『竜族ドニーとギルバート家』『アントベルの旅立ち、帰郷』1人称と3人称
アントベルは、ファインドライトとの修行で、シュトーリヒに1番近い南の地域ディセントに立ち寄っていた。
彼は、短くなった髪を鏡で確認し、ケースに入ったイヤリングを眺める。
そっと手を伸ばし、1つ取り出す。
鏡を見ながら、慣れない手つきでイヤリングを付け始めた。
金属のパーツが滑って、意外と難しく、何度も付けなおす。
「兄さん、いつも付けてくれてるけど、器用だな──」
このイヤリングは、錬金術で作ったもので、「1度だけ全回復できる耳飾り」。
アントベルが前に、兄のオデオンに贈ったものと同じものだった。
◇ ◇ ◇
今から、約2年前。
ヘリオフィラさんに教えてもらって、ドニーさんと一緒に「1度だけ全回復できる耳飾り」を作った。
あの時は、デクスターさんが薬草のことを教えてくれて、一緒に話しながら採取した。
小さい頃から、色々なことを教えてくれたデクスターさんには、今でも感謝してる。
次に同じ耳飾りを作ったのは約1年前。
新しいレシピが出来たから実験しようと、ドニーさんと約束した。
ドニーさんが道具を用意してくれて、材料は自分で持ってきた。
実験は成功し、「1度だけ全回復する耳飾り」を完成させた。
出来たイヤリングを専用のケースにしまう。
いつかこれを付ける日が来るのかな?
この耳飾りに相応しい人間になりたい──。
本気で、そう思った。
その1か月後、ファインドライトさんと修行に出ることになり、ドニーさんたちが城の前で見送ってくれた。
ホットを肩に乗せたドニーさんが、声をかけてくれる。
「アントベル、忘れ物はないか?」
「────ない。と、思います」
ドニーさんの言葉で荷物を見回し、確認した後、用意した時のことを思い出す。
多分、──大丈夫。
「兄さんは、そそっかしいから」
「アントベル、転ばないように、足元には気を付けて」
「ビオレッタ、ドニーさん……。ありがとうございます」
妹とドニーさんの言葉は嬉しいけど、まだ信頼されていないことに苦笑する。
その時、隣から足音が聞こえた。
「アントベル」
「父さん」
父さんが声をかけてくれた。
手には、ラッピングされた大きな袋を持っていた。
「俺が昔使ってた服と同じものなんだけど、良かったら使ってほしい」
「ありがとう、父さん」
笑顔で受け取ると、父さんも嬉しそうに笑う。
「あと、これも持っていって。コキーユと作ったから、ファインドライトと食べてほしい」
「はい! アントベル!」
母さんがお弁当の入ったカゴを渡してくれた。
「父さん、母さん、ありがとう!」
「エリック! コキーユ! 俺の分まで大変だっただろう? すまない」
「趣味だから、気にしなくていいよ。──ファインドライト、アントベルのことをよろしく頼む」
「ああ、約束する。必ず無事に送り届ける」
「よろしくね、ファインドライト」
「コキーユ。ああ、もちろん!」
大人同士が話していると、兄さんが近づいてきてくれた。
「アントベル、気を付けて行くんだよ」
「兄さん、ありがとう!」
「ベル兄さん、何かあったら、騎士団に報告すれば、飛んでいくから」
「俺も、助けに行く。何かあったら、言ってくれ」
「アルムもケルソーも、──ありがとう!」
弟たちにお礼を言っていると、スノーが話しかけてくれる。
「アントベルお兄さま、気を付けてくださいね」
「スノーも、ありがとう! ヴァルムとお幸せにね?」
「お兄さま……。ありがとうございます!」
今までの中で、1番の笑顔をした妹が言った。
「ヴァルム、ありがとう」
邪魔にならないように、隣りにいたヴァルムに声をかけた。
驚いた顔をしたヴァルムは、にこりと笑って応えてくれる。
「──こちらこそ、ありがとうございます!」
みんなと話し終わった父さんが、戻ってきてくれる。
「これから大変だけど、気を付けて、アントベル」
「本当に気を付けてね、アントベル」
母さんが、襟を直してくれる。
「ありがとう、父さん! 母さん! みんなも、ありがとう! 行ってきます!」
「みんな! 行ってくる!」
「「「いってらっしゃい!」」」
「ニャア!」
「ワォンッ!」
手を振って、みんなと別れた。
「これからは、今までより大変かもしれない。何かあれば、遠慮せずに言ってくれ。必ず、俺が力になる」
「ありがとうございます!」
修行で、必ず強くなる!
ドニーさんたちに認められる人に、きっとなる──!
◇ ◇ ◇
「もう、そんなに経ったのか──」
なつかしさに目を細めるアントベル。
切ってすっきりした前髪の下、両耳に何とかイヤリングを付け終える。
「そのうち慣れるかな?」
ポツリと呟いた。
顔を鏡で確認したアントベルは、エリックからもらった魔法使いの服を確認する。
折れたり、シワが寄っていないか。後ろや裾、靴の先までチェックした。
最後に服をパンパン!と払い、深呼吸する。
「──さあ、行こう!」
今日、彼らにようやく会える。
「ドニーさんたち、元気かな?」
なつかしい気持ちを抱きながら、アントベルは部屋のドアを開け、シュトーリヒへと向かった──。
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