第15話 注)くすぐってるだけです シズ視点

「って言うことがあってさぁ」


「それは……部長もすごいことするな……」


 バイトが終わってアオイの家に行くと、今日の出来事を話してくれた。部長が窓に張り付いていたいたらしい。


「いや、ビックリだよ。まさか3階までよじ登って来るなんて……」


「そこまでして部長は何を見たかったんだ?」


 質問をした瞬間、アオイの顔がボッと赤くなった。


「いや、はは……それは内緒ってことで……」


 何だろう? 何かやってたのかな。


 そんな話をしながら2人でテレビを見る。最近は、ほぼ毎日アオイの家に通うようになっていた。以前もよく遊びに来ていたけど、ここまで頻繁に来ることはなかったな。アオイから来てほしいと言われることも随分増えた。


「よっと」


 あまりにも自然な仕草で膝の上に座るアオイ。前にも感じたシャンプーの香り。それが僕の顔を熱くさせた。


 極力気付かれないように目を逸らす。


 アオイはテレビを見ながらチラチラとスマホをチェックしている。たまたま目に入った画面には、部室で着ていたメイド服の写真が写っていた。


「部長……こんなに写真撮ってたのか」


「うん。めちゃくちゃ撮られた。カワイイ?」


 アオイ、普通に聞いて来るから面食らう。恥ずかしくないのか? というか、僕が意識されていないから聞いて来るのかな。


「か、カワイイ……よ」


「ふふ。嬉しい」


 アオイなのに、小さな女の子の姿なのに、完全に飲まれてる感じがする。それが何だか悔しい。


「あ」


 急にモジモジするアオイ。


「どうしたの?」


「部長…いないよね?」


 アオイが窓から外を入念に確認し、また僕の膝の上に戻ってくる。そして彼女は顔を真っ赤にさせながら呟いた。


「ちょ、ちょっとやってみて欲しいことがあるんだけど……」


「やってほしいこと? 何?」


「あのさ……ここ。さわさわして、くれない?」


 アオイが後ろ髪を右に流す。すぐ目の前に白い首すじが現れる。


「首? 何で?」


「ダメ?」


 ちょっと熱っぽい顔のアオイ。どうしたんだろ? まぁ、別にいいか。首くらい。


 言われるがままにアオイの首すじを撫でる。さらさらした肌の感触が指先を伝わった。


「ん……く、う……」


「アオイ? 大丈夫?」


「大丈、夫。そのまま、もうちょっと、お願い……」


 アオイが苦しそうな声を上げる。何だか心配になって来るけど、やめないでくれって言うし……。


「はっ…あ、これ、やっぱ、ヤバ……ぃ」


 アオイの体がフルフルと小刻みに震える。体も何だか熱い気がする。その様子にどんどん不安になってくる。


「苦しそうだしやめた方が……」


「ダ、ダメ! そのまま……そのまま、続けて……もうちょい、だから……」


 ん? 何が「もうちょい」なんだろう?


 さらさらだった肌もしっとり汗をかき始めている。何だか怖くなってきたな……本当に大丈夫だろうか? 風邪でも引いたのかな?


「んん、うぅ、ヤバイよぉ……シズぅ……」


「熱あるんじゃないか?」


「ない。ないよぉ……あ、あのさ……」


「どうしたの?」


「名前、オレの名前呼んで、内緒話す、するみたい、に小声で……」


「え? 何で?」


「ぃいから。おね、お願い……さわさわするのは、やめない、で?」


 アオイの体の震えが大きくなっていく。僕の服まで掴んで体も強張っているみたいに。


 名前? 全然分からない。まぁでも本人がやれって言うし。



「ん……んぅ……は、あ……」



 苦しそうなアオイの耳に顔を寄せる。



「アオイ」



 耳元で名前をささやいた。



 その瞬間。



 アオイが痙攣けいれんしたみたいにガクガクと震え出した。



「ん、うぅぅうう……う、う……あ。あぁ、あ」



 ……。



 数分ほど痙攣した後、急にぐったりするアオイ。彼女は惚けた顔で僕を見た。



「はぁ……はぁ…」



「本当にどうしたの? 死んじゃうのかと思って心配だったんだけど」



「死なない、よ……また、してほしい、な?」



 肩で息をしながら、アオイが微笑む。



 僕はひたすら混乱した。


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