『竜族ドニーとギルバート家』『焼き芋』3人称
※猫は育った環境により、「ミルクが好きな子も、あげたら駄目な子もいます」。
※ホットは契約聖獣なので、熱いものも平気です。
「もうすっかり秋だな──」
アントベルは昼過ぎの輝く太陽と空にある鱗雲を見ながら、ちらっと視界の端に映った茶色がかったオレンジの葉に秋を感じ、そう呟いた。
──ああ、そうだ! 早く落ち葉を集めないと……! ドニーさんの護衛をしないといけなかった!
ぎゅっ!と両手で竹ぼうきを持ち、落ち葉をサッサッと掃き、家の前に集めていく。アントベルによって集められた落ち葉はボロボロなものから綺麗なものまで様々だ。
ふと周りの景色を見回したアントベルは、一面オレンジに染まる光景に淡い笑みを浮かべる。彼は少しだけ心が弾んだように楽しくなり、ステップを踏むかのように落ち葉を集め始める。心なしか、先程よりほうきを動かすスピードも速い気がする。
──そういえば、ドニーさんの護衛に就いてから、まだ1年も経ってないな──。
ドニーも忙しくて、まともな休みも取れていない状態だったのが、数か月前。今はようやく落ち着いて、のんびりとした毎日を送っている。
しかし、しばらくしたら、また忙しくなるだろう。
今でも他の施設から要請が来ることもある。その度に護衛としてついていくアントベルは、ドニーの大変さが昔より、よくわかるようになっていた。
昔は、ドニーの後ろに隠れてばかりだったアントベル。
人見知りで、気が弱くて──。でも、優しくて魔力が強くて、みんなから「憎めない性格」と言われていた、あの頃。
──あの頃は、何も知らなかった。
毎日、アントベルはドニーの研究室に通い、家族一緒にご飯を食べ、たまにみんなで一緒に寝ていた。
アントベルが研究室に行くと、ドニーはいつもお茶とお菓子を出してくれて、話もしてくれて──。
──お菓子……お菓子か……。そういえば、もう秋だったな──。ドニーさんにお菓子でも持って行こうかな?
ドニーは今日も休んでいい日のはずだが、自室の研究室にこもり、資料を読んでいる。
そして、アントベルの契約聖獣・ホットもいつもと変わらず、ドニーの部屋で昼寝をしている。見た目はオスの黒猫で、「すーすー」と寝息を立てて眠る姿は可愛いのだが、「主人よりも他の人に懐いているのはどうなんだろう?」と飼い主のアントベルはよく悩んでいる。
妹のビオレッタは「ベル兄さんに似てるんじゃない?」と言っていたが、アントベルは未だにあまり納得できていない。
アントベルは家の周りをちょうど掃き終わり、改めて落ち葉の山を見る。
──お菓子……、おやつ……、落ち葉……。
「そうだ! 焼き芋!」
──落ち葉で、さつまいもを焼こう!
ドニーは大体、城か研究施設にいて、今まで街に出たことはあまりない。
ここ最近で焼き芋を買ってきたのは、アントベルの記憶によれば彼が学生時代の頃だ。それ以来、2人は焼き芋を全く食べていなかった。
焼き芋はオーブンで焼くと、とても時間がかかる。しかも、さつまいもはスイートポテトやフライドポテトにしてしまうことも多く、焼き芋を食べなくなるのも当たり前と言えた。
早速、ドニーとホットと一緒に焼き芋を食べるため、アントベルは気合を入れ、準備にとりかかる。
まず、落ち葉が飛ばないように1度袋に入れる。
次にキッチンでレーツェレストに住む祖父のロリオからもらったサツマイモを洗い、塩水に1時間ほどつける。その間に、家の中から机と椅子などを家族の人数分だけ外に運び、綺麗に拭いていく。その後、食器や飲み物を机の上に用意する。
1時間後、サツマイモを塩水から取り出し水で濡らした新聞紙を巻き、さらにアルミホイルでぴったりと包み、カゴに入れて外に持っていく。
それから、落ち葉を袋から取り出して魔法で火をつけ、火加減を見ながらサツマイモを焚火の中に入れていく。
サツマイモの向きを15分ごとに変え、1時間ほどじっくりと焼いていく。
最後のサツマイモの向きを変えると、アントベルは急に立ち上がり、家の2階に体ごと顔を向ける。
「ドニーさーん!」
アントベルは2階の研究室にいるドニーとホットを呼んだ。
少しすると、2階の部屋の窓を開けてドニーとホットが顔をのぞかせる。
「──うん? どうかしたのか、アントベル?」
「ニャア?」
「ちょっと外に来てもらえませんかー!」
「ああ、分かった」
首を傾げながらも、ドニーは研究室から出ていき、ホットは彼の肩に乗ったまま、のんびりとくつろいでいる。彼が家の外に出ると、アントベルが枯葉から出る煙をじっと見つめていた。
「アントベル、──何かあったのか?」
「あっ! ドニーさん、ここに座って下さい」
「──うん? ああ」
首を傾げながら、ドニーは近くの椅子に座った。
「火を見ててもらえますか? ホットミルクを持ってきますね?」
「ああ、分かった」
「ニャアッ!」
大好物の「ホットミルク」と聞き、ホットは大好きなドニーの声を遮りそうなほど元気に声を上げる。ホットはワクワクしながら、「ぴょんっ!」とドニーの膝に飛び乗る。
ドニーはふっと微笑み、ホットの首をなでる。その間に、アントベルは家の中に入っていった。
🍂 🍂 🍂 🍂 🍂 🍂 🍂 🍂 🍂 🍂
「お待たせしました、ドニーさん! ありがとうございます!」
「ああ。ありがとう、アントベル」
「ホット! ホットミルクを作ってきたよ?」
「ニャアッ!」
飛び起きたホットは、アントベルの肩に飛び乗り、机に置かれたホットミルクの皿を見て、瞳を輝かせている。
「はい、ホット」
「ニャア!」
ホットが机に飛び移り、ホットミルクをペロペロと舐めている。優しい笑顔で2人は、しばらくその様子を見守っていた。
それから少しして、アントベルはトングで枯葉をどかし、アルミホイルと新聞紙で
「はい、焼き芋だよ」
ホットミルクを飲むのに夢中で気づかないホットに、アントベルはくすりと笑い、もう1度、枯葉の中にトングを入れる。先ほどと違い、焼き芋を2つ取り出し、アルミホイルで包み直し、ドニーにそれを渡す。
「ドニーさん、これはドニーさんの分です。あと、ここに塩もありますから、使う時は言ってください」
「ああ、ありがとう、アントベル」
焼き芋を受け取ったドニーは、懐かしそうに目を細める。
「焼き芋──久しぶりだな……。最後に食べたのは5年以上前か?」
「そうですね、俺が学生時代の頃ですから」
ドニーが先に口に含み、アントベルもふーふーと冷ましてから一口食べる。
「久しぶりに食べたけど、おいしいですね?」
「ああ、そうだな」
ふっと微笑み、ドニーは頷いた。
アントベル、ドニー、ホット。みんないる──この雰囲気が、とても幸せで、焼き芋が更に美味しく感じる。
「今度はスイートポテトでも作りますね?」
「ああ。──ありがとう、アントベル」
「ニャア!」
「ホットの分も作るから」
アントベルはホットを撫で、微笑む。
「アレクシスにも、持っていってもいいか?」
「アレクシスに? もちろんですよ! 喜んでくれるといいな」
「ああ、きっと喜ぶ」
2人の周りが優しい空気に包まれる。
兄弟のようで、親子のようで、師弟のような2人の関係。
血のつながらない家族は、幸せそうに笑った。
そろそろ帰ってくる家族。
エリックとコキーユ、アドルフの分も、もうすぐ焼きあがる。
参考サイト様 (敬称略)
焚き火で絶品焼き芋の作り方!おいしくするコツや裏技も紹介!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます