第13話 め、メイド服!? アオイ視点

「じゃあ、用事が終わったら迎えに来るから」


「うん。待ってるよ」


 部室の扉がバタンと閉まる。シズはサークルの機関誌印刷の為に印刷室へと向かっていった。


「はぁ……」


 小野寺部長が大学のコピー機壊して……印刷室を出禁になったせいでシズが機関誌印刷をやる事になった。部長曰く呪物を直接コピーしようとしたら壊れたそうだ。


「そもそも呪物ってなんだよ……」


 部長たまに変な事するんだよな。この前も事故物件巡りに付き合わされそうになったし。オカルト研に人がいないのも納得だよ。


「蒼ちゃん♪」


「ひぃ!?」


 突然首もとから生暖かい風が当たる。その声から1発で誰なのかが分かってしまった。


「ぶ、部長? ど、どこから……?」


「カーテンの裏に隠れてたの」


「な、なんでそんなこと」


「そりゃあ君ぃ。若い2人がイチャつく所を観察しようと思ってね!」


 そう言いながら部長がオレのうなじをコショコショとくすぐってくる。


「あ……っ!? ちょっと……ひっ…やめ……て」


「お! アオイちゃんはここが好きみたいだね〜コショコショコショ〜♪」


 うなじを部長の指がサワサワ動く。その度に全身をゾワゾワする感覚に襲われる。くすぐったいような、そうじゃないような変な感覚がして声を抑えようとすると余計変な感じがする。


「ひぅぅ!? あ、や……あっ、やめてぇぇ!?」


 全身に電気みたいな感覚が走ってすごく大きい声が出てしまった。それと同時に部長の手がピタリと止まる。


「はぁ……はぁ……」


 ヤバイ。うなじってこんな感じになるの? 最後なんか変な感じが……。


 油断した瞬間。また耳元で部長の声が聞こえた。


「ふふ。これ・・をさ、静樹しずきくんにやって貰ったとしたらどう?」


 シズに? 今のを?


 想像した瞬間。急に全身がガクガクし始めた。


「あ、ちょ、ダメダメダメ! 待って待って待ってええええええ!?」


「え? 蒼ちゃんストップストップ!」


「無理いいいいいいぃぃぃぃぃぃ!?」



 ……。



 何か来てしまった。



 

◇◇◇


「何するんですか!? 危うく動けなくなるところだったんですけど!?」


「は、ははは…… まさか蒼ちゃんがイ」

「うるさい!!!!!」


「……すみません。調子に乗りました」



 部長を正座させて小一時間ほど部長に説教をし続けると、先輩がオズオズと何かを差し出して来た。


「あの〜今日はこれを蒼ちゃんに差し上げようと思ってですね……」


「何ですかこれ?」


「メイド服とか、コスプレの衣装だよ♪」


「は? こ、コスプレ?」


 一瞬見せてしまった隙。その瞬間を見逃さず、先輩がオレの目の前までズイっと近づいて来る。


「いやいや。喜ぶでしょ。男の子は。こんなの着た姿見せたらさ」


「ななな……何を言ってるんですか?」


「せっかく蒼ちゃんは美少女になったんだからさ、来ちゃおうよ♪ 絶対可愛いって。静樹くんもメロメロになっちゃうよ」


「ほ、本当に? シズ、喜ぶかな?」


 部長の目がキラリと光る。


「喜ぶ喜ぶ。ぜっっっったい喜ぶ!!」


「……来てみよう、かな」


「チョロイン」


「何か言いました?」


「いいや? ささ! 着ましょうぞ! 早く! 静樹君が戻って来る前に!」


 先輩の口車に乗せられ、オレはメイド服を来てしまうことになった。




◇◇◇


 メイド服は、小さいオレにぴったりのサイズだった。こんなのどこで買ったんだ? ヒラヒラしていて、足がスースーする。頭にはウネウネしたカチューシャみたいなのを付けて。今まで来ていたどんな服よりも女の子っぽくて自分の顔が急激に熱くなるのが分かった。


「かわいい〜!! こっち向いて! そこの椅子座って! ほらほら!」


 先輩にパシャパシャと写真を撮られる。先輩の指示通りのポーズを何パターンも。そのたびに先輩は「かわいい」を連呼する。


「は、はずかしぃぃぃ……」


「でもさ、よく見て? 写真上手く取れたよ」


 部長がスマホを差し出してくる。その中には黒髪の美少女。その女の子が恥ずかしそうに顔を俯かせる写真が何カットも収められていた。


「こうやってみると人形みたい」


「でしょ〜? 絶対似合うと思って買い漁っちゃったよ!」


 笑顔の部長。その顔を見ていたら何だか不思議に思えて来た。この服も結構するよな……この前の服も結局全部くれたし、なんでこんなによくしてくれるんだろ?


「部長? 何でこんなに服くれるんですか?」


「ん? ん〜何でだろ」


 部長が腕を組んでうんうん考え込む。そして何かに納得したように何度も頷いた。


「誰かを助けるのに理由はいるかい?」


「それ……なんかのセリフですよね?」


「あちゃ〜格好いいと思ったのに」


 部長は頭に手を当て大袈裟に悔しがった。


「まぁ、さ。真面目に答えると、蒼ちゃんは女の子になっちゃうまで静樹君のこと好きだったわけでしょ?」


「す、好きって……!?」


「まぁまぁ。そこまでの恋を見せられたらさ、応援したくもなるでしょ。女として」


「全然部長の言ってる意味が分かんないです」


「そういうヤツもいるってこと。私は全面的に2人の味方だよ?」


 部長……。


 なんだかんだ言ってもいい人なんだな。コピー機壊す変な人だって思ってごめん。


「部長? その、ありがとうございます。オレのこと、気遣ってくれて……」


「ふふ。大丈夫大丈夫。私は2人のイチャつくシーンが拝めればそれで」


「は?」


「この前の映画デートとか最高だったね♪ 初々しい2人じゃのぉ」


「み、見てたんですか……!?」


「当然! 女神ディーテの力の証明が君なんだよ? 観察しないわけないでしょ! ついでに、ね? その可愛い恋愛も見たいな〜って何でプルプルしてるの?」


「……」


「どうしたの? あ、また想像してイ」

「部長オオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオおおお!!」



 その後、再び説教をかまし、2度と跡をつけないと誓わせた。



 ちなみ。



 帰って来たシズがメイド姿をカワイイと言ってくれた。




 嬉しい♡


 

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