第8話 メインヒロインになりたいもん! シズ視点
——1週間後。
ピンポーン。
「アオイ、出てこないな……」
おかしいな。来てくれって言ったのアオイの方なのに。
あれから部長と協力して、なんとかアオイが大学に通っている体裁を維持した。部長が学生課の人を上手く言いくるめて、家庭の事情で僕が妹を連れて来なければならないという話を信じさせた。
幸い学部も同じだし、講義もアオイと僕は同じ。スマホアプリで出席を管理するウチの大学では、講義を受けることができれば出席扱いになる。まだまだ問題は多いけど、しばらくはアオイの両親にバレずに済みそうだ。
ドアノブに手をかける。ゆっくり回すとカチャリという音が鳴った。
「鍵かかってない……不用心だな」
扉を開けてアオイを呼ぶと、慌てたような声が聞こえて来た。
「待って待って!? まだオレ着替え中だから!!」
「ご、ごめん!」
扉を閉めて10分ほど待つ。すると、再びドアが開き、ワンピースを着たアオイが出て来た。
「へへへ……ど、どうこれ? 初めて着てみたんだけど」
アオイが恥ずかしそうにワンピースの裾を持ち上げる。人形のような見た目に思わず息を呑んでしまった。
「す、すごく、似合ってるよ?」
「そ、そうじゃなくてさ、どう、思うか聞きたいんだけど……」
モジモジするアオイ。なんとなく言って欲しいのか検討が付いた。僕が正直に思ったことを伝えればいいんだな。
「か、カワイイよ。うん。僕は好きだな。その服」
「ふふ。ふへへ。カワイイ? カワイイかぁ」
アオイが小さく「やった」と言う、その姿がすっかり少女の姿になっていることで少し緊張する。
「小野寺部長に貰った服の中でね、1番気になってたんだ〜」
「変わったねアオイ。すっかりその姿が様になったというか」
それに、最近のアオイは少し変だ。
「うん。オレ、色々分かったんだ。自分のこと」
アオイが急に抱き付いて来て、僕のお腹にグリグリと顔を擦り付ける。
「ちょっ!? 何やってるの!?」
「へへへ……やりたかったから」
そう、最近のアオイは変だ。距離が妙に近い。それに、いつも僕を見てくる気がする。
「そうだ。部長が消えた女神の手がかりを見つけたらしいよ」
「ホントか!? じゃあ部長の所に行こう!」
僕の手を取りグイグイと引っ張るアオイ。でもやっぱりアオイだな。鍵を閉めて無いことを伝えたらすぐに顔を真っ赤にした。
玄関から鍵を取り出して鍵をかける。鍵をアオイに渡すと、ぼぅっとした顔で僕を見た。
「どうしたの?」
「ううん。いつものシズだなって思って」
◇◇◇
アオイと大学への道を歩いていく。最近少しずつ暖かくなって来て、今日は上着無しでも外が歩けるくらいだ。
「あの、さ。女神が見つかった時の、願いなんだけど」
「どうするか決まった?」
「うん。女神がなんでもできるなら……オレ、戸籍とか、身分証とか、その辺りをなんとかしたいなって。すごい力があるなら、なんとかなるかも」
「現実的だね」
「だって困るじゃんか!」
「ごめんごめん。でも、もう戻らないんだね」
「へ、変……かな?」
「ううん。アオイが決めたことなら僕は何も言うことはないよ。それに、どんな姿をしていても君は君だよ」
「うん」
2人で無言で歩いてく。でも、全然苦にならない。話さなくても、アオイといると安心する。それは昔から変わらなかった。
「そういえばオレ、なんで女神の書を使おうとしてたか思い出したよ」
「そうなんだ。どんな願いを言おうとしてたの?」
「オレの願いはね〜」
となりを歩いていたアオイがタタタッと走る。そして、信号の手前で止まると、サラサラの髪を靡かせてクルリと回る。
「シズが
アオイは、可愛く笑った。
——つづく。
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