第5話 学校へ!! シズ視点

 目を覚ますと隣に幼女寝ていた。一瞬焦ったけど、頭が周り始めるとすぐにそれがアオイだと分かった。


「んん〜……」


 気持ち良さそうに寝るアオイ。それを見てると小さい頃の妹を思い出した。生意気だったけど、寝顔だけは可愛いかったよな、確か。


 カワイイ……か。


 ——ねぇ。今の……オ、オレって、カワイイ?



 なんで、アオイはそんなことを聞いたんだろう? 話し方もちょっとずつだけど、変わって来てる。少しずつ女の子っぽくなってるというか……。


 アオイを見る。サラサラの髪に長いまつ毛。整った顔はどこからどう見ても小さな女の子だ。


 昨日の夜のことを思い出してその頬に手を……。


 変なことを考えそうになってブンブンと頭振る。何考えてるんだよ! 友達だぞ。最低だろ!


 女の子にしたってこんな小さい子……僕はどうかしてしまったのか!?


 そんなことで頭を抱えているとスマホのアラームが鳴る。そろそろ大学に行く準備をしないと。


 恐る恐るアオイを揺らす。二の腕のプニプニと柔らかい感触を振り払うように再び被りを振った。


 こ、これは変なこと、じゃないよな?


「アオイ? そろそろ大学に行く時間だよ」


「うぅん……もうちょっとぉ……」


「もうちょっとじゃなくてさ、今日は大学行く約束してたろ?」


「ううん……あっ!? そうだった!」


 アオイが飛び起きて、慌て始めた。


「は、早く着替えないと!? みんなが来る前に行かないと!?」


 ベッドでドタバタと慌てるアオイ。突然パジャマを脱ぎ出すので咄嗟に顔を背けた。


「ちょっ!? いきなり服脱がないでくれよ!」


「ごごごめん!? お風呂で着替えて来るね!」


 ドタドタという音の後に服を探す音、その後バタンという音がして、部屋は静まり返った。


「はぁ……心臓に悪いよ……」


 しばらく待っていると、脱衣室から目をウルウルさせたアオイが顔を覗かせた。


「シズゥ……」


「どうした?」


「髪が上手くとかせない……助けてぇ」


 子供みたいに泣くアオイの姿に思わず笑いが込み上げる。手招きすると、アオイがオズオズとブラシを差し出して来た。


「引っかかるし痛いし……全然上手くできない」


「あー無理矢理引っ張ったのか。向こう向いて」


 アオイがクルリと振り向くと、姿見の前にその姿がハッキリと映った。そこには恥ずかしそうにうつむく幼女。思わず自分の頭が混乱しそうになる。


 アオイだ。この子はアオイだ……。


 自分に言い聞かせていると、アオイが不安気な目で僕のことを見た。


「なんとかできる?」


「妹の世話してたから大丈夫」


 アオイが僕の前にちょこんと座る。ブラシを手に取るとそのサラサラの髪をブラシでとかした。


「サラサラなのに毛先がからまっちゃうんだよ……どうしたらいい?」


「無理矢理ブラシしてもダメだって。ブラシが引っかかったら外して、何回もかけてあげないと」


 ブラシが引っかかると、無理にそれ以上進まずに一旦戻す。そしてまたかける。繰り返していくと、やがてブラシは毛先の絡まりを解いた。


「あ、痛くない」


「そうだろ? ずっと真っ直ぐかけるのもダメだから。ブラシを寝かせたりすることも必要」


「分かった」


 綺麗に髪をとかしたあと、昔のクセでナルキの頭にポンと左手を置いてしまった。


「これでよし。あ」


 触れた頭は細い髪がふわふわとした感触で気持ち良かった。


「う、あ、あ……」


 突然、左手にフルフルとした振動が伝わる。



 鏡の中のアオイは、顔を真っ赤にさせていた。




◇◇◇


 早朝の大学は清掃員以外歩いていなかった。ブカブカの服に大きな靴のアオイを連れて行く為にこの時間にしたけど、正解だったみたいだ。


 一応警戒して裏手から入って、サークル棟へと回り込む。



 部室に入ると少しホコリっぽい臭いがした。両サイドに設置された本棚に満載にオカルト本が置かれてるから、そのせいかも。


「部長に事情は伝えてあるから。もうすぐ来ると思う」


「小野寺部長……オレのこと見てビックリするかな?」


「どうだろう? 昨日は熱心に質問して来たし大丈夫じゃないか?」


 オカルト研究会は僕達を除くと女性の小野寺部長しかいない小さなサークルだ。


 昔はそれなりに人が居たそうだけど、小野寺部長の代の時にみんな辞めてしまったらしい。多分だけど、部長が熱心すぎたんじゃないかな。僕は結構好きな方だから気にならないけど。


 しばらく待つと、扉がガチャリと開く。そして髪を後ろに束ねた女性が入って来た。



「オッスオッス! アオイちゃんはどこかな〜?」



 ……明らかにウキウキした様子で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る