第12話 遠慮しなくていいじゃん シズ視点
アオイが映画の時刻表を指してピョンピョン跳ねる。指した映画は海外ヒーローものだった。
「えーと。次の回は……13時からだって! これ観よう!」
あ、それ結構気になってたんだよな……。
アオイの家に泊まった翌日。
というか、昨日全然寝れなかったよ。いきなり女の子と寝るなんて難しいって……アオイ、だけど……。
眠すぎてあくびが出るのを堪えながら映画館を見渡すと、カップルをチラホラ見かけた。みんな小難しそうな映画で盛り上がっていて、急にヒーロー映画でいいのか不安になった。
もしかしたら無理に合わせてくれてるのかもしれない。それだったら申し訳ないな。
「本当にそれでいいのか? もっと他に……」
「シズぅ? シズはどれが見たいの?」
アオイがイタズラっぽい笑みを向けて覗き込んで来る。昨日の夜のことを思い出して視線を逸らせてしまう。
「そのヒーロー映画……」
「だったら遠慮しなくていいじゃん。女の子になってもこういう感性は全然変わらないよ、オレ」
無邪気に笑うアオイ。その姿にさっきまで変に周囲を気にしていたのがバカバカしくなった。
「じゃ、行こうシズ!」
アオイに背中を押され、チケット売り場へと向かった。
◇◇◇
「いやぁ〜熱かったな! シリーズ続いてるけど今回が1番好きかも!」
アオイが興奮した様子で映画の内容を語る。見た目は小さな女の子なのに、以前と変わらない姿に思わず笑ってしまう。
「? なんで笑ってるのシズ?」
「ごめんごめん。アオイらしいなと思って。刺さったものだとすごく語るだろ?」
「そ、そうかな……急に恥ずかしくなって来た」
モジモジと恥ずかしがるアオイ。周囲の人がコロコロ表情の変わるアオイを見てクスクスと笑う。
「ちょ、ちょっと見られてる……? 恥ずかしいから向こう行こ!」
アオイが僕の手を取って外へ引っ張って行く。
多分、周囲の人はアオイの仕草が可愛らしいから笑っていたのだと思うけど、本人にとっては心外だったみたいだ。僕も気をつけないとな。
映画館を出てエスカレーターに乗る。映画館に併設された商業施設の自動扉をくぐると、アオイが僕の
「なぁ、あれ」
アオイの視線を追うと、ゲームセンターの奥にクレーンゲームが。その中には先ほど見たヒーロー映画のフィギュアが飾られていた。
タタタっと走り、クレーンゲームを覗き込むアオイ。ガラスに反射した彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「いいなぁ。でもオレこういうの死ぬほど下手だから無理だよなぁ」
「欲しいの?」
「フリマアプリでも見てみよっかなー」
アオイがスマホを取り出しプライズフィギュアを検索する。
「え〜と……うわっ!? 5000円!? 高すぎて無理! 諦めるか……」
しょんぼりするアオイ。その姿を見ていたら、無性に何かをしてあげたくなる。
「じゃあさ。僕がやるよ」
「え……いいのか?」
「昨日泊めて貰ったお礼ってことで」
「でも……料理も全部シズがやってくれたし……」
「でもアオイは欲しいいんだろ?」
「うん」
オズオズと頷くアオイ。その姿がすごく幼く見えて、ちょっとだけ寂しさを感じた。さっきまで姿は変わってもアオイだなと思っていたのに。なんだか彼女の思考も自体も幼くなってしまったのかもしれない。
でも僕は……。
「大丈夫大丈夫。動画でさ、こういう台の攻略法見たことあるんだ。箱物を2本の棒の隙間に落とす台はさ、うまく滑らせていけば取れるらしいよ」
何かしたかった。なぜだか分からないけど……アオイには笑って欲しいなと思えた。
……。
…。
はぁ……結局6000円も投入してしまった……。
世の中そう甘くは無かった。
攻略法を見たくらいで簡単に景品ゲットとはいかないのである。お金を投入し続け、やっとの思いで取ることができたけど、結局フリマサイトの方が安くついたという……。
悲しいなぁ。今月バイト増やそうかな……。
「だ、大丈夫シズ?」
「あ、ああ……大丈夫。気にしないでよ。僕が好きでやっただけだから」
「本当に大丈夫?」
「気にしない気にしない。はいコレ」
差し出したフィギュアを見たアオイは、その瞳をウルウルと
「……嬉しい」
渡したフィギュアをキュッと抱きしめるアオイ。その姿を見ていたら、やって良かったなと思える。
「じゃあさ、夕飯はオレが奢るからね!」
アオイが腕に抱き付いて来る。急に女の子の柔らかさを感じて一気に恥ずかしくなる。
「なんで離れるんだよ!」
「い、いや人前だし……?」
「いいじゃんか〜別にぃ」
残念そうにするアオイ。
そんな様子に一瞬、ドキッとしてしまって……。
そんなアオイを見るのも悪くないような気がした。
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