『竜族ドニーとギルバート家』『ドニーとアントベルの実験』1人称と3人称

 数日前、ドニーはアントベルと錬金術のレシピを改良してみた。

 新しいレシピがうまくいくか実験しようと、アントベルと約束した。

 レシピはヘリオフィラからもらったもので、「1度だけ全回復できる耳飾り」だ。

 今回は薬品の浸透力を高める薬草を加え、時間を短縮する。

 アントベルの契約聖獣・ホットは、黒い体としっぽを丸め、椅子の上ですーすー寝ていた。

 ドニーが道具を用意していると、アントベルが実験の材料を持ってきた。

 加工された赤くて丸い石と、何種類かの薬草と果物。

「前回はデクスターさんに用意するのを手伝ってもらいましたけど、今回は1人で用意しました」

 カゴに入っている材料をデスクに置き、アントベルは笑って言った。

「──成長したな、アントベル」

 ドニーは、ふっと顔を綻ばせる。

「はいっ!」

 元気よく返事をした。




「じゃあ、俺が薬草を混ぜますね」

「わかった。俺は、この薬草の皮をむいておく」

「お願いします!」

 大きめのすり鉢を用意し、薬草を分量どおりに入れていく。

 ふと横を見ると、水が宙に浮いていた。


 ドニーさんが、魔法でお湯を沸かしている。


 分厚い薬草の皮をむくには、1度茹でた方が早い。

 お湯を沸かし終わったドニーさんは、浮いたお湯に薬草を放り込む。

「ドニーさん、すみません。そこの薬草を取ってください」

「わかった」

「ありがとうございます」

 器用に片手で薬草を取り、渡してくれる。

 取ってもらった薬草を葉の形がなくなるまですり潰す。

 そこに、果物を加えて潰していく。

 やっぱり気になって、横を見る。

 ドニーさんは、薬草を浮かせたまま、流しにお湯を捨て、氷魔法で冷やす。

 周りの氷を溶かし、手に取って皮をむく。


 いつ見ても、すごい使い方だなー。


 あっ! こっちの作業を終わらせないと!

 慌てて材料を混ぜ始める。

 素早く、こぼさないよう慎重に……。

「アントベル、これを入れてくれ」

「はい!」

 いつの間にか、薬草の皮がむかれてカットされ、小皿に入っていた。

 この薬草を入れれば、粘りのない液体を作れるはず。

「──うまくいくといいな」

 ポツリと呟いてしまう。

「うん? アントベルだから、大丈夫だろう」

 サラッと褒められて驚く。

「ドニーさん、──ありがとうございます」

 最後の薬草を加えて混ぜる。

 ドロドロだった液体が、サラサラと流れていく。

 深呼吸し、近くにあった赤い石を液体に入れる。

 手に魔力を込め、液体に注ぎ込むと、光りを放ち、赤い石に染み込んでいく。

 石が光り出したら、ゆっくりと魔力を弱めていく。

 気を付けないと。急激な変化で壊れることもあるから。

 光が収まり、ピンセットで液体から取り出す。

 水で液体を洗い流し、清潔な布で軽く拭く。

 ここまでくると、あと少しだ。

 心なしか、ドニーさんも緊張しているようで、ホッとした表情を見せた。

 あと、もう少しだ。試してみないと。

 成功しているか、わからない。

「魔法をかけますね」

「ああ」

 回復魔法をかけてみる。

 赤い石の魔力と共鳴し、緑の光が灯る。

「成功ですね!」

「ああ、おめでとう」

 目を細めて笑うドニーさんに、成功したんだと嬉しくなる。

 仕上げに、赤い石にイヤリングのパーツを取り付けて──。


 「1度だけ全回復する耳飾り」の完成!


「良かった!」

「ああ」

 資料室で資料と睨めっこして、努力が報われた気分だった。

 実験がうまくいき、イヤリングを専用のケースにしまう。

 いつかこれを付ける日が来るのかな?


 この耳飾りに相応しい人間になりたい──。





「耳飾りを付けないのか?」

「──いつか付けます」

 そう話すアントベルをドニーは不思議そうに見つめる。

「──そうなのか?」

「はい! ──コーヒー入れますね」

「わかった。お菓子は用意してある」

「ありがとうございます」

 アントベルは、ふわっと笑う。

「ホットも。ミルクを用意するから待ってて」

「ニャア!」

 ホットは返事をした後、椅子から勢いよくアントベルの肩に跳び乗った。

 アントベルは苦笑しながら、ミルクを用意する。


 数分後、嬉しそうにミルクを飲むホットの横で、アントベルはドニーにコーヒーを渡し、席に着く。

「ありがとう」

「どういたしまして。お疲れ様です、ドニーさん」

「アントベルも、お疲れ様」

 2人は、ふっと笑って、コーヒーを一口飲む。

「ヘリオフィラさんに、新しいレシピができたら、教える約束をしてるんですよ。この前、手紙を出したんです」

「──そうか。リフラも元気なのか?」

「リフラさんも、お元気みたいですよ。この前も、薬草採取に行ったとか、ヘリオフィラさんの手紙に書いてありました」

「──俺も、久しぶりに手紙を出そう」

「ドニーさんが手紙を書くなら、良ければ一緒に出しますよ? 新しいレシピと一緒に」

「ああ。頼む。──ありがとう」

「どういたしまして」

 口元を緩めて笑うドニーに、アントベルはにっこり笑って返事をする。


 その後、2人と1匹は、のんびりと休憩したのだった──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る