『ベストエンディング』『大吉・大凶』3人称
「登場人物紹介」
ランバート 主人公。下に双子の弟と妹がいる。城下町のあるシュトーリヒ領主の長男だった。しかし、6歳の時、ラゴットに頼み込み、養子にしてもらった。黒のショートカット。黒の瞳。真面目な性格で、しっかり者。
ラゴット ファーガスの元部下で、エリック騎士団元団長。地元では英雄と言われている。妻子はいない。シュトーリヒ領主の屋敷の隣に道場を開いた。ランバートに気に入られ、彼を養子として迎え入れる。父親としては少し頼りない。勇者・ファーガスの後で騎士団長になったのが原因。そのせいで彼の人生に影を落としている。団長の時にすごく思い悩んでいたが、今では少しだけ気が軽くなった。白っぽい金のオールバックに、前髪が少しある髪型。茶色の瞳。剃ってはいるが、薄っすらあごひげが見える。
ミュカリオ ランバートの幼馴染で、ラゴットの道場の弟子。貴族も通う酒場の店主の息子。明るくて優しく、人見知りはしない性格。ランバートと違い成績はあまり良くない。ふさふさした癖毛の金のショートカット。澄んだ碧の瞳。
アルバート シュトーリヒ領主。ランバートの実の父親。真面目だが、優しく、交渉事もそつなくこなす。ランバートのことも、彼の意思を酌んで、養子に出した。彼の弟と妹がいたせいもある。黒のショートカット。黒の瞳。美形。ランバートは父親似。
ヴァルバート アルバートの息子。ランバートの実の弟。双子の妹・ヴィクトリアがいる。黒のショートカット。黒の瞳。美形。ランバートより父親に似ている。しっかり者で賢い。ヴィクトリアは金のロングヘアで、母親似。2人とも、ランバートのことを慕っている。
ランバートがラゴットの養子になって、初めての正月。
彼は、寒い中マフラーを巻き、ラゴットと一緒に元旦でにぎわう街に来ていた。
広い道には屋台が出され、イベントが開催されている。
人通りは多いが、歩く余裕はある。
大人同士ならはぐれることはないが、子どもの背では見失って迷子になるかもしれない。
「ランバート、手をつなぐか?」
「はい、父さん」
差し出された手をランバートがギュッと握る。
「行こうか?」
「はい!」
2人が一歩足を踏み出すと、一気に景色が変わった。
赤、ピンク、白、黄色、緑、青、紫。
色鮮やかな三角の紙飾りが紐に付けられ、街中に飾られている。
道には、屋台が立ち並び、風船の付いた看板や置物が飾られ、おいしそうな匂いが漂う。
近くの屋台では、人形焼きの様な生地に、チョコレートが中に入ったお菓子が売られている。
上には、ピンクのウサギのチョコレートがのっている。
中身によって色を変えているのか、茶色と白のウサギのものもあった。
店員が刷毛で型にカカオバターを塗り、生地を流し込み、チョコを中に入れる。
「生地にアーモンドパウダーを入れているので、コクがあっておいしいですよ! 買っていきませんか?」
その反対側では、焼きトウモロコシが売られている。
香ばしい焦げた醤油の香りが、食欲を刺激する。
広場の近くには、綿あめの店があり、ウサギの形の綿あめが飾られている。
棒には、一見蝶々結びにも見えるが、叶結びの金と赤の水引が付いていた。
広場に出ると中央で、甘酒やホットミルク、カフェオレが配られている。
「アルバートさん、頑張ったみたいですね」
「ああ、そうだな」
複雑な表情で答えるラゴットに、ランバートは首を傾げる。
実の父親と「人前ではお互いに名前で呼び合う」約束をしたランバート。
いくら約束とはいえ、自分の父親を名前で呼ばなければならない彼に、ラゴットは少し同情してしまう。
しかし、本人は全く気にせず、どこかをじっと見ていた。
ラゴットがランバートと同じ方向を見ると、広場の端でおみくじを引く人たちがいた。
「ランバート、おみくじでも引くか?」
「おみくじ?」
「えっ? 引いたことないのか?」
「はい、イベントに出るのも初めてです」
ランバートは、無表情に淡々と語る。
「いつもは、新年のあいさつ回りをしていたので、街で買い物をしたこともないです」
ラゴットは唖然とした。
こんな小さい子どもが、寂しい新年を過ごしていたなんて、全然考えたこともなかった。
「ランバート、今度どこかに買い物に行くか?」
ギュッと手に力がこもる。
「父さん?」
「何か欲しいものとかあるか?」
「いえ、特にはありません」
「そうか……。とりあえず、おみくじでも引くか」
「はい!」
2人は、おみくじを引くため、列に並ぶ。
「おみくじは運を占うものなんだ」
「運……ですか?」
「今年、楽しく過ごせるかわかると言われているんだ。あそこのプレートにも書いてあるだろう?」
ラゴットは、おみくじを引いている人の上を指して続ける。
「運がいい順から、大吉、中吉、小吉、吉、末吉、凶、大凶になっているんだ。係の人にお金を払って、あそこの筒を振って、穴から木の棒を出すんだ」
前の人が筒を振って、木の棒を出している。
「棒に番号が書かれているから、それを係の人に渡してもらうんだ」
「──父さんは、おみくじを引いたことがあるんですね」
「ああ、もちろん! もうかなり昔の話だけどな」
ラゴットは懐かしさに目を細める。
「ニコラス様は、大吉を引いていたな……」
「ニコラス様?」
「ああ、名門ギルバート家の当主様だよ。今は海外に住んでおられるがな。本当にものすごい人だった。髪がキラキラしてて、真紅の服がよく似合うんだ。──ランバートにも、見せたかったな」
「そうなんですか?」
「ああ、何と言っても、国一の魔法使いだったからな!」
ラゴットは笑って言う。
「次の方、どうぞ!」
「行くか?」
「はい! 父さん」
ランバートから、お金を払い、筒を手に取る。
彼は、無表情のまま、おみくじを引く。
こま結びでウサギ型に結ばれたおみくじを受け取る。
彼はおみくじ広げて見た後、ラゴットに見せる。
「大吉……と、書いてあります」
「初めてのおみくじで大吉か! ランバートは、運がいいな」
ラゴットも、同じようにおみくじを引いて紙を受け取る。
丁寧に広げて、紙を見た後、しばらく無言になる。
「父さん? どうしましたか?」
ランバートはラゴットの手首を掴み、紙を見る。
「──大凶?」
紙には、「大凶」と書かれている。
ラゴットは、顔に手を当て、ため息をつく。
「父さん、大丈夫ですか?」
ランバートは、服を掴んで聞く。
その時、どこかから親友の声が聞こえた。
「おーい! ランバート! ラゴットさん!」
ランバートの親友・ミュカリオが、広場の中央から走ってきた。
ランバートが5歳の時、ラゴットが昼間の酒場に連れていき、紹介したのがミュカリオだった。
仲良くなってから、ずっと一緒にラゴットの道場へ通っている。
ランバートがラゴットの養子になった今も、仲良く修行している。
「明けましておめでとう!」
「ミュカリオ、明けましておめでとう」
「ミュカリオ君。……明けまして、おめでとう」
明るく話すミュカリオ。
「あれ? ラゴットさん、元気ないね?」
元気のないラゴットに気付いたミュカリオの腕を引っ張り、ランバートがこそこそと説明する。
「父さんが、おみくじで大凶を引いて、落ち込んでいるんだ」
「えっ、そうなんだ! ……わかった! おれが何とかしてみるよ!」
ミュカリオは、落ち込んでいるラゴットの足を軽く叩いて励ます。
「大丈夫だよ、ラゴットさん! おれも去年、大凶を引いたんだ! でも、兄さんが『大吉』をくれたんだ! 大凶は、あそこの紐に結んでもらったんだよ。おかげで、ランバートに会えたんだ!」
ミュカリオは、嬉しそうに話した。
話し終わった途端、ランバートがラゴットの手からサッ!とおみくじを抜き取り、スタスタと歩いていく。
「ちょっ! ランバート!」
6歳のランバートは人込みをすり抜け、背の高いラゴットは人込みに足止めされる。
ランバートは、ミュカリオが言っていた木と木の間に渡された紐に、ラゴットのおみくじを結ぼうと手を伸ばす。
頑張って背伸びしても、何度ジャンプしても結べずに困っていると、彼に気付いたイベント係の女性が声をかけてくれる。
「僕? ここに結びたいの?」
「はい!」
「じゃあ、私が体を持ち上げるから、その間に結んでくれるかな?」
「ありがとうございます!」
女性がランバートを持ち上げてくれる。
その間に、ようやくラゴットが追いついた。
「すみません! 私の息子がご迷惑を! 私が代わります!」
「いえ、大丈夫ですよ。子どもを抱っこするのは慣れていますから」
にこにこした女性は、ランバートに尋ねる。
「もう結べましたか?」
「はい! ありがとうございます!」
ランバートは真剣な顔で、お辞儀した。
「それでは、私はこれで失礼します。お2人とも、どうぞイベントを楽しんでいってください」
係の女性が帰っていくと、ラゴットが急に屈み、ランバートをじっと見る。
「1人でいなくなったらダメだろう? 迷子になって誘拐されたらどうするんだ? ──寿命が縮まるかと思った」
「父さん、すみません。あと、──はい!」
ランバートが自分の大吉を差し出した。
「それはランバートのだろう? 自分の息子の『大吉』をもらう親なんて」
「おれが、もらってほしいんです。おれが6歳の誕生日に、父さんの『養子になりたい』と言った時も、願いを聞いてくれました。父さんが、さっき『私の息子』と言ってくれて、とても嬉しかったです。今度は、尊敬している父さんに、もらってほしいんです」
「──ランバート」
受け取るか迷った後、覚悟を決めて、おみくじを掴む。
「──ありがとう」
ふっと微笑むランバートと嬉しそうに笑うラゴット。
「おーい! 2人ともー!」
ミュカリオが手を振り、走ってくる。
「一緒に家に来ないかー? これからみんなでパーティーするんだ!」
「ありがとう、ミュカリオ君。じゃあ、そうさせてもらおうかな?」
「ああ、お世話になる。ミュカリオ、ありがとう」
「──どういたしまして!」
ミュカリオは満面の笑顔で、元気よく応えた。
3人は、彼の家族と合流するため、広場の中央へと急ぐ。
その後、みんなでミュカリオの家の酒場に行き、新年をお祝いするのだった──。
参考サイト様 (敬称略)
・叶結びとは?お守りにも適した縁起のよい水引の結び方を解説 | 水引ライナー
・おみくじの順番は何が正解?運勢の意味や確率・正しい引き方を再確認! | ホイミー
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