第24話 恋人ごっこ シズ視点

「いい蒼ちゃん。明日の夜まで恋人ごっこ全うするんだよ?」


「う、うん……」


「静希くんもだよ!? 恥ずかしがらないで! 蒼ちゃんがしたいこと言ったら絶対に聞いてあげること! いい!?」


「ぶ、部長……なんでもって……」


「いい!?」


 部長の圧がすごい。中途半端なことしたら絶対に許してくれなさそうだ。


「分かりましたよ……」


「じゃ、明日会うのを楽しみにしてるからね〜♪」


 そう言うと、部長は扉をバタンと閉じた。


「な、なぁアオイ? 恋人ごっこって何したらいいの?」


「う? う〜ん……」


 アオイがうんうん唸って考え込む。


「とりあえず……はい」


 差し出された手。困惑していると顔を赤くしたアオイが僕の事をチラチラ見た。


「手……つないで、欲しいなぁ……」


「て、手か……」


 人通りが多い所ではぐれ無いように繋いだことはあるけど、こう言われると照れるな。


「ほら! 静希くん繋いで繋いで! もう始まってるんだよ!」


 突然部長がドアから顔を覗かせた。


「ちょっ!? いつまで見てるんですか!」


 扉を無理矢理閉める。部長が出てこないことを確認して恐る恐るアオイの手を握る。小さな手は今日の寒さでキンと冷えていた。


「へへ。あったかい」


「そ、そう?」


 なんだか緊張する。最近なんとなくそういう場面はあったけど……意識すると、特に。



「きゃーーーーー2人ともカワイイーーーー!!! 死ぬ! 私死んじゃう!!」



 再び扉から顔を覗かせ悶絶する部長。



「ん〜?」



 アオイが笑顔のまま部長を見つめる。



「あ、あははは……ごゆっくり……」


 部長がゆっくりドアを閉めた。突然静かになるサークル棟。何かを叫ぶ部長の声。笑顔のままのアオイ。有無を言わせぬその迫力。



 ……ちょっと怖かった。




◇◇◇


 帰り道にファストフード店に寄った。アオイがハンバーガーを食べたいと言ったから。


「夕飯にハンバーガー食べたいって好きだよなぁ」


「いいじゃんかぁ〜好きなんだもん」


 ハンバーガーにかぶりつこうとしたアオイ。彼女は僕をチラリと見ると、大きく開けた口を閉じて包み紙で口元を隠すように食べた。


「もう幼い感じ消えたね」


「ん? カードで遊んだらなんかスッキリしたみたい」


「そういえばさ、幼くなっちゃった原因ってなんなの? 女神がなんか言ってたけど良く聞き取れなくて」


「うぇ?」


 シェイクを飲もうとしていたアオイが急にむせた。


「ケホッケホッ……っ! な、内緒!」


「何が内緒なの?」


「なんでも!」


 顔を真っ赤にしたままアオイはストローに口を付けた。


「あ。そういえば恋人ごっこ中だったよねぇ?」


 ニヤニヤ笑うアオイがポテトをつまむと、僕の方へと差し出して来る。


「はい。アーン」


「えぇ!? 他の人見てるよ!?」


「いいじゃん。恋人ごっこでしょ?」


 イタズラっぽい笑みを浮かべるアオイ。彼女に見つめられながら、差し出されたポテトを食べる。


「美味しい?」


「お、美味しいよ」


「えへへ〜良かったぁ」


 満面の笑みになってるし……。


 なんだか……アオイがめちゃくちゃ女の子のなってる。いつもよりずっと。


「オレも食べさせて貰おっかなぁ〜」


「僕もやるの!?」


「恋人でしょ!?」


 ごっこなのに……必死すぎる。


 結局、アオイの言われるままポテトを食べさせた。



 ……。


 それからアオイを家に送り届け、帰ろうとした時。



 彼女が僕の袖を引っ張った。



「どうしたの?」



「……帰らないで」



「え。泊まってけってこと?」



「うん。家でも、恋人ごっこ……したいし……」



 頬を染めたアオイ。恥ずかしげに俯いて、僕を引き止める彼女。



 ヤバイ。今、本気で可愛いと思ってしまった。

 


 アオイの家で恋人ごっこ……?



 僕はどうなってしまうんだ……。

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