「好き」に気付いたあと♡

第9話 泊まって欲しいな アオイ視点

「うーん。このワンピースは地味? でも、季節的にはアリかな」


 鏡に映るオレは茶色のチェックのワンピースに黒い長袖を合わせて着ていた。服の名前って分からない。元からこうやってオシャレしてたらもっと知ってたかもしれないけど。


 でも……。


 鏡に映る女の子。サラサラヘアーに長いまつ毛の子がオレ。願いの女神「ディーテ」を呼ぶというオカルト本。その女神に幼女……超絶美少女にされたオレの姿。その子が鏡の中でウルウルと目を潤ませていた。


「こんなのもうモデルじゃん!」


 見てるだけでテンション上がって来る。もっと色んな服着てみたいな。ホントは着てみたかったカワイイ服いっぱいあるし。



 シズ、カワイイって言ってくれるかな?



 シズ……オレの幼馴染の親友。女神「ディーテ」によって女の子にされたオレは気付いてしまった。



 ずっとシズが好きだったことを。



 だからオレはこのまま生きていくことにした。ホントは女の子になりたかったって分かったから。



 ベッドにパタリと倒れ込む。シズがカワイイって言ってくれた時のことを思い出すと恥ずかしくなって思わず足をバタバタさせてしまう。


「う〜これで行こっかな〜でもなぁもっとフリフリしたのとかの方が好きかな?」


 シズを好きだって気付いてから、オレは一気に女の子に傾いた。今まで無意識に我慢してた服も着たいし、できなかったこといっぱいしてみたい。


 それに……。


 シズに撫でて貰いたいしギュッてされたいしダメだ。語彙力が最近幼女になって来てる!


 時計を見るともうすぐ夜の7時。最近シズは毎日来てくれる。一緒に夕飯を作って、テレビを見て、オレが寝るまでいてくれる。もしかしたら泊まっていってくれたりも……。


「ふふ。ふふふふふ……ヤバイ。顔が緩んでる……」


 もうすぐ。もうすぐシズが来る。


「今日泊まっていってくれないかな……? 明日は大学も無いし、そのまま遊びに行ったり……? それって、で、デートになるのかな」


 顔の緩みが取れない。イソイソと散らかっていた服を片付けて、鏡で髪を整える。


 その時、チャイムの音が聞こえた。


「来た!」


 オレは急いで玄関へと向かった。




◇◇◇


「う、うまく……切れない」


 包丁を持つ手が小さすぎてうまく力が入らない。玉ねぎを切ろうとしてツルッと滑ってしまう。


「危ない!」


 シズがオレの手を掴んで何とか怪我をせずに済んだ。真剣な顔に恥ずかしくなるのと申し訳ない気持ちとが混ざって頭がグルグル混乱する。


「ご、ごめん。前はこんなに苦労しなかったんだけど」


「仕方ないよ。ならさ、冷蔵庫から卵出してくれる?」


「分かった!」


 冷蔵庫へと向かおうとした瞬間、足首がくにゃっと変な方向に曲がってしまう。


「いたっ!?」


「だ、大丈夫か!?」


「だだだだ大丈夫だよぉ」


「号泣してるし……」


 結局、足をくじいてしまったみたいで、シズが氷を出して冷やしてくれた。


 その後、結局料理はシズが全部作ってくれた。申し訳ないなと思っていたら、足を心配したシズが泊まってくれることになった! 嬉しい!



 胸の奥がドキドキして耳まで脈打ってる感じがする。悟られないように、冷静にしてないと……。

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