あ、しばらく部屋開けるから風呂掃除と念入りにしとかないと。明日は一度帰って、準備して……シフトももうちょっと減らして貰おう。ちょっとでも長くいられるように。


「……嬉しい。シズからそう言ってくれて」


 アオイが微笑む。その顔を見てドキリとする。もう、僕の中でアオイは恋人だった。色々な所で問題はあるかもしれないけどアオイだから、そう思える。


 あ、そっか。


 不安になる必要なんて無いんだ。やっぱりアオイはアオイなんだ。言動とか、仕草とか、気にしてどうするんだよ。分かってたはずなのに、すぐ大切なことを忘れてしまうな。僕は。


「明日からよろしくね。シズ」


 その顔を見ただけで、言って良かったと思える。


「ふふ。楽しみだなぁ〜」


 アオイがふっと視線を送る。部屋の壁の1箇所に。


 その時。ふと疑問にが浮かんだ。


「そういえばさ、どうして響さんアオイの家知ってたの?」


「え? そういや教えてないなぁ。ディーテから聞いたのかも」


「ディーテさんかぁ……そういえば、この前ディーテさんに覗かれてたよね」


「そういやそんなことも……」


 アオイがさっき見ていた部屋の一点を見つめる。ディーテさんが何もない空間から出て来た辺りを。



 その時、急にパキッという音がした。



「ひっ……」

「うわ……」


 家鳴り、か? なんか見てたあの空間から鳴った8日気がする。


 あの空間になんかいたりして。ディーテさんだったらいいけど、別の存在が……。


「か、考えないようにしとこうか」

「こ、怖……っ!」


 ダメだ、ホラー映画見たせいでなんか怖いぞ。変な妄想みたいなのが頭の中をぐるぐる回る。


「シズゥ……」


 結局、アオイは寝付くまで僕から離れなかった。

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