第6話 オレ、着せ替え人形!? アオイ視点

 両手いっぱいに紙袋を持った小野寺部長が部室に入って来る。明らかにウキウキした様子で。オレを見た瞬間、その目をキラキラと輝かせた。


「お、おおおおお〜!!」


「な、何ですか……?」


「カワイイ〜!! これが女神の書の力!?」


 小野寺部長がオレの頬を指で押してくる。


「やん! フニフニしてるぅ〜! カワイイ〜!!」


「や、やめて……」


「照れちゃってカワイイ〜!」


「て、照れてないです!」


「ちょっと静樹しずき君に話しかけててみて?」


 部長がシズを指差す。戸惑っていると、部長がズイッと顔を寄せて来た。


「早く!」


 部長の目がギラギラしていてちょっと女神を思い出してしまう。有無を言わせぬ圧力にオレは屈してしまった。


「し、シズ? オレさ、お昼はハンバーガーが食べたいな」


「オレだって! カワイイ〜!」


「お、オレのことオレって言っちゃダメなんですか!?」


「怒っちゃってカワイイ〜!」


「ぶ、部長の圧が怖いよぉ……」


「目をウルウルさせてカワイイ〜!」


 何度も何度も「カワイイ」と言われて顔が熱くなる。


 慣れない。これは慣れない! 言われる度に頭がポワポワしてもっと言って欲しくなる。



 ダメだ! 「カワイイ」には何か人をおかしくさせる魔力がある。



 あまりに小野寺部長がオレのことをもて遊ぶから、恥ずかしくなってシズの後ろに隠れた。



「照れてるの〜? 本当に小さい女の子みたい!」



「ほら小野寺部長。アオイも慣れてないんだからさ、やめてあげて下さい」


「む、分かりましたよぉ……」


 シズに言われて小野寺部長が不貞腐れたように椅子に座った。しかし、すぐにニヤリと笑うと紙袋をテーブルの上に置いた。


「見て! 私服持って来たの! アオイちゃん・・・服に困ってるでしょ!? 着てみて〜!」


「な、なんでそんなに持ってるんですか?」


 シズが困惑した様子で小野寺部長を見る。すると部長は得意気に胸を張った。


「姪っ子にあげようと昨日買ってたのよね。でもアオイちゃんの方が困ってると思ってさ〜」


 そう言うと部長がガサゴソと紙袋を漁り出す。


「はい。最初だからこんなもんかな〜。ゆめかわパーカー!」


 取り出したのは淡い紫に水色やら黄色やらのユニコーンが装飾されたパーカーとTシャツ。それにスカートと真新しい小さなスニーカーがいくつかあった。


「はい。着てみて」


「こ、こんなの着れないって!」


「そのおっきいTシャツでいるつもり? 絶対補導されちゃうよ? 一緒に歩く静樹くんも怪しまれちゃうかも!」



「「あ、怪しまれる……?」」



 その言葉にビビってしまう。シズにまで迷惑かけるなんて絶対ダメだ。



「どうするぅ?」



 ニヤニヤと笑みを浮かべる部長。何だか負けた気がするけど、これ以上迷惑はかけられない。き、着てみよう……かな。



「お、オレ……着てみるよ……」



「そーこなくっちゃ! はいこれ」



 部長が服と一緒に何かを渡して来た。


「な、何これ?」


「何って下着だよ? 持ってないでしょ?」


「こ、これも履くの?」


「あったり前じゃん!」


「ウゥ……シズゥ……」


「そんな潤んだ瞳でみないでくれよ……」



◇◇◇


 シズに部室の外に出てもらって服を着る。


 ハイテンションの部長に何枚も写真を撮られる。写真の中のオレは、初めての女性物の服に顔を赤くし、モジモジしていた。悔しいけど、その姿がちょっと可愛いと思ってしまった。


「ね、静樹くんなんて言うかな?」


「え、え、シズ? な、なんで……?」


 オレがそう答えた途端、部長が笑みを浮かべてオレの両肩を持った。


「分かるよ。分かる。蒼ちゃんは静樹くんに見てほしいんだよね?」


「見て欲しいなんて、そそんなこと、な、な、無い! よ……?」


「その反応で確信したね。いい? オカルト研部長の小野寺ユキに誓って言うよ。願いの女神ディーテは絶対に中途半端なことはしない」


 部長の顔が真剣になる。


「女神がアオイくん・・の『願い』を聞いたってことは、君の中に何かがあったはず。今の姿になってしまった要因が」


 答えられず、俯いてしまう。


「だから変に悩んじゃダメ。受け入れた方がいいよ。無理に抵抗したりしたら精神病んじゃうかもしれない。あの本に当てられた人でね、そういう人が多いみたいなの」


「う、そうなのかな?」


「……とは言うものの、本当に戻りたいなら方法はあると思う。でもまずはさ、言って貰おうよ。静樹くんに」


 勢い良く扉を開ける小野寺部長。


 外にいたシズにオレを見せると、感想を聞く。恥ずかしがったシズがポツリと言った。


「か、カワイイと思うよ……?」


「静樹くん。思うじゃなくてハッキリ言ってあげて」


「えぇ!?」


「当たり前でしょ?」


「……カワイイよ。アオイ」 


 恥ずかしそうに顔を背けるシズ。でも、その顔は耳まで真っ赤で……その瞬間、オレの頭はポワポワした。

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