第3話 親友が幼女に!? シズ視点

 ——ピンポーン。


 インターホンを鳴らす。しばらく待っても出ない。


「ううん。やっぱり倒れてるのか?」


 大学でもインフル流行ってたからなぁ。


 恐る恐るドアノブに手を伸ばしたところで、ガチャリと扉が開いた。


「大丈夫? 一応食べ物買って来たけど……」


 いつもの顔が出て来るだろうと思った予想に反して——


「シズぅ……」


 ——扉から顔を覗かせたのは目をウルませた少女だった。




◇◇◇


「……と言うわけでオレ、変な本のせいで幼女になっちゃったんだよぉ」


 大粒の涙を流しながら僕が作ったうどんをすする少女。可愛らしい声で出る声とは裏腹に、仕草や言葉使いはアオイのままだった。


 おっちょこちょいで後ろ向き。でも友達思いなアオイのまま。嘘を吐いているようにはとても思えなかった。


「この前アオイが持って帰った本が本物の女神の本だったってことか?」


「うぅぅ……そうなんだ。もう戻れないってぇ……うわちっ!?」


 幼女アオイが大袈裟に熱がる。どうやら幼くなって食べ方とかも退行してしまったみたいだ。


 コップに買って来た麦茶を注ぐと、アオイはコクコクと一気に飲み干した。


「信じてくれる?」


「信じない訳ないだろ。それだけ必死に訴えられてさ」


 どこからどう見てもアオイそのものだしな。幼女という以外は。別人だったらむしろすごいよ。


「ホントか?」


 アオイの顔がパッと明るくなる。コロコロ良く変わるなと苦笑してしまう。


「ホントだって。10年以上一緒にいるからね。分かるよ」


「ありがとう。でもオレ、これからどうなるの? 戸籍もなにも無くなったみたいなもんだし、オレ、オレ……」


 ウルウル目を潤ませるアオイ。その姿を見た瞬間、胸がズキンと痛んだ。


「両親には言えないのか?」


「……知ってるだろ。言えないってあの人達に、こんなこと」


 アオイの両親は厳しい。他人の僕がとやかく言えることでは無いけど、今の大学に入る時も相当揉めたみたいだ。「もっとレベルの高い所を目指せ」って。でも、あの時はアオイが初めて親と喧嘩して、なんとか希望を通したんだよな。


「どうしよぉ」


 再び号泣するアオイ。なんだか、こんな姿は、見たくないな……。


 このままだと、アオイが必死に親を説得したことも、無駄になってしまう。



「分かった。僕がアオイに協力するよ」


「うぇ?」


 目をゴシゴシと擦るアオイ。その姿に反射的に頭を撫でそうになって、やめた。男友達だろ。何考えてんだよ、僕。


 ブンブンと頭を振って、目の前のアオイを真っ直ぐ見る。


「僕がさ、アオイのこと全部手伝うよ。生活は僕が手伝えばなんとかなるだろうし。大学のことは……とりあえず、方法を考えよう」


「シズぅ……お前ってヤツは……」


「まずは、そうだな……明日大学に行って協力者を増やそう。オカルト研の小野寺部長なら信じてくれるだろ。オカルトへの入れ込み方がすごいから」


「うん。そうするよ」


 コクリと頷くアオイ。先ほどより明るくなった姿にホッとする。


「でもさ、アオイは女神の本を使って何を叶えようとしたんだ? わざわざ女神を呼び出そうたしたってことは、叶えたい願いがあったんだろ?」


「それは……」


 ナルキが急に腕を組んでウンウン唸りだした。


「忘れちゃった」


「忘れるなよ……」


 恥ずかしそうに頭を掻く少女。サラサラ髪の見た目は全く違うけど、アオイらしいなと思った。


「じゃ、僕はそろそろ帰るから。明日迎えに」


 立ち上がろうとすると、裾がキュッと引っ張られる。見ると、アオイが僕の服を掴んでいた。


「な、なぁ? オレ幼女になったせいか暗い所苦手になっちゃって……泊まってってくれよぉ」


「えぇ!?」


 突然の提案に頭が真っ白になった。

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