『ベストエンディング』『紅葉』3人称

 くれないの葉が風に舞い、秋にいろどりをえる。


 エルマリアとマリアンナは、この紅と黄に染まるレーツェレストにやってきていた。


 ビターはドニーの膝でお留守番。

 あちらでは、「午後3時頃、久し振りに焼き芋パーティーでもしようか?」、「2人とも、用事が済んだら本邸の庭に集まって?」とエルマリアの両親に言われていた。


 たくさんの紅葉と1本のイチョウの木がある綺麗な場所に出る。


 これから、2人はレジェドシュヴァイクまで見回りしながら、アレクシス・フィンとフランに会いに行く。


 お昼すぎまでかかるため、朝早くから2人でお弁当を作った。


 ポークケチャップのオムライス、アスパラガスの肉巻きオランデーズソース、ナスとパプリカのマリネ。


 ジュージューとフライパンに乗せたナスとパプリカが音を立てる。

 隣から、シャカシャカとソースを作る音が聞こえる。

 あたたかい笑顔を浮かべ、2人で声に出して笑い合う。

 最後に冷ましてから盛り付け、完成したお弁当──。


「帰りに、ここで食べようか?」

「はい!」

 マリアンナが笑顔で答える。


 突然、木枯こがらしが吹き、あかい落ち葉が舞う。


 見事な紅葉こうよう見惚みとれる。


 恋人たちがダンスでもするようにあかい葉が舞う中、イチョウの葉が光の粒のように散りばめられる。


 1枚の紅葉もみじがエルマリアの手のひらに、ふわりと落ちる。


 彼はそれを愛しそうに見つめ、やわらかく微笑むと、飛ばされないようにしながら、そっとマリアンナに見せる。


「この綺麗な紅葉もみじは、アンナによく似てる」


 マリアンナは一瞬驚くが、すぐに近くにあるイチョウの木を見て、落ちてきたイチョウの葉を1枚、ふわりと手のひらにのせ、エルマリアのなびくブロンドの髪を見つめる。


「イチョウの葉は、エルさんに似ていて──、私は大好きです」


 お互いに見つめ合い、少し恥ずかしそうに笑った。


 2人を祝福するように、バラの花びらのようにあかい葉が降りそそぐ。


 しばらくあかい風景を眺めた後、お互いの手をそっと繋ぎ、ゆっくりとアレクシスたちの元に向かう。


「今度はイチョウの葉を見に行こうか?」

「はいっ!」



 🍁 🍁 🍁



 午後3時ちょうど。ドニーたちは紅葉こうようと焼き芋を楽しんでいた。


 ──紅葉こうようを眺めていると、アントベルたちのことを思い出す。



 🍁 🍁 🍁



 ホットミルクを飲む黒猫のホット。

 いつものように笑顔で、焼き芋を差し出すアントベル。

 嬉しそうにしっぽを振って、焼き芋を待つアドルフ。

 みんなを見守るエリックとコキーユ。

 遥か昔、みんなで一緒に焼き芋を食べた。

 今も変わらないこと、変わってきたこと……。

 昔、優しくしてくれた人たち。その人たちの子孫に囲まれ──。


 今もまた、優しくも、あたたかな──あかい葉の光景を眺めている。



 🍁 🍁 🍁



 ドニーはリディアたちから少し離れた椅子に座り、みんなの様子を眺めている。その隣の机では、黒猫のビターが焼き芋を美味しそうにモグモグ食べていた。

 ヴァイスとカルロッタの横で、しっぽを振るヴォルフ。

 みんなの様子を見て、焼き芋を配るリディア。

 ニコラスがサツマイモを焼いていたが、近くにいたロルフに交代してもらう。焼き芋の乗った皿を1枚取り、ドニーに近づいてくる。

「ドニーさんも、焼き芋を召し上がって下さい」

「ああ、ありがとう、ニコラス」

 湯気のあがる焼き芋を受け取り、一口食べる。

「おいしい」

「それは良かった。まだたくさんありますから、いっぱい食べて下さい」

 ニコラスは優しく笑う。

「ホットミルクはないのだろうか?」

「そうですね、今はありませんが……」

「そうなのか?」

「──今から、作りますね? 少し待っていてください」

「悪いが、ビターの分ももらえるだろうか?」

「──はい! 分かりました」

 ニコラスは近くのビターを見て微笑み、快く了承した。

「すみません! 遅れました!」

「遅れて、すみません!」

「エルも、アンナも、お仕事お疲れ様!」

「お帰り、エル、アンナちゃん。はい、これ2人の分だから、いっぱい食べて?」

「ありがとう、母さん」

「ありがとうございます、リディアさん!」

 向こうでは、エルマリアとマリアンナが、リディアから焼き芋を受け取っており、リアマリアが飲み物を差し出していた。

 それから、10分ほどして、ニコラスは全員分のホットミルクをトレイに乗せて戻ってきた。

 リディアにみんなの分を任せ、ドニーとビターの分を持って、足早にやって来る。

「ドニーさん、ビター、お待たせいたしました」

「ああ、ありがとう」

「ニャッ!」

 ホットミルクのにおいに気づいたビターが振り向き、ニコラスにすごいスピードで近寄っていく。

「はい、ビター」

「ニャーッ!」

 ニコラスはミルクを差し出した後、喜ぶビターの顎を少しだけ触る。

 その後、ニコラスは笑顔でドニーに振り返る。


「スイートポテトも作ってありますよ?」


 その言葉に、ドニーは懐かしそうに笑った。

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