第4話 この気持ち……なに? アオイ視点

「じゃ、僕は寝るから。寝坊しないでよ」


「うん」


 床に敷いたタオルケットにシズが横になる。


「ねぇ。なんで背中向けてんの?」


「いや? なんとなく……」


 なんとなくといいつつもシズはオレに気を遣ってる。オレが女の子になったからかだよな、多分。


 ……。


 シズ、いいヤツだよな。いつもオレや周りのこと気にしてる。


 今日もすぐ駆けつけてくれたし。オレの話、すぐ信じてくれたし……。


「なんでシズはモテないの?」


「急に酷いこと聞くね」


「聞いたら悪いかなと思ってたし。つい最近も文学部の高梨さんにフラれてたじゃん」


「……その話はやめて欲しいな」


「ご、ごめん」


「冗談だって。ううんそうだな……」


 少し考えた後、シズが口を開く。


「よくそういう風には見れないって言われるかな。良い人だけど……とか。はは。もっと引っ張ってく人の方が女の子は好きなんじゃないか?」


「フゥン」


 なんだかムカムカした。


 シズは好きになった女にいつも酷い振られ方してる。


 シズの良さが分からない女達にムカつく。


 シズを振った女がムカつく。


 オレは分かってやれるのに。オレならシズの良さが分かるのに。どうしてオレは……。


 オレ……何考えて……。


「ねぇ」


 でも、止まらない。


「どうした?」


「普通さ、自分が女の子になったら色々確かめたくなるだろ?」


「い、色々って……?」


 シズがオドオドとした返事をする。女慣れしてないヤツだなぁと思ってちょっとそれが嬉しい。


「そのままの意味だよ。エロいこととかあるじゃん?」


「その声で言うの、マズイだろ」


「いいじゃんか。それでさ、オレは……なぜかそんな気にならなかったんだ」


「な、なんで?」


 オドオドするシズ。それを見てたらなんだか変な気分になって来る。もっとみたい。もっと声が聞きたいって思っちゃう。



 ヤバイ。オレ……変かも。



「分かんない」


 なんとなく自分の顔を触ってみる。前じゃありえないくらいスベスベした肌。不思議な感じ。


 シズと会ってから、なんだか思考も女みたいになった気がして来る。なんで……。


「シズはさ、オレのことどう思う?」


「どうって……友達だよ」


「友達……」


 そう言われた途端、胸の奥がズンと重くなった気がする。


「なんでそんなこと聞いて……って!? 泣いてるのか!?」


「分かんない。分かんないよぉ……」


 涙が止まらない。拭いても拭いても溢れて来る。長い髪が涙に濡れて、ペタリと頬に張り付いて気持ち悪い。なんでだろう。どうしてオレはこんなにも悲しいんだろう。


「な、泣かないでくれよ」


 困ったようにシズがオレの頭に手を置いた。その瞬間、たまらなく嬉しくてなってしまう。思わずその手を握ってしまった。


「不安だよな……って当たり前か。僕じゃ頼りないかもしれないけど、協力するからさ。泣かないでくれって」


 そんなことない。一緒にいてくれるだけですごく嬉しい。安心する。シズがいてくれるだけでなんとかなる気がしてくる。


 そう、言いたいのに、上手く言葉にできなかった。


 代わりに、別の言葉が出てしまう。


「ねぇ。今の……オ、オレって、カワイイ?」


 戸惑ったようなシズの目を見つめる。こんなこと聞いて気持ち悪いだろうか? 引かれるだろうか? でも、言って欲しい。前のオレは思わなかったこと。でも、今のオレは言って欲しい。


 分からない。分からないけど。言われたい。



 シズに言われたい。



「か、カワイイよ。どう見ても……当然じゃん」


 恥ずかしそうに顔を背けるシズ。頭の中でグルグル回っていた言葉が止む。


「ホント?」


「ホントだよ」


嬉しい。嬉しくてまた泣けて来る。


 どうしたんだろ? オレ、どうしちゃったんだろ?


 でも……。


「そっか。オレ、カワイイのかぁ」


 今はそれがたまらなく嬉しい。それだけでさっきまでの胸の痛みが消えるようだった。


 知らず知らずのうちに笑みが溢れていたのに気付き、両手で顔を覆う。


 ヤバイ……ホントどうしちゃったんだよオレ……!? 精神まで変になって来ちゃった。



「ほら、明日早いんだからはやく寝るよ」



 シズの声で慌てて目を閉じる。チラリと隣りを見ると、目を閉じたシズがいて……。



 これからどうなるのか分からないけど、シズがいてくれるだけでオレは生きて行ける気がした。

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