恋人になったあと♡

第27話 ちょっと切ない部室 アオイ視点

 シズと恋人になって1週間。


 シズはバイト。だからオレを家まで送ってくれるのは部長になった。1人で帰れるっていったのに、部長もシズもダメだって言うし……。帰るくらいなら大丈夫な気もするけどな。


 部室に行くと、部長がノートパソコンに向かって何かやっていた。


「お♪ 蒼ちゃん。もうちょっと待っててね。機関誌用の記事もうすぐ書き終わるから!」


「分かったよぉ」


 パイプ椅子に座って、リュックからノートを取り出し、講義の復習をする。


 カタカタと響くキーボードの音。静かな部室。珍しい部長の姿。なんだかそれが新鮮に感じた。


「ねぇ」


「なに?」


「ふふっ。最近全然敬語使ってくれないなぁ」


「だって先輩意地悪ばっかりしてくるし。そんな人に敬語なんて使わないよ」


「この前恋人ごっこの協力してあげたでしょ?」


「う……それはそうだけど……先輩の前でキスさせようとして来たからナシ!」


「え〜? 厳しいなぁ……」


 先輩が苦笑する。その様子が、なんだか寂しそうに感じた。



「あのさ、小さくなるってどんな気持ち?」



 ん? 「小さくなる」なんだ。「女の子になる」じゃなくて。



「う〜ん。深く考える前に言っちゃったり……すぐ泣いちゃったり〜不便かなぁ」



 なんでそんなこと聞くんだろ?



「見てるとさ、ちょっと羨ましいなって」


「なんで?」


「私あれでしょ? 部長になってから他のみんなと喧嘩別れしちゃったって言ったでしょ?」


 そういえば今の小野寺部長に交代した後に前のメンバーはみんな辞めちゃったって言ってたな。


「みんなさ、オカルトって言いながら怪談聞いたり、心霊動画みたり……そんなので良かったんだ」


「それが部長の方針と合わなかったの?」


「うん。私は結構ガチでさ。本当は誰か残ってくれると思ったんだけど〜」


 先輩が顔を背ける。


 その話の先はオレも知ってる。今の部室に部長は1人。オレ達が入った時も1人だった。


「……後悔してるんだ。あの時謝れば良かったなって。そしたら、今もみんなで楽しくサークルやれてたのかな」


「……」


「だからさ、蒼ちゃんみたいに素直だったらって思って」


 部長。いつも変な人だと思ってたけど、そんなこと悩んでたんだ。


 うつむく部長。なんとなくかわいそうになって……部長にそっと近付いた。


「大丈夫?」


「ごめんね。なんか急にさ、思っちゃって……」


 部長、笑顔だけど……なんとなく泣いてる気がする。何かしてあげたくて、でもなんて声かけていいか分からなくて、部長の頭に手を置いてみた。


「……蒼ちゃんは優しいね」


「前のオレだったらこんなことできなかったと思うけど……今ならいいかなって」


「女の子だから?」


「分かんない。最近勉強以外は難しいこと考えなくなって来たから」


「それって、怖くない?」


「う? う〜ん。でもさ、オレはオレかなって思ったらあんまり怖くなくて。シズもいるし」


「そっか……私も何かあったら手伝うからね」


「うん」


「ふふ」


 部長が笑う。


「なんで笑うのさ!」


「あ、ごめんごめん! もしかしたら部員のみんなが残ってたら静樹くんや蒼ちゃんに会えなかったかもって思って」


「あ〜そうかも。人数少なめのサークル探してたからなぁ……シズもあんまり人付き合い得意じゃないし」


「でしょ? そう考えたらこの生活も悪くない!」


 部長がガバッとオレを抱き上げる。


「ちょっ!? なになに!?」


「カワイイ〜♡」


「離してよ!」


「離さな〜い♪」


 ギュッてされて撫で回されてぬいぐるみかと思うくらいめちゃくちゃにされる。


 でも、急にその手がピタリと止まった。


「ねぇ。蒼ちゃんも静樹くんも、私の後輩でいてくれるよね?」


「うぇ? 当たり前じゃん」


「ありがと〜♡」


「ちょっとぉ!? そのギュッてするヤツやめてぇえええ!?」


 部長はすっかりいつもの様子に戻っていた。

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