『オースティンとフランク』『幼馴染との思い出』3人称
「フランク! 私、今日はノーリーンと買い物してから帰るから!」
「うん、わかったよ! ルイザ!」
「もう、フランクったら……」
フランクという少年は、いつもいい返事をするのだが、よく何を聞いたのかを忘れてしまう。そのため、今も何かの部品を組み立てるのに夢中で、全くルイザを見ていない。そして、彼の幼馴染のルイザは、いつも彼に振り回されてばかりだ。
「じゃあ、行くわね?」
「うん、行ってらっしゃい!」
ルイザは、自分を見もしないで答えるフランクに
「ルイザさん」
「オースティン様!」
「ルイザさん、フランクのことは私たちが見ておきますから、どうぞ、ノーリーンさんとお出かけになってください」
「あ、ありがとうございます!」
「あと、『様』は、つけないでいただきたいのです。ルイザさんは、私のクラスメイトですから」
「いえ! それはできません! オースティン様は、第一王子で次期国王となられるお方なのですから!」
「そうですか……」
「それでは、失礼いたします! オースティン様! メイナード様!」
寂しそうにするオースティンに、ルイザは罪悪感を覚えつつも、逃げるように教室を飛び出していく。
「また明日会いましょう!」
「お気をつけて!」
バタバタと走って行く音が、次第に遠ざかる。オースティンの隣で、静かに立っていたメイナードは、ルイザに感心している。
「フランク、いい幼馴染だな」
「え? うん……」
今、ちょうど作業の架橋に入ったところで、フランクは顔を上げる気配もなく、それどころか、返事すらまともにできていなかった。メイナードは、その様子に溜息を吐き、オースティンに向き直る。
「オースティン様、これからどうなさいますか?」
「今日は生徒会もないから、フランクと一緒に帰る予定だよ?」
「承知いたしました」
「ありがとう、メイナード」
敬意を込めて礼をしたメイナードに、オースティンは穏やかに微笑む。
結局、フランクの作業が終わるのを待つことにした2人は、フランクの手元をじっと見つめていた。
それから少し経ち、フランクが下がった眼鏡を片手でサッと直した。それを見たオースティンは、急に1つの疑問が浮かぶ。
「フランクは、いつから眼鏡をかけているのかな?」
「10歳の頃からだよ。……実は、そんなに目が悪くないんだけど。眼鏡があると細かいところまで見えるから、つけているんだよ。そんなことで我慢しても、いいことは全くないからね?」
「確かに、そうだね」
オースティンが納得して頷いた後、今度はメイナードが口を開く。
「なぜ、フレームが分厚いものを選んだんだ?」
「ゴーグルみたいで落ち着くんだよ。眼鏡をする前からゴーグルをつけていたからね」
フランクはゴーグルの話題になり、ふと小さい頃の自分とルイザの姿を思い出す。
──あの頃も、本当に楽しかった。
👓 👓 👓
8歳の頃、フランクとルイザは自転車を組み立てていた。
──本当に一生懸命で、顔や服を汚して、よくお風呂に入れられたこともあったっけ?
それからしばらくして、2人はお互いの両親から作業服と、それぞれのゴーグルをもらった。2人は嬉しそうにゴーグルをつけ、はしゃいでいた。
10歳になると、フランクは機械工作に夢中になりすぎて、少しだけ目を悪くしてしまった。フランクは目を細めてしまうようになり、それが癖になりそうだった。しかし、そのときに、声をかけてくれたのはルイザだった。
「もうっ! いい加減、眼鏡をつくりに行きましょう?」
ルイザが目を細めてしまうフランクを見かねて、作業部屋から無理やり連れ出した。彼は、そのとき初めて眼鏡屋に行ったのだが、眼鏡フレームの種類の多さに驚き、なかなか決められなかった。しかし、視線の端に、初めてもらったゴーグルに似たフレームを見つけた。
ルイザと一緒に機械を作り、楽しく遊んだ日々が突然蘇り、いつの間にか購入していた。
その後、フランクは無事に眼鏡を作り、家に帰って早速、眼鏡をつけた。
──こんなに綺麗に見えるなんて、ルイザの言うとおり、さっさと作っておけば良かった。
そう思うくらいに、機械の細かいパーツまでが綺麗に見えた。
小さい頃からアドバイスをくれるルイザは、それからも、ずっとフランクと一緒にいて、同じ学校の科学専攻を選択し、今でもずっと彼のそばにいてくれている。
👓 👓 👓
フランクは、ようやく作業が終わり、オースティンとメイナードに振り向く。
「終わったから、行こうか?」
「うん。今日は、どこに行くのかな?」
「今日は、近くにある錬金術師のお店で、作業を見せてもらう約束をしているんだよ!」
笑顔で答えるフランクに、メイナードは呆れながらも感心する
「フランク。本当にいつも……、どこで、そんな約束を取り付けてくるんだ?」
「科学者のネットワークだよ」
フランクは、さらりと答えた。
「すごいネットワークだね? ぜひ、今度は一緒に行ってみたいな?」
「ああ! いいよ! メイナードはどうする?」
「行くに決まっている。俺がいない間に、オースティン様に何かあるといけないからな」
「そっか。じゃあ、行こうか?」
「うん。メイナードも行こうか?」
「はい、オースティン様!」
「メイナードは相変わらずだなぁ……」
そんな会話をしながら、フランクは荷物をカバンにしまい、3人で教室から出て行く。
「その錬金術のお店、歴史が古くて、なんでも由緒正しき家柄の血縁者が出しているらしくて! すっごく楽しみなんだよね!」
「それは楽しみだね?」
「本当にね! 何でも、丸っこい白い菊を原料にしたアイテム作りが得意みたいなんだ!」
「白い菊?」
「そう! 本当に、どう作っているのかを考えているだけでも、楽しくて! 今から行くのが楽しみで仕方ないよ!」
「本当に楽しそうだね?」
「ああ!」
満面の笑みを見せたフランクに、つられるようにオースティンは笑い、メイナードは軽く溜息を吐く。
今日の夕日は、まだ沈み始めたばかり。楽しいことは、これからもうしばらく続きそうだ。
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