第18話 もしかして…… シズ視点
ミオが僕の家に来た日から数日後。
「うぅ……寒すぎる……」
布団に入っても全然悪寒が取れない。風邪を引いてしまったのか?
体温計の男がピピっとなる。取り出して見てみると……。
「すごい……平熱だ……この寒気なんなんだよ」
風邪じゃなかった。くそぉ……逆に悔しいな。
とにかく布団に潜り込む。時間は20時過ぎ。当たりも暗くなってきた。何か食べないとな。昼はおにぎりだけで済ませたし……食欲もあるんだよなぁ。
そんなことを考えているとスマホに通知が入った。
「ん? アオイからだ」
アプリを起動すると「大丈夫?」と一言メッセージが届いていた。。
今日アオイを家まで送って行った時体調悪いって言ったからかな。心配させてしまったかも。
返信しようとすると、再びスマホが鳴る。
今家の前に来てるんだけど……。
「え!?」
慌ててドアを開けると、マフラーに小さなコートを着た女の子が立っていた。
「アオイ!? なんで!?」
「へへへ……心配だったから」
「外真っ暗だっただろ? 大丈夫だった?」
「うん。これ」
アオイが差し出して来たのはコンビニのレジ袋。中を見るとスポーツ飲料とレトルトのお粥が入っていた。
「あ、いいの?」
「それだったらさ、オレでも用意できるかなって。入ってもいい?」
「当たり前だろ。入ってくれよ」
アオイの鼻が少し赤くなってる。ここにくるまで寒かっただろうな。
コートを脱いだアオイが台所へ向かう。
「お湯沸かすよ。シズは寝てて」
「僕がやるって」
「大丈夫。流石にオレだってお湯沸かしてレトルトあっためるくらいできるよ。寝てて」
アオイに背中を押されてベッドへと寝かされる。ベットから台所を見ると、彼女が小さな体で鍋を取り出していた。
なんだか変な感じだ。この前はミオが来てたから分からなかったけど……アオイがウチにいるのが変な感じ。
「よ……っと」
アオイがあっためたパックからお皿へ中身を出す。火傷しないか心配だったけど、何事もなくお粥は出来上がった。
「はい、あっためただけだけど」
「ありがとう」
スプーンでお粥を口に運ぶ。こういうお粥って初めて食べた。玉子が入ってて優しい味。今の状況にはちょうど良くて、一気に食べてしまう。
「美味しいよ」
「良かった。それだったら風邪でも食べられるかと思って」
アオイが微笑む。その顔が可愛くて、胸の奥が一瞬熱くなる。それが急に恥ずかしくなって、顔を背けた。
それは……流石に良くない。
「? どうしたの?」
不思議そうな顔をするアオイ。少し首を傾げる仕草、長いまつ毛に大きな瞳。それが僕を見つめていて……その顔は……マズイって。
ダメだダメだ。意識するな。アオイにも、失礼だし……。
「な、なんでもないよ」
今日の僕は何か変だ。弱っているからか? それともこの前ミオに言わされたからだろうか?
アオイと一緒にいたいから、彼女のことを気にかけてるって。
◇◇◇
結局、アオイは泊まっていくことになった。彼女は帰ると言っていたが、僕が引き留めた。夜道を1人で歩かせるなんてさせたくなかったから。
ベッドの下にミオや親が来た
「はい。今日はもう寝て」
再びアオイに寝かされる。すぐ目の前にアオイの顔が……。
「なんだか恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん。普段は見下ろしてばっかりだし」
アオイ。もう、完全に女の子だな。趣味とかは前のままだけど。なんだろう。口調や仕草や雰囲気が優しい。柔らかい。女の子って感じがする。
「そうだっけ?」
「そうじゃん。いつもオレのこと心配して、すっごく色んなことしてくれるでしょ?」
「そのままにはできないし……」
「ふふ。だからさ、今日くらいはオレにお返しさせてよ」
「……」
「どうしたの?」
「アオイってさ。もう完全に女の子って感じだよね」
「シズは女の子のオレのことす……嫌い?」
アオイがモジモジする。その様子を見ていたら、もっと見たくなってしまう。
「僕は……カワイイと思うよ。女の子のアオイ」
自分が何を口走っているんだと顔が熱くなる。自分からカワイイって言うことってあったっけ?
アオイの顔も赤くなっていた。そしてオズオズと口を開いた。
「手……握ってていい? その、シズが寝るまで……」
「え、うん、いいよ」
ぎこちなく返事をすると、アオイが僕の手をキュッと握る。小さな、けど暖かい手。それだけで安心する。安心して眠りにつける気がする。
眠い。急に睡魔に襲われる。
「へへ」
恥ずかしそうにアオイが笑う。
「おやすみ。シズ」
少し潤んだアオイの瞳。熱を帯びたような顔。それを見た瞬間思ってしまった。
もしかして、アオイが女の子でいることを選んだのって……。
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