『ベストエンディング』『赤く染まった頬』3人称
「登場人物紹介」
マリアンナ 主人公。魔法使い。師匠の弟・エルマリアとともに旅をしていた。
エルマリア オデオン騎士団の回復部隊所属。特殊部隊の隊長でもある。魔法使いだが、武術と剣術も得意。マリアンナの師匠・リアマリアの弟。アントベルの子孫。
ビター マリアンナの契約聖獣の黒猫。メス。
元々は、リアマリアの契約聖獣だった。首の赤いリボン。それに、ギルバートの家紋が入った金の丸い飾りを付けている。
メイナード オデオン騎士団の団長。オースティン国王の元護衛。魔法剣士。エルマリアの士官学校時代の恩師であり、剣術の師匠でもある。ヘルヘーニルの子孫。
ドニー 『竜族ドニーとギルバート家』の主人公。竜族の科学者。昔、グラントエリックの施設を作っていた。1度、異世界に戻るが、再びグラントエリックに戻ってきた。白のショートカットに、金の瞳。美形。無表情に近いが、穏やかで優しく、動物に好かれる体質。
アントベル 『竜族ドニーとギルバート家』の主人公。グラントエリックの初代国王・エリックの次男。昔は、ドニーの護衛とお世話係をしていた。魔法使いの一族ギルバート家の祖先でもある。
イリゼ 科学者の卵。銃使い。二丁拳銃。エンシェントウェポン・スクロミノリスを使う。マリアンナたちとともに旅をしていた。最近は、ドニーと研究に打ち込んでいる。
ヴァイス 聖獣召喚術師。白狼のヴォルフを連れている。マリアンナたちとともに旅をしていた。現在はカルロッタと結婚し、フィンバートに住んでいる。
カルロッタ マリアンナたちと旅をする前は、大道芸人をしていた。現在はヴァイスと結婚し、フィンバートに住んでいる。
エルマリアとマリアンナが一緒に過ごす初めての冬。
今年、1番の大雪が降り、町全体が白く染まっていた。
城の敷地内にも雪が降り注ぎ、雪を溶かさなければ仕事に支障が出るほどだ。
一方、城内の廊下では雪とは違った白い大理石の上を1人の男が歩いていた。
青い髪に、紋章入りのオレンジのマント、銀の鎧。
そして、肩には廊下から差し込む光に照らされ、輝く金の紋章。
オースティン国王の元・護衛であり、オデオン騎士団の団長メイナードだった。
その後ろから足早に近づいてきたエルマリアとマリアンナは、彼に声をかける。
「メイナード団長、報告を受けて参りました」
「メイナード団長、お久しぶりです」
声をかけるエルマリアとマリアンナに、メイナードが振り返る。
「エルマリア。──マリアンナも来ていたか」
メイナードは、2人に一歩近づく。
「昨日、帰還する予定だった遺跡の発掘隊が、まだ帰還していないと報告を受けた。場所は、レーツェレストの地下遺跡だ。騎士団本部にいる副団長から資料を受け取り、任務に向かってほしい」
「「了解致しました!」」
「──気を付けて行け」
敬礼する2人に、敬礼で返すメイナード。
みんなの様子に、ビターがもぞもぞと動く。
「ニャア!」
「ビターもな」
前に出てきたビターの頭を撫で、メイナードは微笑んだ。
◇ ◇ ◇
吹雪の中、エルマリアとマリアンナはレーツェレストの奥地へ向かう。
強風に揺れても白く飾り付けられていく森の木々。
人が歩けないほど降りつもっていく真っ白な道。
雪で隠れた冬の花がひっそりと咲いているが、もうすぐ雪で見えなくなるだろう。
吹雪の中を杖で飛んでいく2人は、防御魔法をかけつつ雪を防ぐ。
2人は、おそろいの白いハイネックダウンコートをなびかせる。
以前、2人で買い物にでかけて買ったフード付きのものだった。
白いふわふわも付いており、とても温かい。
他にも、白いふわふわの付いた茶色の手袋。
そして、紐付きの茶色いロングブーツも、全部おそろいだった。
吹雪が激しくなる中、エルマリアがマリアンナたちに声をかける。
「大丈夫? アンナ、ビター!」
「はい!」
「ニャア!」
出来る限り声を張り上げてマリアンナは答え、その声に反応し、元気よくビターは鳴いた。
「アンナ! あそこが入口だから! あそこで降りよう!」
「はい!」
遺跡の扉の前まで来た2人は、地上ギリギリで杖から降りる。
エルマリアは、アンナに振り向く。
「アンナ」
「エルさん?」
エルマリアが右手を差し出し、マリアンナがためらった後、その手をそっと取る。
彼は彼女の手をぎゅっと握り、扉の前まで歩いていく。
久しぶりに手を握ったマリアンナは頬を赤く染め、エルマリアは少しだけ頬を赤くし、ふわりと微笑む。
そして、2人は扉の前に立つ。
「エルさん、この扉……」
「大丈夫。魔法で開くから」
そう言うと、エルマリアは杖に力を溜め、扉に魔法をかける。
キラキラと青い光が降り注ぎ、ゆっくりと扉が開いていく。
「行こう! アンナ、ビター」
「はい! エルさん!」
「ニャア!」
2人と1匹は、遺跡の中へと入っていった──。
◇ ◇ ◇
それから、発掘部隊を無事に助け、1年が経った。
ちなみに、エルマリアとマリアンナが恋人になってから初めての冬だ。
今日もまた、2人は寒い中で仕事をしていた。
なぜなら、アイクイースで薬草の採取してくれと、科学の第一人者ドニーに頼まれたからだ。
ドニーとは、「異世界エルヴィスドニー」からやって来た竜族の青年だ。
青年と言っても見た目だけで、本当は10000歳を超えている。
初めは偶然召喚されてしまったドニーだったが、「グラントエリック建国」にも深く関わり、その後もずっと国に貢献し続けた。
1度は異世界に戻ったドニーであったが、今年になって不思議なイヤリングを使い、再びこちらの世界に戻ってきた。
現在は、ギルバートの本家でお世話になり、施設の復興と武器の改良に尽力している。
今回、薬草が必要になったのは、イリゼの銃・スクロミノリスを改良し、回復魔法を使えるようにするためだった。
◇ ◇ ◇
ドニーは資料の中から薬草の写真を取り出し、エルマリアとマリアンナに見せる。
「これが、今回採取してきてほしい薬草だ」
「了解致しました。今日の夜には用意できると思います」
「ああ、頼む。明日、必要になるから、今日までに届けてくれると助かる」
「はい、必ず今日中に届けます」
ドニーは、写真の薬草を懐かしそうに見つめ、目を細める。
「どうかしましたか?」
「──昔、アントベルと、この薬草を取りに行ったことがある」
「アントベル? 初代のですか?」
「ああ。ギルバート家の初代当主アントベル・ギルバートのことだ。──契約聖獣のホットも一緒だった」
ドニーは、赤いリボンを付けたビターを見つめる。
ビターは首を傾げ、それを見たドニーはふっと微笑み、彼女の耳の後ろを撫でる。
「──懐かしい、な」
◇ ◇ ◇
2人は、去年と同じおそろいの防寒具を身に着け、ずっと薬草を探している。
ただ、以前と違うのは、マリアンナの耳に赤いイヤリングが揺れていることだった。
マリアンナが告白した時、エルマリアにもらったイヤリング。
あれ以来、毎日のように付け、大切にしている。
とりあえず、マリアンナは草の上に乗った雪をそっと払い、写真と同じ薬草かを確認する。
「エルさん、この薬草でしょうか?」
「うん、そうだね。俺が取ろ──」
「「あっ!」」
2人は一緒の薬草を取ろうとして、手が触れ合う。
「ごめん、アンナ」
「いえ! 私こそ、すみません……」
最後は消え入りそうな声で謝るマリアンナの頬は、冷えて赤くなっていた時よりも、もっと赤くなっていた。
そして、エルマリアの頬も赤くなり、何となく暖かい空気が漂う。
多分、2人の体温が上がったせいだろう。
2人は少しすると落ち着きが戻り、顔を見合わせて笑った。
その後、2人はたくさんの薬草を取った。
それを2人で大きな容器に詰め、魔法で別空間に送る。
容器が消えるのを見送った後、エルマリアがマリアンナに向かって、手を差し出す。
「アンナ、帰る前にヴァイスとカルロッタに会っていこうか?」
「はい!」
返事をして手を取るマリアンナ。
杖で飛べない少しの間だけ、2人で手をつなぎ、狭い道をゆっくりと歩いていく。
その2人の頬は、また赤く染まっていた──。
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