第35話 連れてって欲しいのじゃ! シズ視点

 バイトが終わったのでアオイの家に向かっていた。駅を通り過ぎて商店街を進む。


 改めて考えると往復だと結構な距離だなぁ。春休みの間はずっとアオイの家にいようかな……あ、いや、アオイが良ければだけど……。


 それからさらに5分ほど歩いて、アオイのアパートが見えた頃、家の前でアオイが何かしているのが見えた。


「いや! 行かないって!」


「何でじゃ! わしらは姉妹みたいなもんじゃろぉ?」


「勝手に姉妹にしないでよ響さん!」


 ん?


 なんかアオイとつり目の女の子が言い争ってる。


 何だろう? 近くの小学校の子だろうか?


「どうしたのアオイ?」


「う〜シズ〜! 響さんがホラー映画に連れて行こうとするんだよ〜!」


「ホラー? というかこの子だれ? 知り合い?」


「う〜この人はねぇ……」


 アオイが説明してくれる。目の前の女の子、響さんが女神ディーテによってのじゃロリにされてしまったという経緯を。しかもそのままディーテさんが住み着くとは……。


 そんな漫画みたいな話あるんだ……。でも、目の前のアオイも同じようなもんだからなぁ。


「え、ちなみに響さんは何歳なの?」


 響さんに尋ねてみると、彼女は腕を組んで考え出した。


「え〜と……77歳じゃな」


「な、77……」


「響さんって結構歳いってたのか……」



「そんなことよりの。見たいのじゃ〜儂ホラー好きじゃしぃ。せっかく動くのも軽くなったわけじゃし〜行くのじゃ〜」


「だから嫌だってオレは!」


 響さんがアオイの腕をグイグイと引っ張る。はたから見ると女の子がじゃれてるだけに見えるけど、真実を知っていると、どんな顔して見ていいのか分からない光景だな。


ホラーに・・・・行くよホラ・・・・・! ホラーだけに! 違うか! 違うか! ニャははは!」


 1人で爆笑する響さん。隣を見るとアオイが絶句していた。


「というかディーテと行けばいいじゃん!」


「ママはの〜今日は忙しいんじゃ。蔵の掃除してくれとるからの」


「え、ディーテさんに家任せていいの? 昨日知り合ったばかりだろ?」


「シズシズは分かっておらんのぉ。ママと儂は肝胆相照かんたんそうしょう照らす仲。母と娘は心の奥底まで理解し合っておるのじゃ♪」


「し、シズシズ……」


 なぜか響さんは女の子らしいポーズを決めてウィンクしてきた。


「何言ってるのか全然分かんないんだけどぉ」


 アオイが困った顔で僕を見つめて来る。


「安心してくれ。僕も全く分からない」


 と言うか、母と娘ってその設定受け入れてるのか響さん……。


 なぜかその日、僕とアオイは響さんと映画を見に行くことになってしまった。



◇◇◇


 「よし。行くのじゃ!」


 「シズぅ……絶対側にいてね……」


 響さんが見たいと言っていたのは最近公開したばかりのジャパニーズホラー。年齢制限は無いからそこまで怖いものじゃないと思うんだけど、アオイはもう映画館に入った瞬間からブルブル震えていた。


 後方の通路側を3席に響さん、僕、アオイの順番で座る。


「オカルト研究会なのに怖がりすぎじゃない?」


「この体になってから怖くなったんだよぉ……」


 必死に僕の腕に捕まるアオイ。反対席にいる響さんはというと……。


「ほほーっ!! ワクワクするのじゃ〜!」


 ハイテンションでオレンジジュースとポップコーンを食べまくっていた。


「ヒィィィィ! シズぅオレの耳押さえててぇ……」


 真逆の2人。周囲に迷惑かけないかがひたすら心配だった。



 ……。




 上映開始から1時間ほど経ち、本格的に怖くなって来た頃。



 膝がトントンと叩かれたので、下を見ると、響さんが僕の足元で丸まっていた。


「え、どうしたんですか?」


 顔面真っ青の響さんが小声で呟く。


「お腹痛い……のじゃ……」


「え!?」


 周囲から集まる視線。慌てて声のトーンを落とす。


「大丈夫ですか?」


「調子に乗って食べすぎたみたいじゃ……トイレに連れてってくれぇ……儂、こういう所来るの久しぶりじゃし……」


「わ、分かりました」


 立ち上がって響さんを連れて行こうとすると、裾がキュッと引っ張っられた。


「……?」


「行かないでよぉ……っ!」


 振り返ると涙目のアオイが僕の服を掴んでいた。


「い、いや響さんがお腹痛いって……」


「側にいるっていったじゃんっ!」


「いや、響さんが」


「うぅ〜死ぬぅ〜ヤバイのじゃ〜!」


「行かないでって!!」


 ヒィィィィ!? アオイ、怖がり過ぎて混乱してる!?


 周囲を見ると、怪訝な顔でこちらを見る観客達。


「早くぅ……限界じゃぞ……」

「ダメダメダメ1人にしないで!!」


 誰か助けてええぇぇぇぇ!?




◇◇◇



 結局、アオイも連れて無理矢理外のトイレへ行った。響さんはトイレから出て来ず、出て来た頃にはもう映画は終わってしまっていた。


「うぅ〜! せっかく楽しみにしておったのに〜!」

「うぅ〜! 1人にしないっていったのにぃ〜!」


 アオイはずっと泣きっぱなし。泣きじゃくる響さんをおんぶして帰るハメになった。


 響さんもまともに会話ができないので、とりあえずアオイの家へ帰る。


 すると、アオイのアパートの前に身に覚えのある女性がしゃがみ混んでいた。


「あれ? あの人……ディーテさんじゃないか?」


 ディーテさんは僕達を見るとパッと顔を明るくさせる。


「のじゃロリちゃん! 1人で出かけちゃって心配したのよ〜!」


「ママあああああ!!」


 響さんは、僕の背中から降りると、ディーテさんの胸に飛び込んだ。


「うぅ聞いておくれぇ……儂、儂……楽しみにしておったのにぃ……」


「おぉよしよし。お家でゆっくり聞いてあげるからね? 帰りましょ」


「うぅ〜帰るのじゃぁ〜」


 響さんを抱っこして帰ろうとするディーテさん。なんだか歪んでるけど、ホントの親子みたいだ……。



 ……はっ!?


 願い言わないと!



「ディーテさん? 願いって今……」


「ごめんね彼氏くん。また今度にしてくれる?」


「ですよねぇ」


「早く帰りたいのじゃ。帰ろ?」


「はいはい帰りましょうねぇ」


 そのまま、ディーテさん達は帰ってしまった。


「うぅ〜シズぅ〜怖かったよぉ〜」


「よしよし」


 泣きじゃくるアオイを抱っこし僕らも家へ帰る。



 なんだったんだ今日は?



 なんだか振り回されてばかりな1日だった。

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