『勇者ファーガスと魔法使いニコラス』『冬の夜』3人称

「登場人物紹介」


 ニコラス 魔法使いの貴族・ギルバート家の次期当主。最強の魔法使い。契約聖獣の黒猫・オペラを連れている。アントベルたちの子孫。約1年前まで海外にいたが、母国「グラントエリック」に戻って来た。リディアと婚約している。

 リディア 錬金術の貴族・アステラレス家の長女。魔法使いで、錬金術師でもある。オデオン騎士団所属。回復部隊にいるが、特殊部隊でも活動している。強大な魔力を安定させるため、特殊部隊の人たちにお世話になっていた。ヘリオフィラたちの子孫。ニコラスと婚約している。

 カシア 『オデオン騎士団の恋愛』の主人公。オデオン騎士団の団長。魔法剣士。リディアの年の離れた親友。オースティン国王の護衛・メイナードの妻。金の瞳。黄緑のロングヘア。首の上にねじって作ったお団子。ドーナツに見える。深くまで挿し込める、カッシアの花が2つの髪飾りをつけている。

 ファーガス 勇者。ロルフの仕事仲間で、ニコラスと仕事で鉢合わせすることもある。魔法剣士。聖剣「グラントブライト」の使い手。エリック騎士団の団長。ニコラスのことを尊敬している真面目な青年。私生活には無頓着。天然なところがあるが、戦闘になると敵を一撃で一掃するほど強い。

 ロルフ ニコラスの友人で、遠い親戚。ファーガスの仕事仲間。聖獣召喚術師。白狼のアドルファスを連れている。

 オペラ ニコラスの契約聖獣の黒猫。オス。左耳の裏が白と黒の層になっている。現在は、茶色っぽい黒猫ロシェと恋人になっている。今回はお留守番。




 年を越し、久しぶりに会ったニコラスとリディア。

 リディアは正月前から騎士団の仕事を休み、正月の挨拶回りと貴族の仕事を手伝うため、実家に戻っていた。



 ◇ ◇ ◇



 現在は、1月16日、午後9時過ぎ。

 夜景の綺麗なレストランで食事した後の帰り道。

 2人は街路灯に照らされ、煉瓦で舗装された並木道を歩いていた。

 ニコラスは、さらさらの金のショートヘアと鮮やかな赤いマフラーを風になびかせている。

 金のアラン模様の入った赤いマフラーは、リディアの編んだものだ。

 その下に、家紋の入った金のネックレスが見える。

 他は、白いロングコートに、モカ色のズボン、同色の手袋に、茶色の靴という装いだ。

 ニコラスは澄んだ青の瞳で、隣にいるリディアの輝く紫の瞳を見つめる。

 婚約者のリディアの服装はといえば、ピンクのダッフルコートに、留め具はベージュ、白のロングスカート、茶色のロングブーツ。

 ピンクの手袋に白いふわふわが付いている。

 同じふわふわの白いマフラーの両端に、光沢のある焦げ茶のリボンが付いており、前で蝶々結びにされている。

 その下に、白いバラのネックレスが見える。

 リディアも、さらさらの紫のショートヘアを風になびかせ、ピンクのイヤリングを揺らしていた。

 2人が歩く大通りには、店が立ち並んでいるが、ほとんどの店が閉まり、人通りも少なくなっていた。

 それでも、2人は楽しそうにショーウィンドウを彩る商品たちを眺める。

 花、お菓子、ぬいぐるみ、雑貨、ドレス、宝石、バッグ、楽器、絵画。

 1つ1つの商品を見ては、2人で話をして笑い合う。

 ふと、リディアはおもちゃ屋のマスコット・巨大テディベアを見つける。

 すると、リディアは立ち止まり、前かがみになってテディベアを見て、ふわりと笑う。

「可愛いですね」

「うん、──可愛いね」

 テディベアと振り返ったリディアを見て、ニコラスは微笑んだ──。



 ◇ ◇ ◇



 いつの間にか2人は大通りを抜け、家までの道を歩きながら、2人が初めて会った時のことを思い出していた。

 2人の出会いは、ニコラスがオデオン騎士団団長のカシア・シュトーリヒの居場所を聞くため、城の廊下でリディアに声をかけた時だ。

「あの時、『このだ』と思ったんだ。親切で、みんなに優しくて、『笑顔が素敵な娘だな』って、思ったんだ」

「ニコラス様……。 ──私も、ニコラス様のことを笑顔が素敵で、とても優しそうな方だと思いました」

「リディア──。ありがとう」

「ニコラス様こそ、ありがとうございます」

 2人でくすくす笑い合う。

「リディアに出会うキッカケをくれたカシアさんには、今でもとても感謝しているんだ」

「カシアさんは、昔から私に良くしてくださいました」

「うん。カシアさんが、『リディアには、すごく良くしてもらいました』って、話してくれたよ。──本当に仲が良くて、2人を見てると微笑ましい気持ちになるよ」

「そんな! でも……、ありがとうございます。──カシアさんとは、私が9歳の時に知り合いました」

 リディアは、身に着けている白いバラのネックレスを持ち、話を続ける。

「ある日、落ち込んでいた彼女のお守りになればと、宝石の中にカッシアの花を入れたネックレスを贈りました。とても喜んでくださって──すごく、懐かしいです」

 ニコラスは微笑みながら、リディアの次の言葉を待つ。

 その間も、ネックレスを見ていた彼女は、ニコラスと初めて食事をした時のことを思い出す。

「デューンルーインズの暴走の後、ニコラス様が初めて食事に誘ってくださった時に、ピンクのバラの花束をいただきました。『このバラの飾りと同じピンクにしてみたんだ』とそうおっしゃっていました。普段は、白いバラの飾りなのに、まさか使っているところを見てくださっていたなんて気付きませんでした」

「サポートしてくれている人のことを見ているのは当然だよ。特にリディアのことだからね?」

 リディアの白いバラのネックレスは、魔力がたまるとバラがピンクになる仕様だ。

「俺はリディアに、『助けていただいたお礼です』って、このネックレスをもらったよ。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」

 事件後、一緒に食事をしようとニコラスが誘い、2人でカフェに行った。

 戦いで助けてもらったお礼にと、ニコラスは家紋が入った金のネックレスをリディアにプレゼントされた。

 今も、マフラーの下につけている。

「あれから、2人でデートするようになって、ファーガスと食事をした時もあったね」

「はい!」

 ニコラスの行きつけの洋食屋で、契約聖獣の黒猫・オペラも一緒だからと、3人と1匹でテラス席で食事をした。

「ファーガスもおいしそうに食べてくれて良かったよ」

「はい!」

 その時のことを2人で思い出し、目を細める。

 あの時、ファーガスはほとんど無表情だったが、喜んでいることが2人にはわかった。

「舞踏会で騒ぎが起こったこともあったね」

「はい、あの時は大騒ぎになるところでした」

 ギルバート家主催で行われた舞踏会。

 その会場に強盗グループが逃げ込んできたことがあった。

 ニコラスは、自分にぶつかりそうになった犯人をサッと捕まえ、彼を追ってきたファーガスとロルフとともに別の場所にいる犯人グループを捕まえに行った。

「あの時は、リディアを置いて行ってしまって──本当に、ごめん」

「いえ、ニコラス様にお怪我がなくて良かったです。ご無事でいてくださるだけで、他には何もいりません」

 謝るニコラスに、リディアはふわっと笑う。

「リディア──」

「ニコラス様。ここからは、住宅街です。行きましょう?」

「──ありがとう、リディア」

 ニコラスは「リディアは本当に優しい人だ」と微苦笑した。



 ◇ ◇ ◇



 2人は貴族の住宅街まで来た。

 その中でも、リディアの家は奥の方にあり、さらに人通りも少なくなる。

 先ほどよりも、街路灯が少なくなり、明かりが減っていく。

 考え事をして夜空を見つめていたニコラスは、満天の輝く星たちに気付く。

「──リディアは、冬の大三角を知ってるかな?」

「はい、聞いたことはあります。方角を見るのに良いと、騎士団で教わりました。でも──まだ、すぐには見つけられなくて……」

「そうか──」

 ニコラスが急にリディアの手を握り、寄り添う。

 急に近くなったニコラスをリディアは驚いたように見つめる。

 そんなリディアを「可愛い」と思いつつ、ニコラスは冬の大三角の話を始める。

「冬の大三角は、12月の中旬から2月頃に南の空に見えるんだよ。おおいぬ座の『シリウス』、こいぬ座の『プロキオン』、オリオン座の『ベテルギウス』。3つの一等星を結ぶ三角形のことなんだ。オリオン座の『ベテルギウス』が1番見つけやすいんだよ」

「そうなんですね」

 ニコラスは落ち着きを取り戻したリディアの瞳を見た後、3つに並ぶ星を指し示す。

「あそこの綺麗に並ぶ3つの星が、『オリオン座の三ツ星』。その左上に赤く輝く星が『ベテルギウス』。その下に一際白く輝く星が『シリウス』。そして、『ベテルギウス』と『シリウス』を線で結んで、正三角形を作るように、こいぬ座の『プロキオン』がある。この3つの星を結ぶと、冬の大三角になるんだよ」

「あれが『冬の大三角』──すごく、綺麗です」

「冬の大三角は、天の川の中にあるんだよ」

「──天の川が流れているなんて、とてもロマンチックですね」

「そうだね」

 2人で、静かに夜空を見つめる。

 しばらく輝く星たちを眺めた後、ニコラスはそっと口を開く。

「引きとめてごめん、リディア。──少しでも、長く一緒にいたくて」

「いえ、迷惑じゃありません。──私も、ニコラス様と少しでも一緒にいたいです」

 リディアはギュッと握る手を強くする。

 冬の夜空の下で、白い息を吐き、2人は見つめ合う。


 ──抱きしめて、キスする。


 しばらくしてゆっくりと体を離して、リディアを家に帰すため、ニコラスは手をつなぐ。

「明日は、まだ家にいるのかな?」

「明日から、騎士団の仕事に戻ります」

「そうか──じゃあ、また明日から一緒だ」

「──はい!」

 やわらかく微笑むニコラスに、リディアは満面の笑顔で返事をした。

「行こうか?」

「はい!」

 手をつないで歩いていく2人は、リディアの家に着くまで、手を離すことはなかった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る