第25話 恋人ごっこ……? シズ視点


 アオイの家では結局、カードゲームで遊んで、ゲームして、いつもと変わらない過ごし方になった。


 しかし、2時間ほどが経った頃、アオイが急にくっついて来た。


「うわっ」


 焦って離れようとしたら、僕の袖をキュッと掴むアオイ。彼女は少し怒ったような顔で覗き込んで来る。


「恋人ごっこは……?」


「え、だってごっこだし……」


「むぅ〜」


 黙り込むアオイ。彼女が僕を見る目が鋭くなる。


 なんか悪いこと言ったかなぁ。


 しばらく僕を見た後、アオイは意を決したように口を開いた。


「そう。ごっこだよ、だから、嘘だからね。嘘だから」


 アオイが僕の上にまたがって来る。


「え!? ちょっ!」


「気にしないでって言ったじゃん」


「いや、気にするって……」


 アオイが僕の目を見つめてくる。それが潤んでいて、熱っぽくて、見ているだけで僕の頭もボーッとする。


 ヤバイ……なんか、頭が、回らない。


「好き」


 突然のことで聞き間違いだと思ったけど、アオイの表情からはその言葉しか考えられなかった。


「は……え?」


「嘘だから」


「な、なんだ……冗談言わないでくれよ」


「好き」


 アオイが首に手を回してくる。


「ちょっアオイ!?」


「好きだよ。シズ」


 その目が、表情が、見ているだけでおかしくなりそうだ。心臓が今にも破裂しそうで……おかしい……僕はおかしくなってしまったのか。


「シズも言ってみて」


「えと……」


「嘘だから……告白の練習だと思って、言って。ね?」


 その大きな瞳から目が離せない。


「練習。練習だから。オレに言って?」


 アオイ……。


 頭がおかしい。思えば今日はずっとアオイのことばっかり考えてた。急に幼くなった、恋人ごっこで緊張して……。


 あれ?


 僕は、アオイが女の子になってから、ずっとアオイのことが心配で……アオイのことしか考えてなかった、よな?


「言って欲しい。嘘でいいから」


 嘘……嘘か。


 そう思うと急に自分の中でハードルが下がった気がした。


 試しに言ってみようかな。アオイも言って欲しいって言ってるし……。


「言って? お願い」


 あぁもう訳が分からなくなって来た。目の前には美少女がいて、僕のことなんでも知ってるアオイで……僕に好きだと言って欲しいと言ってる。


 言いたい、かも。


「シズ……」

 

 目の前の女の子は喜んでくれるのかな。今まで告白した時は、嫌な顔されたり泣かれたりばっかりだったから……。



「す、好きだよ。アオイのこと」



 アオイの顔が変わる。涙をポロポロ流して、でも笑っていて……今まで、告白してこんな風になったことがなかったから、心臓が……破裂しそうなほど脈打ってる。


「もう一回、言って?」


「好きだよ」


「オレも……シズのこと、好き。大好きなの」


 アオイが顔を寄せて来る。もう今にも唇が触れそうで彼女の息がかかって、もっと頭がクラクラして来る。


「キス、したい」


「き、キス?」


「嘘だから。ね? 嘘のキス、しよ?」


 もうダメだ。何も考えられなくなって、頷くことしかできない。


「ん……」


 アオイの唇が触れる。柔らかくて、暖かくてなんだか、すごく……。


「はぁ……気持ち、いい。もっとしよシズ」


 また唇が重なる。いつの間にか、アオイの舌の感触も……。


「ちゅ……はぁ……もっと」


 キスの感触が気持ち良すぎて、好きだと言った言葉が頭の中でぐるぐる回る。僕が思ったことがアオイの口から、漏れる。なんだか、僕とアオイが混ざったみたいに。


「シズ……んっ、好きだよ」



 僕は……アオイのことが好きなんだ。それが分かった。



「シズ……好き。嘘じゃなくて……好きなの」



「僕も、アオイのこと、好きだ」


 アオイの息が荒くなる。僕もきっと同じだと思う。



「んんっ……もっと……もっとしたい」



 その日は、時間が分からなくなるまでキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る