第2話 どうしよう!?

 幼女になって1日。オレは悲観的になっていた。


 色々試したが、戻れる気配はない。そもそもあの女神がいないからどうしようも無いけど……。


 性別が変わったなんて、他の人はどうするんだろ? エロいことをしたりするんだろうか? オレはよく分からない。昔から不思議とそういう欲は薄かったし、幼女になってもそういうことをしたいとは思わなかった。


 ちょっとだけ魔が刺して女の子っぽい仕草をして、それだけ。それよりもお腹が減って他のことを考える余裕も無い。



「お腹、空いたな……」

 


 この声じゃ親にも連絡できない。万一イタズラだと勘違いされて警察にでも連絡されたらと思うとゾッとする。


 味覚は子供レベル。辛い物好きが災いしてしまった。買い置きしてあった食べ物はほとんど食べられない。一度食べようと頑張ったが舌に激痛が走ったような感覚で一口でギブアップしてしまった。


 なんとか残っていた食パンで食い繋いでいたが、そろそろ限界だ。どうにかしないと……。


 出るか? 買い物に?



「いや、補導されたらヤバイよ」



 口から出るカワイイ声。それが今は恨めしい。



「うーうー誰かー! 助けてよー!」



 かわい子ぶってみるが何も変わらない。


 誰かに相談できたら……。


「そうだ」


 シズなら……。


 芦山静樹あしやましずき。アイツならオレのこと信じてくれるかも。


 シズは子供の頃からの友達——親友だ。今の大学も、オカルト研もアイツが入ると言ったから入ろうと思った。とにかく人のことを第一に考えてくれるいいヤツ。それがシズ。女にモテないのだけが不憫だけど……。


 スマホを手に取りトークアプリを起動する。シズのトークを開いて「音声通話」をタップ。震えながらコール音を聞いていると、聞き覚えのある声がした。


「はい」


「……」


「アオイか? どうした?」


 シズになんと声をかけていいか分からなくてなる。本当に信じてくれるか不安になってしまう。


「う……あ……」


 声が出ない。緊張感で上手く言葉が出て来ない。小さな体がブルブル震えてしまうだけ。小さくなったから? 言うことが聞かない自分がすごく怖い。


「……もしかして。体調悪いのか?」



「あ……えっと……」


 なんとか声を振り絞るけど、消え入りそうな小さな声しか出なかった。


「んん? イマイチ聞こえないな。ま、いいや」


 シズが通話を切ろうとしてる。ダメだ。助けてって言わないと。でも、声が……声が上手く出ない……。



「心配だからそっちの様子見に行くよ」



 言葉を返そうとした瞬間切れる通話。でも、切れる直前に聞こえた言葉は、オレの緊張を解いてくれる物だった。


 シズが来る。何も言って無いのに心配してくれて……。


 それを考えた瞬間、なぜだか飛び跳ねそうになったが、それを押さえた。



「そ、そうだ! この格好は流石にマズイよな!?」



 来てるのはダボダボのスウェット。髪は寝癖でボサボサ。さすがに友達にも見せられないぞこんなの……。


「ってあれ……? なんでオレ、格好なんか気にしてるんだ? シズだぞ? 友達だぞ? 気にしなくてもいいじゃん」


 鏡をもう一度見る。カワイイ幼女。女神曰くすごくカワイイという。


 ……。


「やっぱりダメだ! なんだか分からないけどシズが来てくれるのにこんな格好のままはダメ! なんか気になる!」



 オレはせめてまともに見える服がないかクローゼットを荒らした。



◇◇◇


 ——ピンポーン。


 来た。シズが来た。


 鏡で自分をチェックする。大人用のTシャツをワンピースのように来た自分を。髪もセットして完璧。キューティクルが眩しいくらい。これが今できる唯一の装備。これでシズを迎え撃つ。


 と思ったところでお腹がグウ〜と鳴った。


「ダメだ。メチャクチャお腹空いてきた……」


 フラフラと玄関へと向かい、オレはシズを迎え入れた。

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